- 著者プロフィール
第2章 制度分析の考え方
第3章 制度分析の応用―日本と中国の来し方・行く末
第4章 制度論の拡がる地平
1938年生まれ。東京大学経済学部卒業。ミネソタ大学Ph.D.。ハーバード大学助教授、京都大学教授などを経て、スタンフォード大学教授。現在、同大学名誉教授のほか京都大学名誉教授。2008~11年までIEA(国際経済学連合)の会長を務めた。主な著書に『現代の企業』(岩波書店、日本学士院賞、サントリー学芸賞受賞)、『比較制度分析に向けて』(瀧澤弘和・谷口和弘訳、NTT出版、国際シュンペーター賞受賞)などがある。
書評レビュー
日本で最も高名な経済学者による「経済学を学ぶ心構え」
今回ご紹介するのは、現在日本で最も高名な経済学者の一人といわれる青木昌彦氏が「制度経済学」を解説した一冊です。
本書の著者である青木昌彦氏は、世界的な経済学の権威であるIEA(国際経済学連合)の会長を務めた経験をお持ちの人物です。
このIEAの歴代会長からノーベル経済賞受賞者が多数出ていることからも、著者が経済学者として世界的に評価されていることが伺いしれます。
他にも、世界銀行経済研究所などでも活躍し、現在はスタンフォード大学名誉教授という著者が今回テーマに選んだのは、著者の研究の特徴でもある「制度論」から経済と社会を理解する、というものでした。
経済学を学ぶ心構え
今回の書評では、まずは経済学の権威でもある著者が考える「経済学を学ぶ心構え」をご紹介したいと思います。
著者は、経済学を学ぶ上での心構えには、3つのポイントがあるとしています。
1つ目は、数学をしっかりと学ぶことで、ロジカルな考え方、特にゲーム理論という社会科学に特有の考え方を身につけること。
2つ目は、経済問題は自国のみならず国際的な見地からおう分析を行わなければならないので、国際的なコミュニケーションスキルを身につける、つまりは英語の学習をしっかりとやること。
そして、最も大切なポイントであろう3つ目ですが、経済には人間の行動が大きな影響を与えていることを受けて、経済学のみならず、『人間の「認知」の問題に関心を持つ』ことをポイントとして挙げ、次のように述べています。
これからの時代は認知理論、進化理論、脳科学の分野での仕事が、経済学における人間観や組織観にも重要な影響を与えていく可能性があります。』
制度分析とは何か?
著者の提唱している「制度分析」は、「ゲーム理論」という、経済を一種のゲームに考えて分析する手法と密接にかかわっています。
このゲーム理論は、チェスをイメージすると非常にわかりやすいと言われています。チェスでは、各駒にはそれぞれの役割があり、運動法則があります。そして、プレーヤーは各駒の役割と運動法則を理解したうえで、ゲームが進む先を予測する必要があります。
これを参考に制度分析を考えてみると、まずは、社会的ゲームのドメイン(変数域)を決める必要があります。フィールドと言い換えてもいいかもしれません。
ドメインには、例えば、マーケットドメイン、政治ドメイン、組織ドメインなどが挙げられます。このドメインの中では、各プレーヤーがどのような行動を起こすことができるのかがあらかじめルール化されている必要があります。
たとえば「法律」や「規制」など、ドメインやルールの切り口はさまざまで、それぞれに相関関係がありますので、その点を見極めながら、今後の経済動向を分析していくのが、「制度分析」の手法となっています。
詳細な説明は本書に譲りますが、この「制度分析」を実態経済にどのように応用していくのかについても、中国経済と日本経済を例にとり、わかりやすく解説されています。
まとめと感想
他にも、「今後の資本主義の行く末」をテーマとした、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンと著者の貴重な対談など、経済学を学ぶ上で非常に魅力的なコンテンツが本書には掲載されています。
「制度分析」の観点から経済学を解説した一冊ではありますが、学術書というよりも、経済学の「本質」を理解することを目的として、著者は本書を執筆したように思えます。
難解な専門用語をそれほど使うことなく、経済学の「本質」が簡潔にまとめられていますので、経済学に苦手意識のある方にもぴったりの一冊だと思います。
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