書評『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』
(藻谷 浩介/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 「商店街」は起業家精神を取り戻せるか―新雅史(社会学者)
第2章 「限界集落」と効率化の罠―山下祐介(社会学者)
第3章 「観光地」は脱・B級志向で強くなる―山田桂一郎(地域経営プランナー)
第4章 「農業」再生の鍵は技能にあり―神門善久(農業経済学者)
第5章 「医療」は激増する高齢者に対応できるか―村上智彦(医師)
第6章 「赤字鉄道」はなぜ廃止してはいけないか―宇都宮浄人(経済学者)
第7章 「ユーカリが丘」の奇跡―嶋田哲夫(不動産会社社長)
著者:藻谷 浩介
 1964年、山口県生まれ。株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て、現職。2000年頃より地域振興について研究・著作・講演を行う。2013年に刊行した『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(NHK広島取材班との共著)で新書大賞2014を受賞。

書評レビュー

現場の現実を「現智の人」に学ぶ

本書は地域振興の専門家「藻谷浩介」氏による、「地方」を中心とする日本経済の「現場」から日本再生のヒントを探った一冊。

著者である「藻谷浩介」氏は、地域経済の振興策を解説した『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』を執筆するなど、地域振興の専門家として精力的に活動している人物。

著者の思考プロセスは、「現場」の「現実」を知ることからスタートするのですが、その特徴は、著者が「現智の人」と呼ぶ、地域事情に精通した地元プロフェッショナルとの「対話」を通じて知見を深めていく点にあります。

『”現智”の人とは、特定の分野の「現場」に身を置いて行動し、掘り下げと俯瞰を繰り返した結果、確固たる「智恵」を確立している人のことです。

教科書に書いてある知識を覚えて振り回すだけの人間とは対極の道を進む、そうした“現智の人”に巡り合い、その語りに耳を傾け、あるときは疑問をぶつけ、あるときは協同する、そういう「対話」を経て、ようやく“智識”と呼ぶべきものが身についてくるのです。』

本書では、商店街、過疎集落、観光、農業、医療、鉄道、不動産開発といった、現在の日本経済が抱える7つの課題・問題点について、それぞれのジャンルに精通した「現智の人」との対談を通じて、地方発・日本経済再生の方法が考察されていきます。

「商店街」は起業家精神を取り戻せるか

今回の書評では、7つのテーマのうち「商店街」を取り上げた内容をご紹介します。対談の相手となる「現智の人」は、『商店街はなぜ滅びるのか』など地域コミュニティに関する著書を執筆している社会学者「新 雅史(あらたまさふみ)」氏。

商店街と言えば、購買の場だけでなく地域コミュニティの中心として、地元に密着していましたが、ショッピングモールの出店などにより、日本全国から姿を消しつつあります。

著者らは、この商店街にとって代わったショッピングモールについて、消費する場としては評価をしながらも、後世に残すべき地域の拠点になることはできないと感じているといいます。

これは、商店街から感じる「町らしさ」が、ショッピングモールからは感じられないことに原因があるようです。ユニークな観点として、著者らは、町や都市の定義について、「アントレプレナーシップが発揮できる空間である」ことを重要視しています。

つまり、ショッピンモールには、商店街のように数多くの専門店が並んでいるものの、商店街のような「自分で事業を起こしたい」という店主の思い(アントレプレナーシップ)が欠けており、本来あるべき「町らしさ」がなくなってしまっているということです。

「郊外農地を開発し、住居と職場と公共施設と大型店をそれぞれ無料駐車場付きで分離させ、移動は全部車で、としてしまった地域からは起業家が生息できる空間が存在しなくなってしまった。

面白いことにそうした土地からは、文化的なものがなくなっていくんです。モールに並んだ物資を消費して満足している人だけになった地域からは、ユニークな雑貨屋とか、こじゃれたカフェ、尖ったイベントも消えていく。」

また最近では、エリア内でのショッピングモール同士の競争と撤退の結果、高齢者を中心に「買い物難民」が増加するなどの問題もあります(これは首都圏も例外ではありません)。

詳細は本書に譲りますが、地域拠点の観点などから、商店街を中心とする地域コミュニティの在り方について考える鍵となるのが「アントレプレナーシップ」を持つ人々をいかに活かしていくかということなのです。

まとめと感想

高齢化や過疎化など、日本経済の将来について悲観的な論調がメディアを中心に取り上げられていますが、その現状を受け入れた上で建設的なアイディアを出すことこそが今の私たちに求められているのではないかと思います。

本書には「現智の人」による、地方発・日本経済再生のヒントが数多く掲載されていますので、ビジネスパーソンの見識・知見を広げることができる一冊として、ご一読をお薦めします。

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