書評『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』
(エンリコ・モレッティ/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
・第1章 なぜ「ものづくり」だけではだめなのか
高学歴の若者による「都市型製造業」の限界
中国とウォルマートは貧困層の味方?
先進国の製造業は復活しない
・第2章 イノベーション産業の「乗数効果」
ハイテク関連の雇用には「5倍」の乗数効果がある
新しい雇用、古い雇用、リサイクルされる雇用
・第3章 給料は学歴より住所で決まる
イノベーション産業は一握りの都市部に集中している
上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い
・第4章 「引き寄せ」のパワー
頭脳流出が朗報である理由
イノベーションの拠点は簡単に海外移転できない
・第5章 移住と生活コスト
学歴の低い層ほど地元にとどまる
格差と不動産価格の知られざる関係
・第6章 「貧困の罠」と地域再生の条件
バイオテクノロジー産業とハリウッドの共通点
シリコンバレーができたのは「偶然」だった
・第7章 新たなる「人的資本の世紀」
格差の核心は教育にある
大学進学はきわめてハイリターンの投資
イノベーションの担い手は移民?
移民政策の転換か、自国民の教育か
ローカル・グローバル・エコノミーの時代
著者:エンリコ・モレッティ
 経済学者。カリフォルニア大学バークレー校教授。専門は労働経済学、都市経済学、地域経済学。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際成長センター・都市化プログラムディレクター。サンフランシスコ連邦準備銀行客員研究員、全米経済研究所(NBER)リサーチ・アソシエイト、ロンドンの経済政策研究センター(CEPR)及びボンの労働経済学研究所(IZA)リサーチ・フェローを務める。イタリア生まれ。ボッコーニ大学(ミラノ)卒業。カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.取得。

書評レビュー

イノベーションと都市の関係

本書は、気鋭の若手経済学者が「都市」を切り口に、雇用やイノベーションの未来を語った一冊。「年収は『住むところ』で決まる」というタイトルが目を引きますが、年収のみならず、雇用、産業、文化、教育など多くの点で、今後世界が「浮かぶ都市」と「沈む都市」に分かれる姿が描かれています。

著者はカリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとる、労働経済学、都市経済学を専門とする注目の若手経済学者です。

著者は冒頭でアメリカが誇るイノベーティブな製品の筆頭であるiPhoneの製造工程のほとんどが中国・深センでつくられており、アメリカ人ユーザーの手に届けられるまでにかかわるアメリカ人は配達のドライバーだけであるという例を出します。

しかし、それでもアメリカや日本にはイノベーティブ関連の仕事が残り続けると主張します。なぜでしょうか?これについて著者はイノベーションの地理的要因を次のように語ります。

「バイオテクノロジー関連の研究所やソフトウェア企業をいきなりどこかへ移転させれば、イノベーションを生み出す力を失ってしまうだろう。(中略)孤立した環境では決して革新的なアイデアを生み出せない。

イノベーションを起こすためには、適切な『エコシステム(生態系)』に身を置くことがきわめて重要だ。とくにハイテク分野の企業が成功できるかどうかは、従業員の質だけでなく、地域の経済環境の質にも左右される」

著者はテレビ会議やウェブの発展が進んだ現在においても、投資資金の金流やウェブサイトへのアクセスは、むしろ20年前と比べて一部の土地への集積がさらに加速していることを示しています。

さらに、イノベーティブな仕事は、実は一般的なサービス業(飲食、娯楽、健康など)の雇用も増大させ、さらに情報や人のインフラが集積していくことが示されています。その結果、一握りの都市にイノベーション関連の雇用と資金が一極集中していくのです。

地域経済を活性化させるには?

また本書では地域や都市経済の活性化についても多くの示唆に富む事例があげられています。例えば、10年程以前に、米国では街の住み心地をよくすることで都市の経済を活性化させようとする政策がありました。

「クリエイティブ・クラス(創造階級)」を引き寄せ、都市が繁栄するためには、充実した文化とリベラルな気風が必要であるという前提に立つこの政策にのっとり、アートなどを絡めてさまざまな都市で現在までこの政策が実践されています。

日本でもこれに類する都市計画を多く目にすると思います。しかし、著者はこのように語ります。

「しかしものごとの原因と結果を混同してはならない。成功を収めているイノベーション産業の集積地の歴史を見るとわかるように、多くの場合は、堅実な経済的基盤が形成されたからこそ、その都市に充実した文化とリベラルな雰囲気が生まれたのであって、その逆ではない。」

そして都市を復活させる方法として、詳細は本書に譲りますが、「ビッグ・プッシュ(=大きな一押し)」と呼ばれる、働き手と企業を同時によびよせる政策を実行していくことを提唱しています。

まとめと感想

本書の特長のひとつは、著者の主張が豊富なデータを基に実証的にあげられている点。「浮かぶ都市」に住む高卒の人材のほうが、「沈む都市」の大卒人材より賃金が高いというようなものからマクロなものまで示唆に富んだデータが挙げられています。

本書では基本的にアメリカで何が起こっているかを説いていきますが、これらの事象はやがて日本、そしてゆくゆく現在の新興国にも波及する、大きなトレンドだと思います。

その意味でも雇用経済だけでなく、まちづくりやイノベーションに興味関心がある方にも参考にできる一冊としてお薦めです。ぜひ手に取ってみて下さい。

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