父が一人で暮らす実家が「ゴミ屋敷」になっていると知ったのは、ほんの数ヶ月前のことでした。几帳面だった父の変わり果てた姿と、足の踏み場もない家の惨状に、私は強いショックを受けました。いてもたってもいられず、私は「私が片付けてあげるから」と、半ば強引に実家の片付けを開始したのです。それが、地獄の始まりでした。初めのうちは、父も隅の方で黙って見ていました。しかし、私が床に散らばっていた古い新聞紙の束をゴミ袋に入れようとした瞬間、事態は一変しました。「それを捨てるな!」今まで聞いたこともないような、鋭い父の怒声が飛んできたのです。私は驚きながらも、「お父さん、これはただの古い新聞だよ。ゴミでしょ?」と返しました。その言葉が引き金でした。父は顔を真っ赤にして立ち上がり、「お前に何がわかる!これは大事なもんだ!勝手なことをするな!出ていけ!」と、私を罵倒し始めたのです。明らかにゴミにしか見えないものを、父は必死で守ろうとしていました。その姿は、私には到底理解できませんでした。私は、父のためを思ってやっているのに、なぜこんなに怒られなければならないのか。悲しさと腹立たしさで、私も感情的になってしまいました。「こんなゴミに囲まれて、病気になるよ!少しは自分の状況をわかってよ!」売り言葉に買い言葉。私たちの間には、修復不可能なほどの深い溝ができてしまいました。その日、私は泣きながら実家を後にしました。良かれと思ってしたことが、父を深く傷つけ、親子関係を壊してしまった。父のあの怒りの形相は、まるで大切な宝物を奪おうとする悪魔を見るかのようでした。私は父を救いたかったはずなのに、結果的に、父の心を最も土足で踏みにじった悪魔になってしまったのです。力ずくの「正義」が、いかに無力で、人を傷つけるものかを、私はこの日、骨身にしみて思い知りました。