- 著者プロフィール
第2章 2024年・テレビ業界激変で消滅するものは何か?―業界を滅ぼすモノはすでに家庭内に入り込んでいる
第3章 2024年のエネルギー業界の意外な敗者―電力・エネルギー業界を待ち受ける運命
第4章 2024年の外食産業における勝ち残る条件―「死の谷」の宿命をかかえた業界プレイヤーの未来
第5章 2024年の銀行業界へのしっぺ返し―巨大銀行に未来はあるのだろうか?
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役社長。東京大学工学部物理工学科卒業後、ボストンコンサルティンググループ入社。企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、独立し同社を創業。
書評レビュー
本書は戦略コンサルタントとして著名な鈴木貴博氏が、「シナリオプランニング」を用いた未来分析(予測)を解説した一冊。
鈴木氏といえば、かの有名なボストンコンサルティンググループに入社後、ネットイヤーグループの設立に参画し、その後、自身でイノベーションを専門とする百年コンサルタントを立ち上げた人物。「戦略思考トレーニング」など、経営戦略系の著書を多数執筆しています。
シナリオプランニングの重要性
シナリオプランニングとは、未来に起こる可能性のあるいくつかの要素を前提において、これらが実際に起きたときにどのような未来になるのかを具体的にイメージし、その際に自社がどのような対処をするのかを事前に考える、という経営手法です。
古くは、石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルがこのシナリオプランニングを活用した結果、1970年代に起きたオイルショックの際に他社が混乱する中で迅速に対応を行うことができ、業界7位から一気に2位まで順位を上げたことで有名です。
また、最近では、ビジネス環境の変化のスピードが以前にもまして速くなっていることから、未来を予測し経営戦略を練るシナリオプランニングの重要性は非常に高まっています。
もっとも、シナリオプランニングに必要な要素は、不確定なものが多く、実際に行うとなると難しいものがあります。しかし、著者は、現時点において、確実に予測できることが2つあると述べています。
それは、「人口動態」と「技術革新」です。特に「技術革新」は、予測できても、人によって見え方・とらえ方は変わることから、他社に先んじるチャンスはここにあるのです。
例えば、本書で例として挙げられているのは任天堂。
携帯電話の技術革新に着目し、「携帯電話でゲームをすると任天堂は赤字になる」という指摘をしていた著者の声はなかなか届かなかったのですが、その後、任天堂は赤字に転落し、現在新たなビジネスモデルを模索している最中です。
本書は、この「技術革新」に注目して、シナリオプランニングの重要性を解説しています。
2024年・トヨタは生き残っているのか?
トヨタといえば、一時期円高に苦しみましたが、コスト削減の徹底や販売台数の増加により、2014年3月期には過去最高益の達成を予想するなど、グローバル企業として盤石の地位を築いているように見えます。
そんなトヨタが今から10年後の2024年に生き残っているのでしょうか?
一般的に考えたら、円高の苦しい時期を乗り越えてなお最高益を出すトヨタが生き残っていないはずはないだろうと思う方が大多数だと思います。
しかし、著者は、現在すでに顕在化している2つの技術革新(イノベーション)が、自動車業界を破壊し、現在の業界のトッププレイヤーたちが一気に入れ替わる可能性があると指摘しています。
・ちゃちで安価な新興国製の電気自動車(2020年頃)
・シリコンバレー製の自動操縦車(2024年頃)
例えば電気自動車ですが、こちらは、新興国製の電気自動車がすでに市場に投入されています。
デジカメが初めて市場に投入された当時、一眼レフと比較して「おもちゃのようだ」と揶揄されていたにも関わらず、その後、一気に市場を席巻してしまい、コダックをはじめとするフィルムメーカーは淘汰されてしまいました。
現在、市場に投入されている電気自動車は確かに、トヨタのような自動車と比較すれば「おもちゃのような」ものかもしれませんが、今後さらなる技術革新が進みます。
そうなると「エンジンを開発できる」トヨタではなく、「モーター」を開発できる名の無い企業でさえも、業界のイニシアティブをとることが可能になるのです。
そして、著者は、グーグルを中心に実用化に向けて進んでいる「自動操縦車」の実用化を受けて、2024年には、自動車業界はこのようになると予測しています。
そして、このソフトウェアの開発については、トヨタがグーグルやアップルのようなIT企業に勝つことができるのか想像してほしい、と著者は警鐘を鳴らしています。
まとめと感想
本書は、やみくもに危機感をあおるのではなく、本書で紹介されているような未来予測からシナリオ思考力の重要性を啓蒙することを目的として執筆されています。
我々が生きているビジネス環境は10年間で大きく変わる可能性を秘めていますので、本書で紹介されているシナリオプランニングは、企業のトップマネジメントや戦略・企画系の業務に従事している方にとても参考になると思います。
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