書評『経営は何をすべきか』
(ゲイリー・ハメル/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1部 いま理念が重要である
第2部 いまイノベーションが重要である
第3部 いま適応力が重要である
第4部 いま情熱が重要である
第5部 いまイデオロギーが重要である
著者:ゲイリー・ハメル
 ロンドン・ビジネススクール客員教授(戦略論、国際マネジメント)。国際コンサルティング会社ストラテゴス設立。経営論、戦略論の専門家として活躍しながら世界的企業のコンサルタントも務める。一流経済・経営誌への寄稿多数

書評レビュー

なぜいま「5つの課題」が重要なのか

本書は『コア・コンピタンス経営』が世界的にベストセラーとなり、経営学者として著名なゲイリー・ハメル教授が、グローバル化が進んだ現在のと未来のあるべき経営・組織について論じた一冊です。

目新しい理論や、問いと答えが書いてあるような本ではありませんが、1つの課題に対し複数の視点を示し、読者に考えさせるような構成で、それゆえ普遍的な内容の良書です。

特に、著者の専門である組織・マネジメントへの洞察が特色ですが、この書評では、なぜいま5つの課題が重要なのか、そして特に印象に残った第3章の「なぜ企業が衰退していくのか」について紹介していきます。本書で語られる「マネジメントの課題」は以下の5つです。

1.「理念」:
今や企業への信頼は地に落ちている、それを取り戻すには企業倫理の再構築が必要

2.「イノベーション」:
長期的な価値を生み出すための持続可能な戦略は、イノベーションの実現意外にはない

3.「適応力」:
企業が繁栄を保つには自己変革を続けていく以外に道はないが、多くの企業で現状維持が未来志向に優先されている

4.「情熱」:
イノベーションと変革への意思は情熱から生まれ、組織や仕事に対する情熱は、商品やサービスへの情熱に直結します。しかし現在多くの職場では情熱を育てることができない

5.「イデオロギー」:
現在主流の管理至上主義というマネジメント・イデオロギーでは、独自性や型破りなものは生まれない。管理至上主義に代わる考え方を導入することが必須である。

特に、「イデオロギー」で述べられている、管理主義に代わり「従業員が創造性を発揮することができる」マネジメントを導入するというのが、「コア・コンピタンス経営」「経営の未来」などで繰り返し述べられてきた著者の主張です。

成長企業が凡庸な企業に代わっていく3つの要因

また、本書では、成長企業が衰退企業にかわっていく3つの要因が説明されています。それは(1)重力に負ける、(2)戦略の有効背が失われる、(3)成功が堕落につながる、の3つですがそれぞれの概要をご紹介します。

第一の要因:重力に負ける

著者は「重力」の法則のように、企業が抵抗することができないものとして、次の3つの法則をあげています。これらは多くの経営者が「自社だけは違う」と思いがちですが、長期的には必ず影響を受けてしまうものです。

1.規模の法則:大企業は小企業に比べて成長するのが難しい。
2.平均の法則:永遠に平均を上回る業績を上げ続けるのは、どのような企業でも不可能である。長期にわたって、高成長を維持する企業は存在していない。
3.収穫逓減の法則:業績向上の施策の効果は時が経つにつれ薄れていく

第二の要因:戦略の有効性が失われる

著者は企業の戦略の有効性は「突然死」するのではなく、「癌」のように、少しずつ進行し、治療が遅れるにつれて致死率は高まっていくものだと説きます。

それゆえ、こうした「前兆」に気づくことができれば、早め早めに対応し、戦略を更新することができるとして、いくつかの前兆を例示しています。

適切な業績尺度に注意を払えば、戦略の劣化はたいてい予測できる。

前兆は利幅の縮小、成長の鈍化、生産性の低下、市場シェアの減少、解約率の上昇、新製品からの売上比率の低減、従来にない斬新なビジネスモデルの増加、価格の急激な低落傾向、PER(株価収益率)の低下、売上高に占めるマーケティング・コストの上昇などである。

第三の要因:成功は堕落につながる

著者は「重力や老化はある程度避けられないが、組織がつまずく主因はこれらではない」といいます。その主要因こそが、第三の要因「成功への反動」です。成功した組織が陥りがちな、危機的な要因として、以下のような例をあげています。

・守りの発想
・融通の利かない事業の仕組:既存事業に最適化された組織構造になってしまう
・凝り固まった発想:創業者の意見が絶対など
・豊富な経営資源:人と金が豊富にあることで、工夫への情熱がなくなる
・満足と権利保障:成功を所与のものと考える管理畑の幹部が増え、将来への変革が起きない

つまり、成功するにつれ、管理至上主義になり、変革やイノベーションが抑制され(プロダクトについても組織についても)、その結果凡庸な企業に成り下がってしまうのです。特に大企業にありがちな「満ち足りた状態」の弊害についてこのように手厳しく批判しています。

成功企業には従業員や現金が集まり、市場支配力も強まるため、満ち足りた状態が生まれる。ただ困ったことに、満ち足りてしまうと経営陣は知恵を絞らなくなる。ライバルを凌ぐ発想ではなく、ライバルを凌ぐ支出こそが成功をもたらすのだと考えるようになる。(中略)

満ち足りた状態だとイノベーションへの意欲は衰える。画期的なアイデアは野望はあっても経営資源が足りない状態から生まれる。たるんだ状態ではなく、背伸びをした状態の産物なのだ。

経営を「農業」ではなく、「畜産業」として考える

ではどうすればよいのでしょうか?著者は、企業の劣化を防ぐためには、経営者は「農場」ではなく「牧場」を経営している意識をもつべきである、と述べています。

牧場主が愛情を持つのは土地(事業や市場セグメント)ではなく、特定の家畜でさえない。時の経過とともに、新たに家畜が生まれる一方、年長の家畜は食肉解体処理に回されるため、群れのメンバーはすっかり入れ替わる。

その成功例として、英ヴァージン・グループとその創業者リチャード・ブランソンが挙げられています。

リチャード・ブランソンは、おらく世界のどのCEOよりも多くの事業を興し、潰した事業の数もそれに近い。ブランソンは宇宙旅行事業を手掛けるヴァージン・ギャラクティックほか、どの新規事業にも情熱を傾けているが、どれかひとつを中枢と位置付けることはしてこなかった。

ここからはシンプルだが、ともするとい過ごされがちな教訓が得られる。繁栄を保つには成果を挙げなくなったものを捨てる覚悟が欠かせない、という教訓である。

いかがでしたでしょうか?冒頭でも書きましたが、一読して、至極まっとうな内容だという感想を持つ方が多いと思います。ただし、それゆえに普遍的な内容となっています。

ハメル教授がずっと主張してきたように、現在運用されているマネジメント手法は、(権限集中や階層的組織構造)がほぼそのまま使われています。つまり経営・マネジメントにはイノベーションがほとんど起こっていないのです。それゆえ本書は、営利非営利をとわずあらゆる組織のマネジメント層、リーダー層にお薦めできる一冊です。

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