書評『経営者とは―稲盛和夫とその門下生たち』
(日経トップリーダー/編集)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 稲盛和夫は語る(哲学的思考
・意志の欠落
・大義
・エゴと戦う
・人を育てる
・盛和塾
第2章 門下生は考える(師曰く「経営は才覚じゃない」
・師曰く「経営とはどういうものか、これから見せてやる」
・師曰く「もう駄目だと思ったときが、仕事の始まる」
・師曰く「おまえの一生懸命さは認める。けれど、志が低い」
・師曰く「魂を入れなければ、経営ではない」
・師曰く「『足るを知る』という言葉に甘えて、あんたは楽をしようとしているだけだ
・師曰く「人間が生きるうえでの基準はただ1つ、人間として何が正しいかです」)
第3章 経営者とは何か

編集:日経トップリーダー
 経営者とは何か。経済環境が大きく変わる今、根源的な問いを掲げることが求められています。80歳に達した名経営者、稲盛和夫氏、そして「稲盛経営」を実践する盛和塾生のインタビューを通じて、経営者とはどのような生き物なのかを考えます。

書評レビュー

経営者は強い「意志」と「哲学」が必要

経営者とは何か?とは非常に難しい問いだと思いますが、本書を読むと、まさに人間の「王道」を極めた人が経営者であるべき、と思わせられます。本書は、80歳を超えた今なおJAL再建など最前線で「経営」の実践と後進育成を行う稲盛和夫氏と、その門下生へのインタビューを通じてその教えをまとめた一冊。

類書にない特徴としては、稲盛氏が主宰している経営塾「盛和塾」の門下生たちが、いかに悩み苦労しながらも経営の実践に生涯を懸けているか、が描かれている点。読み進めていくと稲盛さんが門下生を叱るシーンが多いのですが、実際に自分も稲盛さんに怒られているような気がしてくるような本です。

本書に限らず稲盛氏の著作では、要約すると『経営者は強い「意志」と「哲学」を持て』というのが一貫して語られているメッセージです。本書でもそれは色濃く、経営の道には終わりがないことを痛感させられます。語られる言葉やエピソードはもはや「求道者」のそれに近いと思います。

稲盛氏の「経営の原点12ヶ条」

稲盛氏の経営は哲学に重きを置いており、強い意志、大義(高い志)、利他の精神、などがありますが、その原点ともいうべき『経営の原点12ヶ条』というものが紹介されており、こちらを紹介します。

「経営の原点12ヶ条」
1.事業目的・意義を明確にする
2.具体的な目標を立てる
3.強烈な願望を心に抱く
4.誰にも負けない努力をする
5.売上げは最大限に、経費は最小限に
6.値決めは経営
7.経営は強い意志で決まる
8.燃える闘魂
9.勇気を持って事にあたる
10.常に創造的な仕事を行う
11.思いやりの心で誠実に
12.常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する

詳細のエピソードは本書に譲りますが、この書評ではその中から、1つエピソードを紹介します。千葉県木更津市のヒラノ商事という、清涼飲料水などの自動販売機のオペレーター行を営む会社の平野社長という門下生の方のエピソードです。

「お前の一生懸命さは認める。けれど、志が低い」

平野社長は子どもの頃から金銭的に辛酸を舐め、裸一貫からハングリー精神を武器に売上15億円の規模まで会社を成長させた経験の持ち主です。ある時、盛和塾で平野社長が自社の経営を共有する機会がありました。ゼロから15億円の会社となった経験を少し誇らしく語ったのです。

しかし、稲盛氏はこの自信を「1つの事業もきちんとできていないのに、見切り発車でいくつも事業をスタートするなんて、あんたは何を考えてるんや。あんたのやっているのはシッチャカメッチャカ経営だ」と、こてんぱんに打ち砕きます。

そして、その場の塾生に「このようなやり方を絶対まねしてはいけません。普通なら間違いなく倒産しています」とまで言い切ります。もちろん、平野社長は意気消沈しますが、翌日稲盛さんに呼ばれ、このように語られたといいます。

昨日の発表大変だったな。でもな、まだ言っていないことがあるんや。平野、おまえはな、志が低い。(中略)おれは京セラを始めたときに、まず中京一、関西一、そして日本一、世界一の山を目指してきた。高い山に登ろうと思えば、そのための訓練をしなきゃいかん。計画を立て、体を鍛え、一緒に上る人にも登り方を教えなあかん。

限りなく目標が高いと、やるべきことが違ってくるんや。この山を登り切ったら安心、というのは、経営者には一生あり得ない。だから経営者は苦労し続ける。それは誰のためか。従業員とその家族のために苦労していくんじゃないか。そういう使命をおれたちは持っんだよ。

お前の一生懸命さは認める。けれど、志が低い。もっと高い山を目指せ。売上15億円であれもこれもやろうとするな。1つのことに徹すれば、必ず立派な経営者になれる。ええな」

文字で見るとまさに王道的なアドバイスだと思われると思います。しかし、かたや京セラというグループ7万人、売上高1兆2,000億円の企業グループを創業した社長です。そんな稲盛氏に「経営者仲間」として扱ってもらい、細やかな気遣いをされれば、誰しも死に物狂いで頑張ろうと思うのではないでしょうか。

そこが稲盛氏のすごい所であり、本物の経営者の育成に強い使命感を持たれていることがわかると思います。実際に、平野氏はこれ以後稲盛経営哲学の実践に邁進し、今なおその「経営」を突き詰めようと試行錯誤し続けています。

盛和塾に入って7年間、塾長の話を何度も聞いてきたはずなのに、何にもわかっていなかった。あの日以来、塾長の教えが要約私の体の中で熱を持ち始めたのです。」(中略)こんな中小企業のバカ社長のために、塾長は全身全霊で「経営者とは何か」を教えてくれた。平野はビデオを何度も何度も巻き戻し、社長室で何時間も泣き続けた。

少し本書の雰囲気をつかんでいただけたかと思います。本書では稲盛氏の語るシンプルな教えと、上記のような7名の門下生のエピソードが紹介されています。本物の経営者の「孤独」と「強さ」を感じられる内容で、背筋が伸びるような良書です。

いま現在経営に携わっている方やマネジメント層の方には必読だと思いますが、若手の方でも仕事上の悩みであれば、それが本書で語られる経営者の苦労から見ると小さなことだ、という気付きを得られるはずです。

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