書評『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』
(ヴォルフガング・ヒュアヴェーガー/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 レッドブルとは何者か?
PARTI 52億本への道
PARTII スポーツ・マーケティング
PARTIII レッドブル帝国の正体
PARTIV 創業者の横顔
終章 ブルのこれから
解説 楠木建
著者:ヴォルフガング ヒュアヴェーガー
 1971年生まれ。政治学、ジャーナリズム、ロシア語を専攻。オーストリアのザルツブルグ在住。執筆活動のほか、ザルツブルグとウィーンの新聞の編集者として活躍。

書評レビュー

知られざるオーストリアの5,000億円企業「レッドブル」

ここ数年日本でも急速に浸透してきた感のある、エナジー・ドリンク「レッドブル」の企業体としての秘密に迫った一冊。実は、よくある「なぜ○○は××なのか?」と人をあおるタイトルでも中身は…の類の本かと思ったのですが、マーケティングと経営論としても非常に興味深い内容でした。

レッドブルがどれくらいすごいのかというと、2011年度実績で、全世界165ヶ国で販売数52億本(世界人口の2/3が年に1度は飲んでいる計算)、売上高は約5,500億円、創業者の個人資産は53億ユーロ(約7,000億円)、F1参戦、サッカークラブ買収…など、エピソードに事欠きません。

最近のエナジー・ドリンク市場の活況を見ても、まさに市場を創造したともいえる企業だと思います。ちなみにレッドブルのシェアはエナジードリンク市場の70%を占めているようです。

詳細は本書に譲りますが、レッドブルは、エクストリームスポーツ(モータースポーツ、BMX、スノーボード、スケート…など)のスポンサードで「過激、危険、イケてる」というブランディングで一気に知名度をあげてきました。

また、自社では生産せず、マーケティング・広告宣伝・ブランディングに特化した経営スタイルも独自で、あえて上場していません。

そして、銀行からの借り入れもせず、ユーロ圏で飲料のみならず複数のグループ企業を経営する一大コングロマリットであることが明かされています。
この書評では、本書から知られざるレッドブルの「なぜ?」についていくつか紹介していきます。

レッドブルはなぜ高いのか?

コンビニで見かけるほかのドリンクより明らかに高い価格で販売されているレッドブルですが、その価格戦略についても触れられています。

「専門家が計算したところによると、ドリンク一本の価格から材料費やその他の経費を差し引いた利幅は、にわかには信じがたい70パーセントという数字になるそうだ。安価な製品を売るライバル企業が数多く存在するにもかかわらず、マテシッツはこの高値戦略を変更しようとはまったく考えたことがないようだ。(中略)

消費者が求めているのは飲み物ではなく、エキサイティングな体験、生きる喜びなのだ。そのためには本来の商品価値よりもはるかに高い対価を支払うことに、消費者はためらいを感じない。」

つまりは消費者が「レッドブル」に感じるブランド価値が高価格の源泉なのですが、製品をただの飲み物ではなく「エキサイティングな体験」という「コト消費」として定義し、「唯一無二」の存在となったことがその要因といえそうです。

レッドブルはなぜ効くのか?

レッドブルにはタウリンと高濃度カフェインが含まれた栄養ドリンクなのですが、(※日本では「医薬品」指定を避けるため、タウリンではなくアルギニンが配合されており、分類は「清涼飲料水」)以下のようなエピソードが紹介されています。

「フランスは長年、マシテッツのドリンクをカフェイン含有量が高すぎるとして禁止してきた。フランスの当局は、このドリンクを過度に摂取すると、健康被害を生じる恐れがあるとしている。特に1999年にダブリンで起こった18歳のアイルランド人バスケットボール選手ロス・クーニーの死亡事故を問題視していた。」

実際に死亡事故との因果は本書では読み取れなかったのですが、その後、フランスでも日本同様タウリンをアルギニンに置き換え、販売が許可されています。

そしてこの「禁止されたドリンク」というイメージも、逆にターゲット層にとっては魅力的に映った点が指摘されています。

レッドブルはなぜあのCMなのか?

「レッドブル、翼を授ける」という独自のCMを記憶されている方も多いと思いますが、レッドブルは売上の1/3を広告とブランド育成に費やしています(2011年で推定14億ユーロ=約1,800億円)。

そして、その戦略にも独自のものがあり、広告からイベント開催までほとんどを自社で手がけ、厳格にブランドをコントロールしているようです。

「レッドブルの方針は終始一貫している。なんらかのイベントに関与する場合には、必ずレッドブルの名のもとに、メインスポンサーとして参加する。(中略)レッドブルが開催するイベントや支援するアスリートの撮影は、会社が準備したカメラクルーやカメラマンが行い、ビデオや写真、あるいはコメントやインタビューは無料でマスコミに配布される。

マスコミはそれを利用することにより、缶ドリンク帝国の宣伝に無料で加担する。(中略)『通常の手段』つまりCM枠の購入や広告記事の掲載などを通じて確保するとしたら、14億ユーロの広告費ではまったく足りないであろう。」

レッドブルから何を学ぶか?

本書の解説は「ストーリーとしての競争戦略」の著者である経営学者の楠木健氏が書かれているのですが、逆説的に「この本から学んではいけないこと」が書かれています。

以下2点です。
・本書はスポーツ・マーケテイングのベストプラクティス指南書ではない。
レッドブルはエクストリームスポーツとエキサイティングな飲料という、一貫した同社固有文脈がある。

・『独創的なビジネスモデルに学べ』という話ではない。
レッドブルはビジネスモデルがユニークだったから世界的ブランドになれたわけではない。

そして本書から学ぶべきこととして、以下のように述べています。

「本書から学ぶべき本質的な論点は、スポーツマーケティングでもビジネスモデルでもない。奇想天外な会社に見えるレッドブルだが、その実、創業者であるディートリッヒ・マテシッツは商売の原理原則に忠実な王道を行く経営者である。それだけに、彼の思考と行動からは普遍的な教訓が引き出せる。」

まとめと感想

本書ではほかにも、どのようにこのブランドが誕生し、世界へ広がっていったのか、がよくわかる内容となっています。実践的マーケティングと、ユーロ圏では「レッドブル帝国」と言われるほど一代で富を築き上げた創業者の伝記としても面白い一冊です。

ブランディングが成熟して、「感度が高くてイケてる人」のものからより一般的なものになってきた時、どのような戦略を打ってくるのでしょうか、気になるブランドの一つです。

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