書評『アジア最強の経営を考える』
(野中郁次郎、徐方啓、金顕哲/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 強さの本質―アジアの世紀にふさわしい経営モデルを構想する
第1章 リーダーシップ―アジア最強企業は衆議独裁型である
第2章 グローバル戦略―現地化戦略を基本とする
第3章 ステークホルダー―株主だけでなく多様な関係を重視する
第4章 イノベーション―累積模倣志向で、学習を追求する
第5章 人材マネジメント―内部人材の熱心な育成が強みに
終章 鼎談―アジアン・マネジメントの時代はすでに始まっている
著者:野中郁次郎
 一橋大学名誉教授。南山大学経営学部、防衛大学校、北陸先端大学院大学各教授を歴任。クレアモント大学ドラッカースクール名誉スカラー、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院ゼロックス知識学ファカルティフェロー、早稲田大学特命教授、富士通総研経済研究所理事長。

著者:徐方啓
1953年上海生まれ。1991年中国国家教育委員会(現教育部)の派遣で来日。前後、大阪工業大学、東海大学、東洋大学、一橋大学で研究員を歴任。日本大学で経済学士、経営学修士(MBA)、北陸先端科学技術大学院大学で知識科学博士(Ph.D)を取得。現在、近畿大学経営イノベーション研究所所長で経営学部教授、Kindai Management Review編集長。マカオ城市大学特別招聘教授、安徽工業大学客員教授。また、日本創造学会理事長、日本知的資産経営学会副会長など多くの学会で活躍。

著者:金顕哲
ソウル大学国際大学院教授。1962年生まれ。ソウル大学経営学部、同大学院を卒業(MBA)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了。経営学博士。ハーバード・ビジネススクール客員研究員、筑波大学大学院ビジネス科学研究科助教授などを歴任。韓国に帰国後はサムスン電子、現代自動車、SKテレコム、LG CNSなどの経営顧問を務める。さらにはトヨタ自動車、新日鉄、JR東日本、JA、三菱グループ、アサヒビール、キヤノン、日産自動車、ダイハツ工業、富士ゼロックス、花王、旭化成、横浜ゴム、伊勢丹、ワールド、紀文食品、オリエンタルランドほか、数多くの日本企業のマーケティング教育などを担当。

書評レビュー

「アジア型経営」の強さ

本日紹介する本は、野中郁次郎教授ら著名な経営学者3名が、日中韓のグローバル企業を素材に、「アジア型経営の強さ」の本質を深堀りした一冊。

実は、3国(日中韓)の優良企業の比較研究は世界初の試みであり、3国の企業がグローバル市場での存在感を強める中、これまでのアメリカ型経営学の限界を感じたことが、共同研究による本書執筆のきっかけとなっています。

本書の構成は、リーダーシップ、グローバル戦略(現地化経営)、イノベーション戦略(模倣から進化へ)、人材育成などの経営課題に対して、アジア独特の制度で対応している事例を取り上げていくものです。

サムスン、ハイアール、コマツ、レノボ、ヒュンダイ、日立、ユニ・チャーム、ダイキンなどアジアを代表する多岐にわたる企業が取り上げられています。では、アジア型経営と米国型経営をわけるものは何でしょうか?

東洋の経営は「アート」、西洋は「サイエンス」

戦略という面では、アジア型、米国型の違いは、「アート」と「サイエンス」の違いであると言うことができます。

西洋における戦略論は「サイエンス」だということです。サイエンスだから、誰がやっても同じ結果が出なければならない。逆に、東洋ではアートなんです。理論と実践が不可分の知行合一というわけです。当然、戦略を策定する本人の生き方や哲学が入ってこざるをえない。

価値というのは主観の賜物なので、分析的に作り出すことはできません。顧客の身になって、それこそ顧客と一緒になってつくりあげなければならない。まさにアートの世界です。戦略はアートである。これがアジア型マネジメントの1つの型なのではないでしょうか

つまり、アメリカ型経営の金融資本主義(株式至上主義)、分析至上主義ではない所に経営の目的を置いています。特に、組織マネジメントにおいては「ミドルアップダウン(衆議独裁制)」が特徴であると説明されています。

