書評『動的平衡ダイアローグ 世界観のパラダイムシフト』
(福岡伸一/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第一章 見えないものに、動的平衡は宿る
-カズオ・イシグロ ― 記憶とは、死に対する部分的な勝利なのです
-佐藤勝彦 ― 「知的生命体」が宇宙にいるのは必然か
-平野啓一郎 ― 複数の「私」を生きる―分人主義とは?
-玄侑宗久 ― 無常の世では「揺らぐ」ことが強さである
第二章 目に映るものは、動的平衡と寄り添う
-ジャレド・ダイアモンド ― 未来の知は「昨日までの世界」に隠されている
-鶴岡真弓 ― 「ケルトの渦巻き」は、うごめく生命そのもの
-隈研吾 ― 建築にも新陳代謝する「細胞」が必要だ
-千住博 ― 「美しい」と感じるのは、生物にとって必要だから
著者:福岡 伸一
 生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2007年に発表した『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)は、サントリー学芸賞および新書大賞を受賞。科学書では異例のベストセラーとなる。ほかに、『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』、『動的平衡2 生命は自由になれるのか』(ともに木楽舎)、『できそこないの男たち』(光文社新書)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、自身の読書歴を綴った『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー新書)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など、著書多数。また、美術にも造詣が深く、世界中のフェルメール作品を鑑賞し『フェルメール 光の王国』(木楽舎)を出版するなど、大のフェルメール好きとしても知られる。

書評レビュー

「動的平衡」とは何か?

本書は、生物学者である著者が、生命の本質を鮮やかに見通し、生命観のパラダイムシフトをもたらす『動的平衡』という考えをテーマに、各界をリードする8人の識者と対談した内容をまとめた一冊。

生物学者として国内外における研究に携わり、またベストセラー作家でもある著者の福岡伸一氏。同氏は、過去に「動的平衡」にまつわる2作品を著しており、本作は「動的平衡3部作シリーズの最終作」と位置づけています。

それでは、同氏の提案する「動的平衡」とは、一体何を意味しているのでしょうか。

『私たちが、生物として自分の身体を感じ、あるいは生物と触れ合ったとき、そこに生命を感じることができるのは、生命の第一義的な特徴として自己複製能を感じるからだろうか。おそらくそうではない。(中略)

私たちは、たとえ言葉にできなかったとしてもそれらが生命の重要な特性であることに気づいている。では、それらは一体、生命の何に由来するのだろうか。』

同氏は、この問いに対する重要な考え方の一つに、生物化学者ルドルフ・シェーンハイマーによる「生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」という言葉を示します。

またもう一つ、万物がエントロピー(乱雑さ)の増大方向に動くという原則の中で、「生物は構成成分の崩壊に先んじてそれらの分解、再構築を行う仕組みを持つことにより、結果的に同原則から免れている」という事象を挙げます。

著者は、上記の「エネルギーを排出し取り込む動き」「構成成分を分解し再構築する動き」という、互いに相反する動きの上に成り立つ同時的な平衡(=バランス)こそが生命の本質であるとし、これを「動的平衡」と名付けたのです。

動的平衡は「生命観」であるとともに「世界観」でもある

同氏は、「動的平衡」は生命観であるとともに世界観でもあり、動的平衡によって生命を再解釈することは、世界を再定義することでもあると述べます。

『近代の思考は、あまりにも(中略)機械論的に生命を、そして世界を捉えすぎてきた。(中略)その必然的な帰結として、私たちがどのようなリベンジを受けつつあるか、それは昨今、起こった様々な災害や事故のことに思いを馳せれば明らかである。』

そこで、これらの機械論的・因果律的な世界観に対するアンチテーゼとして動的平衡を提示し、これに共感した8名の著名人たちとともに、世界の過去・現在・未来を動的平衡の視点から論じ合った内容となっています。

建築家である隈研吾氏との対談においては、「建築も細胞と同様に新陳代謝が必要とされている」といったテーマで盛り上がりを見せるなど、各人ともに動的平衡を切り口とした思いがけない話が興味深く展開していきます。

まとめと感想

本書では、上述した隈研吾氏の他にも、各界を代表する人々と著者との対談がまとめられています。本来、「生命とは何か?」という問いかけへの答えであった「動的平衡」という考え方が、対談の中で「生きるとは何か?」をひも解くヒントとなっている点が興味深く、この言葉のもつ可能性を感じることが出来ます。

実際、対談者は小説、建築、文明、芸術、科学という自身の分野について話をしているにも関わらず、話が深まるにつれ「動的平衡」の考えが姿を表し、著者との思いがけない共鳴を見せます。科学者ならではの稀有な視点が特長の本書は、「よりよく生きること」への気づきが散りばめられた貴重な一冊となっています。

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