書評『領域を超える経営学 グローバル経営の本質を「知の系譜」で読み解く』
(琴坂 将広/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 経営学の二面性
第2章 経営学は領域を超える
第3章 多国籍企業とは何か
第4章 多国籍企業はいつ生まれたのか
第5章 権力と技術で発展する多国籍企業
第6章 セミ・グローバリゼーション時代の到来
第7章 多国籍企業と国際経済学
第8章 企業はなぜ、海外に進出するのか
第9章 「国際」とは何を意味するのか
第10章 黎明期を迎えた国際経営戦略論…ほか計23章
著者:琴坂将広
立命館大学経営学部国際経営学科准教授。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時には、小売・ITの領域において3社を起業、4年間にわたり経営に携わる。
大学卒業後、2004年から、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9ヵ国において新規事業、経営戦略策定のプロジェクトに関わる。
ハイテク、消費財、食品、エネルギー、物流、官公庁など多様な事業領域における国際経営の知見を広め、世界60ヵ国・200都市以上を訪れた。
2008年に同社退職後、オックスフォード大学大学院経営学研究科に進学し、2009年に優等修士号(経営研究)を取得。大学の助手を務めると同時に、国際経営論の研究を進める。
在籍中は、非常勤のコンサルティングに関わりながら、ヨットセーリングの大学代表選手に選出されるなど、研究・教育以外にも精力的に活動した。
2013年に博士号(経営学)を取得し、同年に現職。専門は国際化戦略。
共編著に『マッキンゼーITの本質』(ダイヤモンド社)、分担著に『East Asian Capitalism』(オックスフォード大学出版局)などがある。

書評レビュー

「経営者×マッキンゼー×経営学者」の観点から見た最先端のグローバル経営学

本書は、世界の名だたるビジネススクールで学ばれている「最旬の経営学」を、起業経験者にしてマッキンゼー卒業者でもある経営学者が、「経営者×マッキンゼー×経営学者」の観点から解き明かした一冊です。

著者は、大学在学中に複数社の起業を経験しているシリアル・アントレプレナーであり、マッキンゼー入社後は経営戦略のプロジェクトを数多く経験するなど、非常に実務経験豊富な人物。

その後、オックスフォード大学でMBAを取得し、現在は国際経営論を専攻とする経営学者としても活躍するなど、「経営者」「コンサルタント」「経営学者」と、様々な観点から「経営」に携わってきた、いわばプロの経営学者です。

本書は、著者が以前学んでいたオックスフォード大学をはじめ、世界の名だたるビジネススクールの「最旬」の経営理論や概念を紹介するとともに、これを実務経験豊富な経営学者でもある著者が、実際のビジネスシーンに落とし込めるように分かりやすく解説されています。

特に、国際経営、グローバル経営、国際経営戦略といった、グローバリゼーションが進んだ昨今においてマストな分野について、重点的に紹介されているのが、本書の特長です。

経営戦略と「国際」経営戦略の違い

グローバリゼーションが進んだ現代では、日本企業にとっても自国であるはずの「日本」はあくまでもローカルマーケットの1つとして捉えねばならず、グローバルな視点で経営を行う必要があります。

例えば、ソニーの新製品である「プレイステーション4」を例にとると、ソニーのお膝元である日本では今年の2月に発売されましたが、欧米では実は先行して昨年11月に発売されています。そして、2014年3月期の目標である販売台数500万台を、欧米の先行発売だけでクリアしている状況にあります。

これにはいろいろな側面があるのでしょうが、少なくとも、日本を中心に戦略を立案するのではなく、グローバルマーケットで最適解を求めた結果、欧米での先行発売を決定したと言えるのではないでしょうか。

このような複数の国々にまたがった経営戦略、つまり「国際」経営戦略と、1つの国だけをフィールドとした単なる経営戦略との違いを著者はこのように解説しています。

『第一に、性質の異なる複数の市場を同時並行的に運営することが求められる事実。そして、第二に、それに伴うグローバル統合と現地適合の間の対立に戦略としての答えを出す必要性。これが、国際という名がつく経営戦略が、その名のつかない経営戦略との異なる点なのです。』

ここで重要なのは、各ローカルマーケットの多様性を理解した上で、自社の優位性、リソースなどを柔軟に適応させ、一連の経営戦略として落とし込み、組織に反映させることができるかどうかです。

「価値連鎖の戦略」の重要性

著者はまた、現在のように、より多くの国の多数の企業が連携して1つの製品を作り出す時代においては、「価値連鎖の戦略」が重要になると述べています。

この「価値連鎖の戦略」は、簡単に言うと、価値生産のネットワークにおいて、優位なポジションをとり自社の利益を確保しようというもので、この考え方自体は、目新しいものではありません。

しかし、部品メーカーをはじめとする関係各社の文化的、制度的、地理的な広がりにより、グローバルマーケットで戦っていくためには、この「価値連鎖の戦略」の重要性が高まっており、より細分化された各業務での最適な価値連鎖の設計が求めるようになったのです。

『自社の競争力を最適化できるような世界的な価値連鎖の構造を目指して、まずは自社の事業を取り巻く価値連鎖の構造を理解する必要があります。そして、価値連鎖の統治権を巡る戦いに参画し、できる限り他の参加者に対して交渉力を発揮できるように尽力すべきです。』

アップルのiPhone 4Sは、平均卸値655ドルのうち455ドルをとっていますが、これは競争力のある完成品を持つメーカーが、価値連鎖の中で大きな影響力を示している一例です。

まとめと感想

本書は、400ページを超えるボリュームですが、学術的なアプローチに終始せず、実務経験が豊富な著者によるフィルターを通じて咀嚼された解説が紹介されていますので、最後まで飽きることなく読み進めることができました。

今回はご紹介したもの以外にも、「100年後の市場を予測する」では、国家単位から都市単位でマーケットを考える時代がくることを予測するなど、他にも興味深い内容と事例が多数紹介されています。全てのビジネスパーソンにお薦めしたい一冊となっています。

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