書評『ウォール街の物理学者』
(ジェームズ・オーウェン・ウェザオール/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
イントロダクション 不可能を可能にした男
第1章 パリの孤独な天才
第2章 鮭の泳ぎと株価のゆらぎ
第3章 海岸線の長さはどれくらい?
第4章 ディーラーをやっつけろ!
第5章 物理学がウォール街にやってきた
第6章 サンタフェ街道の予想屋たち
第7章 ドラゴン・キングの足音
第8章 新たなるマンハッタン計画
エピローグ 経済の未来を救うために
著者:ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール
物理学者、哲学者、数学者。カリフォルニア大学アーバイン校准教授。ハーバード大学卒業後、スティーブンス工科大学で数学・物理学の博士号を、カリフォルニア大学で哲学の博士号を取得。 時空理論の数学的・概念的基礎を中心に幅広く研究を進める傍ら、『USAトゥデイ』『ボストン・グローブ』『サイエンティフィック・アメリカン』などに一般向け科学記事を寄稿。若手サイエンスライターの旗手として注目を集めている。

書評レビュー

「ウォール街」を席巻する物理学者たち

現在、NYにある世界の金融センター「ウォール街」を席巻しているのは「誰」なのか?これは、現在の金融界のトレンドを理解する上でとても重要な質問とも言えます。

そして、本書「ウォール街の物理学者」を読めば、それが物理学者たちであることが分かります。「ウォーレン・バフェット」、「ジョージ・ソロス」・・・、巨額の資金を動かすファンドマネージャーとして世界中で有名な彼らをしのぐパフォーマンスをあげ続けている人物、それは、「ジェームズ・シモンズ」と呼ばれる人物です。

ファンドマネージャーとしての彼の名前を聞いてピンとくる方はあまりいらっしゃらないと思います。なぜならば、彼は物理学者として高名な人物だからです。

圧倒的なパフォーマンスを誇る「物理学者」ファンド

シモンズ氏は「ルネサンス・テクノロジーズ」を立ち上げ(金融を連想させない社名です)、「メダリオン」というファンドのマネジメントを開始しました。

このファンドのパフォーマンスが、他のファンドを比較していかに飛びぬけているかを表すエピソードがこちらです。

『(設立からの)10年で、メダリオンは2,478.6%という驚異の収益率を叩き出した。世界中のどんなヘッジファンドにもそんな数字はだせない。メダリオンについで二位につけていたジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドですら、この期間の総リターンは1,710.1%だ。』

これは、物理学者が世界の金融センターたる「ウォール街」の中心にいることを端的に表すエピソードと言えるのではないでしょうか。また、ルネサンス・テクノロジーの従業員の三分の一が、物理学、数学、統計などの博士号を持っています。

かの有名なマサチューセッツ工科大学の数学科の教授でさえも、「ルネサンスには世界中のどんな大学よりも優秀な物理学者や数学者が集まっている」とまで述べています。

ここで重要な点は、ルネサンス・テクノロジーに優秀な人材が集まっている点もそうなのですが、投資ファンドを運営しているのに、「ファイナンス専攻の博士号」取得者が「集まっていない」点です。

『ルネサンスはウォールの匂いがする人間を決して雇わない。ファイナンス専攻の人間は門前払いだし、投資会社やヘッジファンドに勤めた経験のある人間もお断りだ。金融の専門家をあえて避けるというのがシモンズの戦略なのだ。』

なぜ物理学者が金融業界で成功できるのか?

しかし、ここで気になるのが、なぜ物理学者が、一見すると畑違いとも思える金融業界で成功したのか、ということです。

その理由として、物理学特有の「問題解決へのアプローチ」が金融の分野でも通用したからだと筆者は述べています。例えば次のようなアプローチです。

『まず、問題をわかりやすくするために、シンプルな前提を立ててみる。その条件でうまく問題が解決しそうなら、今度は最初に立ち戻って前提条件を疑ってみる。もしも前提条件が現実にそぐわなければ、解決策を考え直さなければならない。

うまくいけば、ちょっとした調整だけで使えるようになるかもしれない。あるいは、特定の条件ではとてもうまく機能するけれど、別の条件では新たな対応を考える必要があるかもしれない。』

また物理学者は、金融・経済学の専門家と違い、政治的・立場的な縛りから自由に物事を考え、新たな視点から問題を見ることができることも理由として挙げています。

まとめと感想

シモンズ氏のメダリオンファンドはリーマンショックの時にも好パフォーマンスをあげていたようです。

本書ではほかにも、リーマンショックのような金融動向を踏まえた上で、物理学が世界中の経済問題の解決の端緒となるのではないか?という提言や、物理学者がウォール街でその地位を確立するまでの歴史なども物語風に描かれています。

若干難解な内容ではあるものの、昨今の経済動向(特に株式市場)がどのように動いているのかを知ることができる良書だと思います。ぜひ一度手に取ってみてください。

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