書評『セブン&アイHLDGS. 9兆円企業の秘密』
(朝永 久見雄/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 オムニチャネル挑戦への序章
第2章 セブン&アイ・ホールディングスの目指すもの
第3章 セブン銀行
第4章 ロフト
第5章 赤ちゃん本舗
第6章 セブンネットショッピング
第7章 ヨークベニマル
第8章 セブン-イレブン・ジャパン
第9章 7 Eleven,Inc.
第10章 イトーヨーカ堂
第11章 セブン&アイ・フードシステムズ
第12章 そごう・西武
最終章
著者:朝永久見雄
 東京三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、ドイツ証券、JPモルガン証券、シティグループ証券在籍中の2001年から2012年まで日本経済新聞のアナリストランキング小売り部門で12年連続でトップ、百貨店、コンビニ、スーパーでの現場研修を受けるなど、長年に亘り国内小売セクターを代表するアナリストとして高い評価を受ける。青山学院大学卒業後、中央信託銀行(現三井住友信託銀行)に11年間勤務し、ファンドマネージャーとして株式、債券の運用にも従事。日本経済新聞のアナリストランキング専門店小売りで3位の廣田千晶氏と共同で、本年1月に小売業界に特化したコンサルティング会社Hidden Gems(隠れた宝石)を設立し、共同代表パートナーに就任。

書評レビュー

「オム二チャネル企業」とは何か

 本書は小売り・流通業界の人気アナリストが、セブンイレブンだけでなく、連結売上高9兆円を計上する、グループとしてのセブン&アイHDDGSの強さの秘密に迫った一冊です。セブンイレブン、イトーヨーカ堂に関する著作は多くあれど、グループ全体の複合的価値を示した書籍としては本書が初ということです。

 著者は、大手証券会社在籍中の2001年から2012年まで日経アナリストランキング(小売り部門)で12年連続でトップを獲得したという、小売業界の専門家。タイトルにもなっている、オムニチャネルとは、耳慣れない言葉かもしれませんが、以下のように定義されています。

「消費者が、リアル店舗、スマホ、パソコン、テレビなどオムニ(全て)の環境で継ぎ目なく(シームレス)買い物をするようになるオムニチャネルの時代」

 著者はこのオムニという言葉こそ来年(2014年)の流行語になる!とまで語り、実際に海外での浸透度は高いようです。セブン・アンド・アイ・ホールディングスは、オムニチャネルリテイラー(小売り)として、世界最強になる潜在力を秘めている、というのが本書の主張です。

ではなぜ、そのような可能性を秘めているのか、著者は以下の7つの要因を挙げています。

セブンイレブンが世界最強のオムニチャネルリテイラーになれる7つの要因

①:1万5,000店を超えるセブン・イレブンの拠点がある
②:コンビニから百貨店までを傘下に持つ幅広い商品力を持っている。※日本の消費者は、海外のように富裕層は高級百貨店、一般階級の人はショッピングモールを使うというような階層分化があまりなく、同じ人が高級ブランドも安い商品も買うという特徴がある。
③:セブン銀行を設立したことで1万8,000台もの現金の入出金拠点を持っている
④:市場認知率96%、出産する母親の約半分が利用する「赤ちゃん本舗」を起点に送客できる
⑤:65万アイテムに及ぶ非生活必需品を扱うロフトがロングテール商品を提供できる
⑥:ヨークベニマルの「野を越え山越え」精神に代表されるお客様の立場での提案力がある
⑦:イトーヨーカ堂の創業精神がひきつがれ、経営そのものが社会貢献活動と一体となっているCSRに取り組んでいる

 それぞれの詳細が、赤ちゃん本舗、LOFT、セブン銀行、ヨークベニマル、イトーヨーカ堂などの事例を通じて詳細に説明されていきます。詳しい内容はぜひ本書でご確認ください。この書評では、セブン銀行の取り組みについて紹介していきます。

全くの異業種参入から成功した「セブン銀行」

 2001年に始まったセブン銀行(旧アイワイバンク)ですが、実は2013年3月期で売上高800億円、経常利益320億を計上する、高収益企業です。また、全国のセブンイレブンに設置されたATMは1万8,000台と、もはや生活インフラとなりつつあります。

 セブン銀行は決済専門銀行なので、収益源は基本的にはATMの手数料収入のみですが、異業種参入ということもあり、「収益源がATMだけで成立するはずがない」という反対が業界内でも多数でした。

 しかし、鈴木敏文会長のリーダーシップ、「お客様の立場」からの発想と、小売りで蓄積したオペレーション能力で現在の高収益を築いています。その成功要因をいくつか見ていきます。

 セブン銀行はビジネスモデル全体が新しい発想から始まったので、機能面、コスト面とも従来とは大きく異なっています。まず、コスト面では、それまでは800万円以上かかっていたとされているATM自体のコストを250万円程度まで削減しています。

 そして、従業員数はたったの100人程度で、初年度から都銀1行分の半分近いATMを稼働させ、北海道全域で約300台を一斉稼働させるなど、それまでの常識では全く考えられないビジネスモデルでのスタートでした。

 これは、従来のATMが、コンピューター処理、システム監視、警備、電話と4回線あったものを1回線にまとめあげるといった地道なコスト削減によるものです。また、頻度の高い現金補充なども、店舗でのATM補充を可能にするなど、異業種出身ならではの合理化を進めました。

 しかし、利用件数が伸び悩み、2年目までは赤字でした。それもかなり巨額で、1年目▲122億円、2年目▲82億円という規模です。しかし3年目に大きな決断をし、一気に黒字化を達成します。

 ここでは、セブン銀行は当初の計画を捨て、「セブンイレブン全店設置」という大きな方針の変更を決断したのでした。これこそ、鈴木敏文会長が創業以来徹底しているドミナントの考え方そのものです。この後のATM設置は「必ずエリアの全てのセブン-イレブンに設置する」となり、その後も継続的に1台あたりの利用件数が着実に伸びていったのです。

***

 この書評では「セブン銀行」を取り上げましたが、ほかの事例もかなり細かく当時の背景や鈴木敏文会長以外の人間模様からも、成功要因が分析されています。本書でも書かれているようにセブン&アイ・ホールディングスが、『「コミュニティインフラのイノベーション」を実現するためにはどんな努力もおしまない企業化集団』であることが伝わるはずです。

 東日本大震災の時期に注目を浴びましたが、コンビニなど、「生活のインフラ」としての「社会的意義」についても多く言及されています。小売り業界に携わる方には必読の一冊です。

新刊ビジネス書を「要約」でチェックできるプレミアム版も人気です

book-smartとは