書評『戦略参謀―経営プロフェッショナルの教科書』
(稲田 将人/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 高山、最初の地雷を踏む
第2章 「バケツの中身」が重要だ
第3章 経費削減と経費低減は違う
第4章 社員がやる気になる人事制度とは
第5章 起死回生の販促プラン
第6章 混沌のなか、海図を求める
第7章 新業態を立ち上げる
第8章 社内の「憑き物落とし」
著者:稲田 将人
 株式会社RE-Engineering Partners代表、経営コンサルタント 早稲田大学大学院理工学研究科修了。豊田自動織機製作所よりの企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号を取得した後、マッキンゼーアンドカンパニーに入社。 マッキンゼー時代は、大手電気企業、大手建設業、大手流通企業などの戦略策定や経営改革などに携わる。 その後は、企業側の依頼により、大手企業の代表取締役社長、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。
 これまで経営改革に携わったおもな企業には、アオキインターナショナル(現Aoki HD)、ワールド、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城、卑弥呼などがある。 2008年8月に㈱RE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフや役員などの役目で請け負う。戦略構築、しくみづくりにとどまらず、社内に機動的な参謀チーム、改革スタッフを養成し、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。ワールドでは、低迷していた大型ブランドを再活性化し、再成長軌道入れを実現する。

書評レビュー

敏腕コンサルタントが描く「企業改革ノベル」

本日紹介する一冊は、多くの大手企業で経営陣として企業改革を成功させてきた著者が、実体験をもとに「企業改革とは何か?」を描くビジネス小説(企業改革ノベル)。著者の稲田将人氏は、マッキンゼーを経て、紳士服のアオキ(現AOKI HD)、ワールド、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城、卑弥呼など、大手企業で業績改革を成功させてきた人物です。

著者はいわゆる「成長の踊り場」を迎えた大企業や、小説の中でもリアリティある描写がされているように、店舗型業態の改革を得意とされているようです。

本書のストーリーを大雑把に説明すると、AOKIと青山(スーツカンパニー)を足したようなイメージの大手紳士服チェーン「しきがわ」で、主人公である若手社員が経営企画室に異動になります。

そして彼が「空気の読めなさ(正義感と行動力)」を武器に外資企業出身の室長や敏腕コンサルタント、現社長、会長、専務など社内外でもまれながら、経営企画の仕事と企業改革の渦中で奮闘する…というものです。

小説としての詳細(怪文書が出回ったりというドラマ的展開もあります)は本書に譲りますが、ビジネス書としては著者の経験を活かし、シンプルかつ本質的に「経営」の基本から応用までが解説されています。この書評では、いくつか印象に残ったものをご紹介します。

「経営企画」とは何か

経営企画部門が設置されている企業は多いと思いますが、実際にその役目はなんなのか、はっきりと明示的に示した書はあまり多くはありません。本書では、その目的をいかのように定義しています。

「リーダーシップの発揮だけは、最後の最後まで社長が自身で担わなければいけない役目だが、それ以外のことは、基本的に組織による分業は可能だ。

今ある営業や商品、管理部門などの組織ではカバーできていない、会社の運営を安定化させ、発展させるために必要な機能、これを全て担わなければいけないのが経営管理も含めた経営企画、つまり戦略参謀機能ということになる。」

人、性善なれど、性怠惰なり

「人、性善なれど、性怠惰なり」というのは著者のマネジメント信念のようで本書でも何度も登場します。人間に対する本質的な捉え方ではいでしょうか。

「成果主義などの新しい人事制度の導入を行ったとしても、あくまで主役はマネジメントです。マネジメントレベルの向上なしには、どんな制度を導入してもほとんど意味はありません。『人、性善なれど、性怠惰なり』であることを踏まえ、『お天道様は見ています』という状態をつくることが、マネジメントの大事な役割です。」

経費「削減」と経費「低減」

「経費削減というのは、『とにかく利益の帳尻合わせを目的として、経費について有無を言わせず、きりやすい経費から、切ってしまう』ことと理解したらいい。

これに対して、経費提言は、本来、企業が定常的に行っていかなければいけないもので、費用対効果を考えて、経費を上手に使う、安定的な利益確保のための活動のことだ。決して、号令をかけて、経費をばさっと切るようなものではない。」

「保身」という人間の「業」

こちらも先ほどの「人、性善なれど、性怠惰なり」に通じますが、人間の「業」についての指摘です。

「人間は、その知能の高さから、身を守る本能、保身という行動を取ります。また、相対的に自分の位置を上げ、かつ下がらないようにする。すなわち、人の足を引っ張り、場合によっては、失脚させようという行為も取ります。(中略)

でも、その思惑に基づいた行動が、結局、国や企業を衰退させてしまうのです。歴史を振り返れば、国や組織のほぼ全ての衰退はそこに起因しているといっても過言ではない。」

いかがでしたでしょうか?「経営」をテーマにしたビジネス小説の多くが「経営者」の視点で書かれているのに対して、本書は「経営企画」の若手の立場から「経営」や「企業変革」が描かれているのが特色です。420ページと分厚い本ですが読みやすく、特に「経営」や「企画業務」にとっつきにくい印象を持っている方にはお薦めできる一冊です。

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