書評『ゴジラで負けてスパイダーマンで勝つ』
(野副 正行/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
1.危地
トム・クルーズからの電話
スタジオ買収で苦境に陥ったソニー
ゴジラになれなかったGODZILLA
2.転換
テンプレートとポートフォリオ
シリーズ化―なぜ続編はビジネスになるのか
3.強化
スパイダーマンに化けた007
職人集団を「独り立ち」させる―イメージワークスがアカデミー賞を獲るまで
傑作の「宝庫」を手放すな―ソニー・クラシックスの重要性
「長壁」にぶつかる―中国の逆鱗に触れた「セブン・イヤーズ・イン・チベット」
日本へのグローバル化―テレビ事業の拡大に取り組む
賞とショーと―ハリウッドで仕事をするということ
著者:野副正行
1972年慶應義塾大学理工学部卒業、ソニー株式会社入社。33年間の同社勤務のうち20年をアメリカで過ごし、マネジメント経験を積む。エレクトロニクス、通信、エンタテインメント(映画、音楽)などの広い領域で、マーケティング、新規事業開発、現行事業の再建など、数々の実績を残す。1996年よりハリウッドのソニー・ピクチャーズ副社長。1999年共同社長に就任。業界最下位のスタジオを常にトップを争う企業に育て上げた。2000年秋にソニー株式会社に戻り、執行役員常務。2002年上席常務。その後、ボーダーフォン執行役副社長、I&S BBDO代表取締役社長兼CEOなどを経て、(株)出版デジタル機構代表取締役社長。

書評レビュー

 ソニーから日本人初のハリウッド経営者として映画会社(ソニーピクチャーズ)へと出向した著者が、当時業界最下位だったスタジオをみごと再生させた経験を語った半自伝的経営論。

 著者はソニー・ピクチャーズ社長などを経てソニーの役員やボーダフォンCEOなどを歴任し、現在は出版デジタル機構代表取締役社長の野副正行氏。タイトルは、「GODZILLA(米国版ゴジラ)」で興行的な大失敗を経て「スパイダーマン」をヒットさせ、シリーズ化にも成功させたエピソードから名付けられている。

 著者が異業種出身者としてみた映画業界は、ドンブリ勘定や勘と経験が横行するギャンブル的産業だったという。そこで著者は、何とかして映画の「当たりはずれ」を標準化して、ビジネスとしての収益を安定化しようと奮闘する。

 すなわち映画ビジネスを「可視化」「数値化」しようとしたのだが、著者は「テンプレート」と「ポートフォリオ」という2つの新たな経営手法を導入して、これを実現したという。以下2つの手法を紹介したい。

「テンプレート」:
 著者は、「個々の作品を何らかの形で分類できるテンプレートがあれば、制作する多様な映画それぞれのビジネス上の意味合いが簡単に把握できるようになるはずだ」と考え、個々の企画をジャンルや予算規模などの基準でグループ分けし、”商品”としての特性を可視化することで、リスク管理の難しさを緩和していった。

「ポートフォリオ」:
 ポートフォリオといえば、金融の世界ではリスク資産と安全資産の組み合わせを最適化していくものだが、著者がこの手法に着目した背景には、映画の当たりはずれの確率(リスク)が作品一本一本ごとに違うため、これを予測するのが難しかったことがある。

 そこで、規模やジャンルなどの異なる複数の作品を、どのような組み合わせで年間の公開映画群とすれば、その投下資本に対し、リターン(興行収入)が最大化できるかを計算。そして、「作品ポートフォリオ」がどのような構成になっていた年に各スタジオの利益が最大化したのかを、自社だけでなく他社の実例もあわせてチェックしていった。

 こうしたわかったモデルが軸となり、冒頭のスパイダーマンなどの成功につながったのだ。この「テンプレート×ポートフォリオ」の考え方は、コンテンツを扱うほかの業種業態にも応用できる手法ではないだろうか。詳細は本書に譲るが、野球におけるデータを可視化した「マネー・ボール」を彷彿とさせる興味深い内容である。

 ちなみに、上記のポートフォリオの考え方も、当初は制作現場からは強烈に抵抗を受けたという。年間制作ポートフォリオに縛られることは、制作陣にとっては制作の自由を奪うものと映ったためである。その壁をいかに乗り越えて改革を進めていったのかなど、困難を乗り越えていくエピソードも多数紹介されており、多くのビジネスパーソンがヒントを得られる内容となっている。

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