- 著者プロフィール
第1章 マーケティングは経営そのものである
第2章 売れない商品を売ってこそ一人前
第3章 撤退という決断を下すとき
第4章 批評の前に自分のアイデアを実行せよ
第5章 ゲームのルールを変えろ
第6章 採用・育成・評価で会社は決まる
第7章 危機のあるところに機会がある
終章 本物のリーダーはリーダーをつくる
ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEO。1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本株式会社入社(営業本部東京支店)。各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー株式会社マーケティング本部長として「キットカット」受験生応援キャンペーンを成功させる。
2005年、ネスレコンフェクショナリー株式会社代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本株式会社代表取締役副社長飲料事業本部長として新しいネスカフェ・ビジネスモデルを提案・構築。利益率の低い日本の食品業界において、新しいビジネスモデルを追求しながら超高収益企業の土台をつくる。同年11月、ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOに就任。 現在、経済同友会幹事、医療・福祉ビジネス委員会副委員長。日本インスタントコーヒー協会会長。共著書に、『逆算力』(日経BP社)がある。
書評レビュー
本社から「先進国のリーディングモデル」と呼ばれるネスレ日本
本書は、ネスレ日本の100年の歴史の中で初めて日本人CEOに抜擢され、業績を伸ばし続ける高岡浩三社長の手による一冊。氏が語るネスレ流の日本的経営論(特にマーケティング)、と仕事観を説いた内容となっています。
高岡社長の前著に『逆算力 成功したけりゃ人生の〆切を決めろ』がありますが、前著よりは「経営論」寄りの内容です。ネスレ日本の経営において特筆すべき点は、食品業界平均の数倍という利益率(縮小市場で営業利益率業界平均5%前後の中、ネスレ日本は15%超)を背景に、「人を大事にする」という日本的経営を実践している点。
具体的には、手厚い年金制度、終身雇用、労働組合、離職率2%以下など、外資系企業とは思えない厚待遇を実現し、ネスレ本社(スイス)のCEOからは、「先進国のリーディングモデル」と評されています。では、どのようにして高収益体質へと経営のかじを取るのか、ここでは「高収益体質をつくる考え方」を3つほどご紹介します。
高収益体質をつくるための3つの考え方
1.マーケティングは経営そのものである
高岡社長は日本では企業において「マーケティング」が、狭義の意味でとらえられすぎている、として、以下のように述べています。
「私はマーケティングとは、『経営そのもの』であると理解している。だとすれば、直接部門だけでなく間接部門にも生かすことができるはずだ。それぞれの間接部門も、何らかの形でサービスを提供している。そこで、間接部門をサービスを事業とする企業として考えれば、マーケティングが成立するはずである。」
ここで人事部門の例を出し、人事サービス企業売上と利益を計上する独立した組織としてのマーケティングが必須になることを述べています。
著者のいうマーケティングとは「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を想像・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセス」であると定義されています。これは、稲盛和夫氏が言うところのアメーバ経営の考え方や、リクルート江副氏のPC(プロフィットセンター)経営にも近いと思います。
2.危機のあるところに機会がある
また、ネスレに伝わるカルチャーとして、危機(クライシス)こそが機会(オポチュニティ)である(「Crisis is opportunity」)という考え方を紹介しています。
一例として、ネスレがインド、パキスタンなどのアジア諸国や、アフリカ諸国といった、政治的にも経済的にも不安定な国々に、粉ミルク事業で進出していることを挙げています。著者は、ネスレが危機を恐れないのは、こうした長期的ビジョンがあるためだといいます。
「栄養価の高いミルクを貧しい国の母親たちが手に入れられる価格で提供し、赤ん坊の栄養状態を改善していくことがネスレの社会的責任である。だからこそ、あえてそういう国や地域に進出しているのだ。そうした活動をつづけていけば、必ず20年後、30年後に大きなリターンがある。
粉ミルクを飲んで育った子ども達は国を豊かにし、チョコレートやコーヒーといった嗜好品を口にするようになるだろう。だが、その時点で他のメーカーが参入したとしても、もはや手遅れである。子どものころから親しんだネスレというブランドは、新興国の隅々までいきわたっているからだ。」
3.利益を上げることに堂々と胸を張る
また、「利益」について、日本では高い利益率を上げると取引相手から「ボロ儲け」というネガティブなイメージを持たれ、売る側が委縮してしまうことが多いと指摘しています。
しかし、ボロ儲けとは、「付加価値もないのに不当に高い利益をあげること」であり、そんなビジネスであれば長続きするはずがないといいます。そして、利益をあげることに堂々と胸を張るべき理由として、以下の2つを挙げています。
(1)高い利益率は、高い付加価値への評価
高い利益率とは、自分たちが提供した付加価値を、お客様に高く評価していただいたことにほかならない。高い利益率を上げている企業の経営者と社員は、そのことに誇りを持つべき
(2)高い利益を上げ、高い税金を納めるのが、大手企業の使命
発展しきった国家、老齢化している国家、ましてや人口が減少している国家で今後ますます必要となる医療費、社会保障費をまかなうために、必要なのは、企業が多額の税金を払うこと。
著者は、どれだけ高額な利益をあげて、どれだけ多額の税金を払うかが大手と呼ばれる企業に課せられた使命であり、政府が法人税率をあげるならば国外に脱出すると居直るのは、大手企業のあるべき姿ではないとまで言い切っています。
いかがでしたでしょうか?社長就任以降、高い業績を上げ続けている著者だからこそ説得力のある内容になっていると思います。また、本書では、高岡社長の生い立ちや思想背景、ネスレのキットカットなどのマーケティング事例も取り上げられています。グローバルなビジネスパーソンを目指す若手や、マーケティングに興味がある方にお薦めの一冊です。
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