書評『世界最高MBAの授業』
(佐藤 智恵/著)

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  • 著者プロフィール
ハーバードビジネススクール(1)
スタンフォード大学ビジネススクール(1)
ペンシルバニア大学ウォートンスクール
ノースウェスタン大学ケロッグスクール・オブ・マネジメント
コロンビアビジネススクール
MITスローンスクール・オブ・マネジメント
シカゴ大学ブースビジネススクール
ミシガン大学ロスビジネススクール
ダートマス大学タックビジネススクール
デューク大学フュークアビジネススクール
UCバークレー校ハースビジネススクール
ロンドンビジネススクール
INSEAD
ハーバードビジネススクール(2)
スタンフォード大学ビジネススクール(2)
著者:佐藤 智恵
 1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、退局。2000年1月米コロンビアビジネススクール留学、翌年5月MBA(経営学修士)取得。株式会社ボストン コンサルティング グループ、外資系テレビ局等を経て、2012年より独立。主な著書に『ゼロからのMBA』(新潮社)、『外資系の流儀』(新潮新書)。

書評レビュー

世界に名だたる有名ビジネススクールの授業を模擬体験

 ハーバード、スタンフォード、MIT、ペンシルバニア大学ウォートン校・・・、本書『世界最高MBAの授業』では、これらの世界で最も入学するのが難しいと言われるビジネススクール13校の授業のエッセンスを紹介した一冊です。

 この13校に実際に在籍した日本人学生が選んだ、「最も印象に残った授業」のエッセンスが実話形式で紹介されているのですが、現在のビジネススクールの授業には以下のようないくつかのトレンドがあるとのこと。

・最先端のトピックスを扱う授業では、過去の「ケース・メソッド」は使わず、「実習」「演習」と呼ばれる授業が行われている

・以前は、会計、財務オペレーションといったハードスキル(専門知識)が授業のメインだったが、現在では、倫理、コミュニケーションといったソフトスキルを中心としたリーダーシップ教育が、授業のトレンド

 これらは、ビジネス環境の変化への対応や、エンロン事件(アメリカ経済を揺るがした巨額粉飾決算事件)で逮捕された元CEOが、ハーバードビジネススクール卒業生であり、ハードスキル中心の授業に批判が集まったためだとされています。

 筆者は、このようなトレンドを把握し、かつ、グローバル時代を生き抜くための「知」を身につけるためには、やはり実際に授業を受ける必要があると解説しています。

一方で、ビジネススクールの学費は2年間で12万ドルと高額に上ることから、なかなか気軽に授業を受けることはできません。そこで、実際の日本人卒業生に協力を仰ぎ、本書を執筆するに至ったのです。この書評では、スタンフォード大学で実際に教えられている「リーダーシップ論」についてご紹介します。

スタンフォード流 修羅場のリーダーシップ

 スタンフォード大学ビジネススクールのロバート・ジョス名誉教授は、世界各国の名だたる銀行などでCEOを勤めた人物です。そんな教授が説くリーダーシップ論の中心にあるのは「インテグリティ(Integrity=清廉さ)」です。

 このインテグリティとチーム全体のパフォーマンスを上げることのバランスをどうやってとるのか、教授はリーマンショックの時のある実話を紹介したそうです。

 それは、リーマンショックの影響で、ある金融機関の一部門が閉鎖されることとなり、その部門長のAさんは閉鎖の決定後、部下の再就職先を探すのに奔走し、最後の一人の就職先が決まるまで会社に残り続けた。

 その結果、Aさん自身は再就職のタイミングを逃してしまった。Aさんの決断は正しかったのだろうか?というものです。このケースに対するジョス教授の答えは次のようなものでした。

「私は、リーダーシップには強いオーナーシップ(自分はリーダーであるという当事者意識)が不可欠であり、オーナーシップを持つとは、チームメンバーに対して『心から思いやりをもつこと』であると信じている。難しい判断に立たされる中、最後までオーナーシップを貫くことを選んだAさんは、真のリーダーだと思う。」

また、別のケースでは以下のようにも説いています。

「リーダーは組織の鏡であり、象徴だ。組織に規律をもたらしたいのであれば、リーダー自らが規律を体現しなくてはならない。チームが成果をあげていないのであれば、リーダーたる自分自身を見つめなおすことも必要だ。」

 エンロン事件では、自社の利益を追求するために多額の簿外債務を隠ぺいした結果、経営破綻し、従業員やその家族、取引先などの多数の人々に大きな影響を与えてしまいました。

 世界各国の大企業のCEOを務めた人物である教授が、会社の収益を軽んじているはずがありません。それでも教授は、やはり真のリーダーシップには、インテグリティ(清廉さ)が重要だと主張しているのです。

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 本書では、世界最難関ビジネススクールの旬な授業のエッセンスが掲載されていますので、MBAのみならず、最近のビジネスシーンのトレンドも学べる一冊とも言えると思います。リーダーシップ論を中心に紹介されていますので、マネジメントを学ぶ上で大いに参考になる内容となっています。

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