アジアのユニークな3つのマネジメントモデル

本書では、アジア的経営マネジメントの特徴である、「ミドルアップダウン」を「チームやタスクフォースのリーダーを務めるミドルマネジャーが、トップと一般社員(ボトム)を巻き込んで、新しいコンセプトや戦略を策定していくやり方」と定義しています。

つまり、ミドルマネ―ジャーが、トップのビジョンと現場社員をつなぐ架け橋となる働きです。この仕組みを取り入れて成功している企業をいくつか紹介します。

サムスンの「三極の経営」

まず、韓国最大の財閥企業サムスン(三星)の「ミドルアップダウン」の例として、「三極経営」が紹介されています。これは以下のような制度です。

トップには最終意思決定者としての会長(オーナー)や社長がいる。そして、ひとつの一角はグループ各社のトップ、部長、本部長など、現場の責任者で構成され、もうひとつの一角が未来戦略室や企画室という会長・社長直轄組織である。

この三角が経営チームを構成する「三極経営」を行っている。会長が一極、未来戦略室が二極、現場のトップが三極というわけだ。

会長や社長が最高意思決定者として君臨し、未来戦略室はその参謀として、オーナーを支援し、グループ全体を統括する。一方、専門経営者や現場の責任者は最高運営責任者(COO)として、担当する各社を経営していく。

財閥企業というと、トップダウン経営というイメージを持ちがちですが、そうではなく、日本企業のようなミドルの強さ、または韓国企業のようなトップと現場の間の経営スタッフの存在で、ミドルアップダウンを図っているのです。

また、サムスンでは未来戦略室のメンバーが、新旧エリート(今日のエリートである現経営陣と、明日のエリートである優秀なミドルマネジメント層)で構成されています。それゆえ、オーナー、現場双方に対しての横暴や独裁を防ぐ「牽制」機能が発揮できるのです。

2.ヒュンダイ、LG、SKなどの「二極の経営」

また、ほかの財閥企業にも同様の仕組み(二極の経営)が担保されています。これは「経営企画調整室」、「会長室」「秘書室」などで、経営がトップダウンにならないように担保する仕組みで「三極の経営」と同じ意図です。

オーナーが強すぎると現場の責任者が委縮してしまい、革新的アイデアや創意工夫、改善の知恵などが出なくなってしまう。二極としての秘書室の設置は、それを防ぐための仕組みでもある。

時にはオーナーの意思決定を牽制し、現場の活力を高める。あるいは、オーナーと現場の間に入り、両者の意思をそれぞれに伝達する。これが二極の役割である。

3.ファーウェイの「CEO輪番制」

また、中国のファーウェイ(Huewei:通信機器メーカー)ユニークな「CEO輪番制度」が紹介されています。実は中国企業はほとんどがトップダウン経営です。なぜなら、企業、政府ともに個人主義がベースとなっているため、組織を維持には強力なリーダーが必要だからです。

しかし、ミドルアップダウンを実現するファーウェイで取り入れられている「CEO輪番制」は、下記のようなものです。

後継者を育成するために、取締役会で選出された副会長3名に、「輪番CEO」として、6か月ごとに交代で経営の指揮をとらせている

かなり思い切った施策だと思いますが、その狙いとメリットは、次の3点です。
1.各CEOの業務負担が減り、中長期的課題に取り組むことができる
2.経営者が複数になるため、経営に多様性が生まれ、「どの皇帝もお気に入りの部下をつくる(中国のことわざ)という状況を回避できる。
3.後継者育成の面で最も大きな効果が期待できる。若くしてCEOの経験が詰めることは非常に大きな意味を持つ。

ファーウェイのユニークなCEO輪番制は、2011年に始まったばかりですが、ハイアールなど、後継者育成に悩む企業群れも取り入れ始めているといいます。

いかがでしたでしょうか、リーダーシップや組織マネジメントひとつとってみても、欧米型経営とアジア的経営には大きな違いがあることを感じて頂けたと思います。

企業がグローバル化しても、顧客戦略がローカライズされているように、組織もやはり各国の文化や思想のうえに独自の仕組みを構築するのがベストなのではないでしょうか。経営やマネジメントを志す方にはお薦めできる内容です。

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