書評『5年後、メディアは稼げるか』
(佐々木 紀彦/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 メディア新世界で起きる7つの大変化
第1章 ウェブメディアをやってみて痛感したこと
第2章 米国製メディアは本当にすごいのか?
第3章 ウェブメディアでどう稼ぐか?
第4章 5年後に食えるメディア人、食えないメディア人
著者:佐々木 紀彦
 東洋経済オンライン編集長。1979年福岡県北九州市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。2009年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。「30歳の逆襲」「非ネイティブの英語術」「世界VS.中国」「2020年の世界と日本」「ストーリーで戦略を作ろう」「グローバルエリートを育成せよ」などの特集を担当。2012年より現職。

書評レビュー

本書は、『東洋経済オンライン』編集長が、これから5年でメディア業界(特に紙メディア)に起こる変化を論じた一冊。著者は、東洋経済(オンライン版)の編集長に30代で就任した佐々木紀彦氏。就任後サイト大幅リニューアルを敢行し、アクセス数を4か月で5,000万PVまでアップさせ、ビジネス誌系メディアとしてはトップまで成長させた実績の持ち主です。

著者は紙からの転載がメインだった東洋経済オンラインに、新連載を50本スタート、スマホ最適化、ポータル連携を強めるなど、ウェブ企業としての施策をどんどん打つなど「攻め」のリニューアルを仕掛けていきました。

本書の特長は、そうした著者の直近の経験によって得られた生々しいナレッジと、米国と国内の事例・データをふんだんに使ってリアルな未来像を描いているところです。もう一つ加えるならば、副題のMonetize or Die(収益化するか、できなければ死に絶えるか)とあるように、メディアの「べき論」ではなく、ビジネスとしてシビアにその収益化を論じている点も特長です。

メディア業界で起こる7つの大変化

本書の冒頭では、メディア業界に来たるべき7つの変化として、以下を上げています。

1.紙が主役 →デジタルが主役
2.文系人材の独壇場 →理系人材も参入
3.コンテンツが王様 →コンテンツとデータが王様
4.個人より会社 →会社より個人
5.平等主義+年功序列 →競争主義+待遇はバラバラ
6.書き手はジャーナリストのみ →読者も企業もみなが筆者
7.編集とビジネスの分離 →編集とビジネスの融合

各詳細はぜひ本書をご確認いただきたいのですが、おおむね予想外のことではありません。それはすなわち、インターネットの普及で他の業界に訪れた危機が、ようやくメディア業界を変化させていくようになったということでもあります。「大変化6」では以下のように述べています。

メディア新世界において、競争力の決め手となるのは、コンテンツの質だけではありません。それと同じぐらい重要なのが、テクノロジーとクリエイティブ、そしてPDCA(計画→実行→評価→改善)を繰り返すスピードです。(中略)こうした総合力の大本となるのが、ITです。

これまでのメディア企業は”文系人間”の独壇場でしたが、今後”理系人材”がメディア界での存在感を増していきます。たとえば、今年5月にスタートした「ハフィントン・ポスト日本版」の松浦茂樹編集長は、東京理科大を卒業した後、大手自動車会社で宇宙開発に携わっていた人物です。

実感値として、近年理系人材の進出は、エンジニアにとどまらず、コンサル、会計、金融などいわゆる文系業種とよばれる職種まで広がっています。論理的思考やシステム的素養がある人材が多いように思います。

メディア業界も理系人材が進出してくると、特に専門分野をもたない文系人材は生き残っていけない時代が来ているのではないでしょうか。

紙とウェブの6つの違い

続いて、紙とウェブ両方の編集を行ってきた著者ならではの観点で、「紙とウェブの特性の違い」として以下の6つが挙げられているので、紹介します。特にウェブマーケティングをやっている方は参考にできるはずです。

1:タイトルが10倍重要

ウェブメディアでは、対っとるこそが内を差し置いても重要だということです。ウェブのほうが紙より「タイトルが10倍重要」といっても過言ではありません。

紙が一度新聞や雑誌を手に取ってもらえればタイトル、写真、レイアウトなどトータルで勝負できるのに対し、ウェブの場合はほぼタイトルのみで読むor読まないが決められてしまいます。著者は、ウェブの編集にはキャッチコピーのセンスが必須であり、電車の中吊り、一般週刊誌(週刊文春、アエラなど)などののタイトルづけが参考になると説きます。

2:ウェブは感情、紙は理性

タイトルの問題ともからみますが、ウェブは「感情寄り」のメディアです。論理を緻密につみあげていくのにはあまり向いていません。ウェブで一番受けが悪いのは、お堅い学者調の文体と、論理だけを押し通したコンサルタントのレポートっぽい文体です。(中略)

むしろ、ウェブ原稿のうまさは、プレゼンのうまさと比例するように思います。ウェブ原稿の腕を磨くのであれば、むしろ話し言葉、弁論術から学ぶほうが近道です。

3:余韻より断言

紙の場合は、「私の意見はこうだ」「これが正しい」とはっきり言い切るのは、激しすぎるというか、ときに下品にすら見えます。「…かもしれません」「たしかにそうともいえますが、一方で…」というふうに、余韻を残すような、あいまいな言い方のほうが洗練されて見えることも多々あります。

ひるがえってウェブでは「…と思います」「…ではないでしょうか」といった、ゆるい言い方はしっくりきません。多少、物事を単純化するリスクを冒してでも「…だ」と断言した方が読者の心に響くのです。

4:建前より本音

主観というのは、本音とほぼ同じです。空気を読んで建前ばかりを言う人はウェブ空間では見向きもされません。

人を傷つけるような差別的な発言や人格攻撃はご法度ですが、政治経済、外交、ビジネス、キャリア、文化といったテーマでは、ぜひとも侃々諤々やりあってほしいところです。

5:一貫性よりも多様性

雑誌の場合、ひとつの媒体の中に硬軟織り交ぜたテーマが混在し文体もバラバラだと、統一感がなく、いい加減な印象を与えてしまいます。しかしウェブには「パッケージとして媒体を読みとおす」という建前自体がありません。記事同士はそれぞれ独立しており、それが緩やかにつながっているだけです。(中略)

ウェブメディアとはあくまでプラットフォームです。もちろん、あまりに質の低い記事は没にしますが、一定のレベルにあれば議論を問わず掲載します。なぜなら、ウェブメディアにとって大事なのは、ひとつの方向性に読者を誘うことではなく、さまざまな意見を読者に提供し、読者の頭の中を刺激することだと思っているからです。

6:集団よりも個人

この特徴こそが、メディア界にもっとも本質的な変化をもたらします。一言でいえば、ウェブメディアでは、キャラ立ちすることが極めて重要なのです。(中略)

筆者のバックグラウンド、経歴、そして、政治的なスタンスまで披露したうえで、その人間が「私はこう思う」と述べるのは一向に構いませんし、議論を活性化させるはずです。

いかがでしたしょうか、この書評では取り上げられませんでしたが、本書ではウェブメディアにおけるマネタイズ手法や、アクセスアップ施策など、豊富な海外/国内事例を用いてメディアの現状と未来が描かれています。メディアビジネスを志向する方、携わっている方には必読の一冊です。

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