- 著者プロフィール
序-1 CIO伝説
序-2 間違いだらけのシステム化
第一章 闘うCIOの本音
第二章 ヤマトグループの現場力 その活性化の仕組みを語る…ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役会長 瀬戸 薫
第三章 銀行経営におけるシステム革新 三井住友銀行の事例から…株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役会長 奥 正之
第四章 損保ジャパングループのシステム構造改革 人と組織とITの20年を振り返る…株式会社損害保険ジャパン 取締役会長 佐藤 正敏
第五章 経営とシステムの一体化の本質…東京コンサルティング株式会社 代表取締役社長 石堂 一成
東京コンサルティング株式会社 代表取締役社長。1948年生まれ。京都大学工学部数理工学科卒業。工学博士。技術士(情報処理部門)。三菱重工業、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、91年、東京コンサルティングを設立、代表取締役に就任。
日本国内をはじめ、欧米や東南アジアにおいて、事業戦略、マーケティング戦略、提携戦略、システム戦略、業務改革、組織改革などのコンサルティングに従事。中でも、システム分野には特に注力し、主として経営の視点から日本の主要企業の改革を支援。外務省のCIO業務なども担当した。
書評レビュー
“CIO”のための一冊
本書は、トヨタ、サントリー、ヤマト運輸といった、錚々たる大企業のCIO(Chief Information Officer)が、「経営とシステムの統合」という一大プロジェクトをどう成し遂げたのかを、実話形式でまとめた一冊です。
昨今、上場企業を中心にシステム関係の最高役員である、CIO(Chief Information Officer=最高情報責任者)という言葉がよく使われるようになってきました。
しかし、筆者は、本当の意味でのCIOと呼べる経営者は多くない、そもそも世の中は、「間違いだらけのシステム化であふれている」とさえ言いきっています。その理由について、筆者はこう述べています。
『本来「情報技術(IT、ICT)」、「情報システム」、「仕事の仕組み」の3つは、それぞれ別のものであるはずなのに、混同されていることが多いのである。』
つまり、本来、ユーザー企業は、自社の本分であるビジネスの仕組みの改革に注力すべき立場です。しかし、ベンダー企業などが行うべきIT、ICTの改革を自社で行おうとするため、ゆがみが発生し、かえって非効率なIT導入が行われてしまうと筆者は述べているのです。
真のCIOの役割とは?
もっとも、筆者は、多くのベンダー(IT)企業は、自社利益を優先するあまり、時に分不相応なシステムの導入を勧めてくることがあると述べています。
高額なシステムを導入したものの、実はシンプルな機能だった以前のシステムの方が使い勝手がよかった、という経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。そのため、企業でIT関連部門の長たるCIOの役割を、筆者は「仕事の仕組みを改革すること。必要であれば情報システムも活用すること」と表現しています。
なぜなら、事業を本当に強化する仕組みの改革を進めるには、経営の観点から事業責任者と連携するとともに、IT、ICTの専門家集団を掌中に入れることが必要だからです。すなわちCIOは、①経営陣の一員、②システム部門の統括責任者、③ユーザー部門の仕組み改革、改善の牽引者、という一人三役をこなす必要があるのです。
また、CIOのみならず、各経営陣も、仕事の仕組みとしての「システム」を自らの現場で見て、理解する必要がある、と筆者は解説しています。
「各現場こそが、顧客に向けた直接的な商品やサービスを生み出し、提供する場であるのだから、その現場を理解しない経営者は、事業の改革を実際に牽引することはできない。」
つまり、IT、ICTは、自社のビジネスとはもはや切っても切れないものであるため、IT、ICTの目利きはCIOに任せつつも、このIT、ICTを活かすための「情報システム」については、すべての経営陣が十分な理解と見識を持つべきだということです。
このように、ただ単に、IT部門を担当する経営者がCIO、という認識では、現代のビジネスシーンにおいて、効率的な業務をこなすことは難しい状況にあります。ユーザー企業がシステムを導入する理由は「業務を効率化するため」なので、筆者が述べるように、CIOはユーザー部門の状況を適時・適切に把握する必要があります。
本書では、トヨタやサントリーといった大企業のCIO、そして経営陣が、経営とシステムの一体化を図るためにどのような施策をとったのか、実例や失敗談を交えながら紹介されていますので、読み応えがあります。(ここまでCIOにフォーカスを当てた本はあまりありません)。
そのため、IT所管部署で今後経営やマネジメントを志向するビジネスパーソンや、「システム投資」を経営視点で考えたい方にお薦めの一冊となっています。
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