書評『起業家はどこで選択を誤るのか―スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ』
(ノーム・ワッサーマン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 イントロダクション
第2章 キャリアのジレンマ
第3章 ソロかチームかのジレンマ
第4章 人間関係のジレンマ
第5章 役割のジレンマ
第6章 報酬のジレンマ
第7章 3Rシステム
第8章 雇用のジレンマ
第9章 投資のジレンマ
第10章 CEO交代のジレンマ
第11章 富かコントロールかのジレンマ
著者:ノーム・ワッサーマン (Noam Wasserman)
 ハーバード・ビジネススクール教授。10年以上に渡り起業家の決断がもたらす影響ついて調査。ハーバード・ビジネススクール優秀教職員賞、米国経営学協会イノベーション教育賞を受賞するなど高く評価され、自身が担当するMBA科目「Founder’s Dilemmas」が、全米トップ10の「アントレプレナーシップ・コース」の1つに選ばれた(インク誌)。また2000年からは、米国、中国、英国、インドなどのテクノロジーとライフサイエンス分野のスタートアップを調査するコンプスタディ(CompStudy)を率いる。ハーバード大学博士、HBS経営学修士。

書評レビュー

起業家が必ず陥る「ジレンマ」

本書は、起業家研究で著名なハーバード・ビジネススクール教授が、スタートアップが必ず陥るという9つの「ジレンマ」を解説した一冊。

起業家は起業を意識し始めてから、選択の連続が続きます。そもそも業界で経験を積んでから起業するのか、大学を飛び出すべきか、また創業資金は自前なのか、調達するのか、…など。そしてそれぞれの選択は、後々に大きな影響を及ぼすします。

逆に言えば、本書で書かれている通り、ビル・ゲイツのような大成功は、起業をめぐる問題に対して、パーフェクトな解答を選択し続けた結果だともいえます。

本書では起業家(ファウンダー)が陥りがちな典型的な9つの選択(しかも2つの解答が対立するジレンマ)について、創業前、創業チーム、創業チームを超えて成長し成功するまで順を追って、そのジレンマの選択肢と本当の意味が明かにされていきます。

著書はハーバードビジネススクール教授で、本書の元となる起業の講義が高く評価されるノーム・ワッサーマン氏。10年間で1万人にも及ぶ調査データと、研究者ならではの緻密な分析によって本書が進められていきます。

「富とコントロール」のジレンマ

著者は、キャリア選択、創業メンバー、雇用、投資家などをめぐる9つのジレンマが解説されていますが、最も一般的かつ難しいものとして、ファウンダーの「富」と「コントロール」のジレンマを挙げています。

著者は調査データから、人が起業家になる動機として最も大きな2つが、富を築くこと(経済的成功の動機)と、自分なりのやり方で仕事に取り組む、個人的な夢を実現する…などのコントロールの動機であることを示します。

問題はこの富とコントロールが基本的には両立しえないという点です。

なぜならチャンスに乗って事業の価値を最大化するには、人、モノ、金の調達が必要となりますが、通常それらを手に入れるたびに、株、決定権などのコントロールを手放さなければならないからです。それゆえこれは創業時からずっと起こり続ける「ジレンマ」になります。

富と権力に優劣をつける話ではありませんが、それでは起業家は、どちらをどのような理由で選択すればよいのでしょうか?

著者はそれを考えるには、やはり「自分自身の動機」を知ることが最善の方法となると語っています。

「自分にとっての最大の動機が富なのかコントロールなのかを理解しているファウンダーは決断を下す際に比較的迷いが少なく、また一貫性のある決断を下すことができる。それにより、目指す結果―「リッチ」か「キング」か―にたどり着く可能性が高まる。」

著者はこの問題に関しては、最終章でも1章を割き、事例をケーススタディに、実際に起こったことと想定できたシナリオ、そして富とコントロールを両立させるシナリオなども検証し、ベストな道を探っています。

まとめと感想

本書ではほかにも「3R」というフレームワークが示されています。詳細は本書にゆずりますが、3つのRとはRelationships(人間関係)、Roles(役割)、Rewards(報酬)のことで、それぞれに典型的に発生する問題と対応方法が紹介されています。

本書ではほかにも取締役会の役割、資金調達後の変化、上場すべきか否か、など興味深いテーマについてデータと事例をもとに説得力のある内容が展開されます。

取り上げらえる起業家事例も、シリアル・アントレプレナーとして著名なTwitterの共同創業者エヴァン・ウィリアムスの「人」の失敗など読み物としても興味深い一冊です。

500ページ以上と骨のある本ですが、なかなか他では読めない濃いデータが凝縮されていますので、すでに創業や経営を行っている方、起業を志す方のみならず、企業内で新規事業や資金を出す側の方などの意思決定に役立つであろう一冊です。

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