書評『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』
(カレン・フェラン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
はじめに 御社をつぶしたのは私です
Introduction 大手ファームは無意味なことばかりさせている
第1章 「戦略計画」は何の役にも立たない
第2章 「最適化プロセス」は机上の空論
第3章 「数値目標」が組織を振り回す
第4章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち
第5章 「マネジメントモデル」なんていらない
第6章 「人材開発プログラム」には絶対に参加するな
第7章 「リーダーシップ開発」で食べている人たち
第8章 「ベストプラクティス」は“奇跡”のダイエット食品
著者:カレン・フェラン(Karen Phelan)
 経営コンサルタント。マサチューセッツ工科大学(MIT)および同大学院を卒業後、大手会計事務所系コンサルティングファーム「デロイト・ハスキンズ&セルズ」(現デロイト・トウシュ・トーマツ)、戦略系コンサルティングファーム「ジェミニ・コンサルティング」等で、戦略、オペレーション、組織開発、IT分野の経営コンサルタントとして活躍。また、問題解決、企画立案、コミュニケーションスキル等について、クライアント企業向けおよびコンサルタント向けに、さまざまな研修コースを開発し、みずから講師も務めた。その後、製薬大手ファイザーに転職して研修部門を立ち上げたのち、コンシューマービジネス部門のアジア太平洋地域のIT担当マネージャーを、続いてジョンソン・エンド・ジョンソンではコンシューマービジネス部門のオンラインマーケティング担当マネージャーを務めた。現在はオペレーティング・プリンシパルズ社の共同設立者となり、再び経営コンサルタントとして活動している。約30年のキャリアと豊富な経験をもとに、煩雑で官僚的な人事制度を廃し、対話と人間関係と職務適性を重視した、シンプルで効果的な人材マネジメントを提唱している。
夫とふたりの息子とともに米国ニュージャージー州に在住。

書評レビュー

大手ファーム出身コンサルタントの衝撃の告白

本日ご紹介するのは、大手コンサルティングファーム出身の著者が、企業とコンサルティングを巡る間違った現状と正しい在り方を、業界の内幕を明らにしつつ解き明かした一冊。

著者はMITの大学院を卒業し、現在のデロイト・トーシュ・トーマツ、ジェミニ・コンサルティングなどで戦略コンサルタントとして経験を積み、ファイザーやジョンソン・アンド・ジョンソンなどの事業会社などでもマネジャーとして活躍した人物です。

彼女の目から見た、自身も売り込んだ数々の戦略手法や「ベストプラクティス」がいかに間違っていたのか、企業はどのようにコンサルティングとかかわっていけばいいのかが、嫌味ではなくユーモアを交えた筆致で描かれています。

刺激的なタイトルが目を引きますが、戦略、業務プロセス改善(BPR)、業績管理システム、マネジメント、人材開発・リーダーシップ研修など、いわゆる「経営課題」が丹念に書かれた内容で、それぞれの論点や通説を概観するのにも役立つ一冊だと思います。

例えば、企業戦略だけを見てみても、ポーターの「競争戦略」、「コア・コンピタンス戦略」、「ブルーオーシャン戦略」、「適応戦略」など続々と新しいモデルが登場してはすたれていっているのが現状です。

著者は「理論の正しさを証明するのは、あらゆる状況で成立することを証明しなければならない」という科学的な思考にもとづいて本書を進め、間違っているとわかりきっている経営手法ではなく、少しでも効果のありそうなものを行うべきである、と主張しています。

エンロンを崩壊させた人材開発制度

例えば、「人材開発プログラム」について、コンサルタントのせいで会社がつぶれた例として紹介されているのが「エンロン事件」です。

エンロン社の巨額の粉飾決算事件で、監査にかかわったアンダーセン・コンサルティングも糾弾されましたが、著者は、事件時のCEO(マッキンゼー出身)が、当時マッキンゼーが提唱していた「スター制度」と呼ばれる人材育成手法をとっていたことにこそ着目すべきと語ります。

これは社員をA・B・Cの3つのランクに分類し、上位から多額の報酬と裁量権を持たせていくいわゆる「タレント・マネジメント」方式です。

多かれ少なかれこの手法を取り入れている企業は多いように思いますが、著者はエンロンを転落させた最大の原因が、この社員の「ランク分け」にあったとして、次のように述べています。

「どうしてこの制度がエンロンの崩壊につながったのか。それは、社員のあいだに熾烈な競争や、なにをやっても構わないような風潮が生まれ、過度のリスクテイキングやごまかしが横行したからだ。

優秀なスター社員は、自分には才能があるのだから絶対にしくじるはずがない、と高をくくっていた(中略)失敗はマイナスとみなされず、むしろ挑戦する勇気があるしるしであり、Aクラスの人材たる証とみなされた。」

つまり、Aクラス人材とされた人間を「暴走」させるシステムが、結果としてさまざまな不正の温床になったことを指摘しているのです。

詳細は本書に譲りますが、さらに著者はそもそも社員の評価を固定的にランキングすること(評価は能力なのか環境で決まるのか)や、「優秀」「並」「ダメなやつ」などのレッテルによる「ラベリング効果」などの問題点を指摘し、あるべきシンプルな人材管理手法について提言しています。

まとめと感想

著者は専門用語や見かけ倒しの方法論を使いこなす、いわゆる大手コンサルティングファーム業界の「不」の側面を手厳しく批判していますが、経営コンサルティングの必要性自体を否定しているわけではありません。

「メソッドやベストプラクティスやビジネスソリューションを実行するまえに、それを実行したらどのような影響が出るかについて、あらかじめよく考えることだ」と語っているように、他社で成果が出ているからといってそれを実行することが正しいとは限りません。

その点本書は、自ら思考することや、戦略コンサルタントとの正しい付き合い方を促す良書です。特に経営層やマネジメント層など、企業の意思決定に責任を持つ職務を担当する方にお薦めできる一冊です。

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