書評『農協解体』
(山下一仁/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 農協の何が本当は問題なのか?
第2章 JA農協のねじれた生い立ち
第3章 農業保護のまやかし
第4章 そもそも農協は必要なのか?
第5章 農協が「国益」を破壊する
第6章 揺れる農協
第7章 農協のしたたかさ
第8章 農協解体
著者:山下 一仁
 1955年岡山県笠岡市生まれ。1977年東京大学法学部卒業、農林省入省。1982年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。2008年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『日本の農業を破壊したのは誰か 「農業立国」に舵を切れ』(講談社、2013年)、『TPPおばけ騒動と黒幕』(オークラNEXT新書、2012年)、『農協の陰謀』(宝島社新書、2011年)、『環境と貿易』(日本評論社、2011年)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社、2010年)、『企業の知恵で農業革新に挑む! 』(ダイヤモンド社、2010年)、『「亡国農政」の終焉』(ベスト新書、2009年)、『フードセキュリティ』(日本評論社、2009年)、『農協の大罪』(宝島社新書、2009年)、『食の安全と貿易』(日本評論社、2008年)、『国民と消費者重視の農政改革』(東洋経済新報社、2004年)など。

書評レビュー

元農水省キャリアが語る「農協」の真実

本書は、元農水省キャリア官僚の山下一仁氏が、農協の歴史と現状から「農協解体」の具体策に切り込んだ一冊。

「農協」といえば組合員1,000万人以上を抱え、TPP関連の話題でも必ず「農協」の問題に触れられることが多く、また農協解体を公約に掲げる政党も増えてくるなど、近年その動向に注目が集まっています。

農業(アグリ)ベンチャーや、農家の株式会社化、生産から加工・販売までを農家が行う「6次産業化」など、農業が話題にのぼることが増えてきますが、なかなか農業や農協の実態について知る機会は少ないのではないでしょうか。

本書では、農協のそもそもの成り立ちから、JAバンク、農林中金など、巨大な金融機関を抱えTPPに反対を続ける現状と未来が語られ、一見過激なタイトルですが、データに裏付けられた読み応えのある内容となっています。

著者はタイトルにもあるように、「農協解体」を主張していますが、何が問題なのでしょうか。その理由はさまざまに挙げられていますが、著者は「農協がその役割を終えており、もはや農業の発展を妨げている」ことが一番大きいと語ります。

農協はもはや農業の発展に寄与していない

そもそも農協は1947年の農業協同組合法を法的根拠として、「農家の経済的自立」「農業生産性の発展」を目的として設立された団体です。

戦前の地主/小作という関係から農地改革、高度経済成長期や農機具の進化を経て、かつて問題視されていた、いわゆる「貧農」はもはや存在しなくなったといます。

それどころか、減反政策や、独占事業(肥料では8割のシェア)による農家への締め付けなどにより、むしろ農家の健全な生産性アップを阻んでいます。そしてそれは消費者の負担に転嫁されてしまいます。

また農協は同一価格による米価買取を行うため、高付加価値農業を目指す「専業」農家や大規模農家のイノベーションの芽を摘んでしまっています。

「兼業農家」優位の施策といえますが、それも「票田」としての組合員数を維持するためだというのですが、根深い問題だと思います。

そして、もはや農協が農業を興隆させるものではなく、機関投資家として自らの営利を追求する団体となってしまっている現状が描かれています。

「JAバンクは預貯金量では我が国第2位のメガバンクだが、農業は衰退しているので、農業への融資はその1~2%程度に過ぎず、3割程度を準組合員への住宅・車・教育ローンや元農家へのアパート建設資金等の事業に融資している。

残りの資金はJAバンクの全国団体である農林中金が、ウォール街などで運用して大きな利益を得ている。(中略)農業などの経済事業は毎年赤字を計上していて、JAグループの経営面を支えているのはJAバンクである。」

農林中金の経常利益は連結1,000億を超えており、その規模の大きさがご理解いただけると思います。

まとめと感想

本書ではほかにも自給率の嘘、専業/兼業農家をめぐる問題や補助金など、政治経済を「農協」を切り口に読む説く視点が得られる内容となっています。

国内政治経済や「農」に興味関心がある方はもちろんですが、3部作の完結編としてまとめられた内容ですので、農業をめぐる問題の大枠の理解のため非常に参考になると思います。

また、ある産業(農業)が発展し、衰退していく事業、またはもともと相互扶助団体として高い志を持って発足した組織が、時を経て自己目的化してしまうという事象について、ビジネス観点からも考えさせられる一冊です。

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