書評『流通大変動―現場から見えてくる日本経済』
(伊藤 元重/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 流通から見えてくる日本経済
第2章 なぜセブン‐イレブンはミールサービスを始めたのか
第3章 アジアが日本の流通を変えた―ユニクロの成功の秘密を探る
第4章 そうは問屋が卸さない―いま中間流通に何が起きているのか
第5章 情報通信技術で変わる日本の流通
第6章 都市の変容とともに小売業も変わる
第7章 チャネルリーダーの地位を確保せよ
第8章 アジアの需要を日本の内需に
結びにかえて―流通の現場は刺激に満ちている
著者:伊藤元重
1951年生まれ。東京大学経済学部卒業。米国ロチェスター大学大学院経済学博士号取得。専攻は国際経済学。東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長。

書評レビュー

本書は、日本経済をマクロとミクロの両方の観点から理解するための素材として「流通」にフォーカスを当て、今後の日本経済の動向を見通そうという一冊です。

筆者は、東京大学の教授であり、経済学者としてテレビ東京のワールドビジネスサテライトでコメンテーターなどを務めている人物です。

その研究分野は多岐に及びますが、特に流通業界については、これまで30年間近く研究を続け、実際に流通の現場を歩いて回るその研究手法から「ウォーキング・エコノミスト」と呼ばれています。

なぜ流通業界から経済動向を見通せるのか?

本書のテーマは、流通業界から日本の経済動向を見通す、というものですが、なぜ流通業界を素材としたのでしょうか?これに対して、筆者はこう解説しています。

『流通は、経済のあらゆる面に関わっている。消費の変化、都市の姿、グローバル化の波、価格設定行動、金融的な関わり、政府の規制、メーカー・問屋・小売りの垂直的関係等々、例を挙げればきりがない。要するに、経済的に興味深い現象が何らかの形ですべて流通の中に見えてくるのだ。』

確かに、流通と言えば、小売・卸売業といった直接的なプレーヤー以外にも、メーカーや流通施設・百貨店などの店舗を賃貸する不動産業界など、多様な経済主体が関わっているため、この流通業で起きている変化は、日本経済の縮図と言えそうです。

本書では、百貨店、大型スーパー、コンビニといった小売業におけるキープレーヤーの変遷、チャネルリーダーのシフト、そして、アジアが日本の流通に与えた影響といった最近30年間における流通業界の動きを紹介しながら、どのように日本の消費者の動向が変化していったのかが解説されています。

チャネルリーダーの地位の確保 ~アップルがなぜ儲かったのか~

アップルと言えば、iPhoneなどのスマートフォンやiPadなどのタブレット端末で有名ですが、なぜアップルだけが特に大きな利益を上げているのでしょうか?

魅力的な製品、ブランディング戦略…、など様々な理由が考えられますが、著者は、流通の視点から、その答えを示しています。

それは「アップルはこの世界でチャネルリーダーのポジションをとったからだ」というものです。

『アップルのケースで言えば、(チャネルリーダーとして)価格決定権を握っているのはアップルである。また、アップルと取引をするため、多くの企業は競い合っている。アップルはその競争を利用して高い利益を上げているのだ。』

これは、バリューチェーンにおいて、価格決定権を握るチャネルリーダーのポジションを獲得することが、企業が高い利益を確保する上でとても重要であるということです。

日本のケースを見てみると、以前は、メーカーがこのチャネルリーダーのポジションに君臨していましたが、ダイエーの登場によりその牙城は崩され、現在では様々なプレーヤーがチャネルリーダーになるべく争っている状況です。

最近では、このチャネルリーダーのポジションを確保したユニクロが大きな利益を上げていますが、このユニクロとの関係でいうと、ヒートテックの糸を開発している東レも実はチャネルリーダーとなり得るそうです。

まとめと感想

他にも、百貨店や問屋(卸売業)の栄枯盛衰が描かれるなど、流通業の最近の動向がまとめて把握できるため、読み物としても非常に面白い内容でした。

著者も述べているように、流通は様々なビジネス分野と密接不可分なことから、本書は流通に加え、様々な分野に関する知識も得ることができると思います。ビジネス視野を広げる上でも参考になる一冊です。

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