書評『そして日本経済が世界の希望になる』
(ポール・クルーグマン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 「失われた20年」は人為的な問題だ(日本の経済不振は自らが蒔いた種「流動性の罠」が発動する条件 ほか)
第2章 デフレ期待をただちに払拭せよ(なぜデフレよりインフレが望ましいのかピグー効果を相殺する経済条件 ほか)
第3章 中央銀行に「独立性」はいらない(英財務省の一機関だったイングランド銀行なぜFRBの独立性は問題にならないのか ほか)
第4章 インフレ率2パーセント達成後の日本(株式市場はそもそも不安定なものインフレで財政問題は大きく好転する ほか)
第5章 10年後の世界経済はこう変わる(金融危機で表出した「恐慌型経済」アメリカはまだ地盤を取り戻せていない ほか)

著者:ポール・クルーグマン
1953年ニューヨーク州生まれ。74年イェール大学卒業。77年マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。イェール大学助教授、マサチューセッツ工科大学教授、スタンフォード大学教授を経て、2000年よりプリンストン大学教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授も兼任。大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行、EC委員会の経済コンサルタントを歴任。1991年にジョン・ベイツ・クラーク賞、2008年にノーベル経済学賞を受賞。『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムはマーケットを動かすほどの影響力をもつといわれる

書評レビュー

「ノーベル賞経済学者」が語るこれからの日本経済

「ノーベル賞経済学者」、「経済学の鬼才・天才」・・・本書『そして日本経済が世界の希望になる』の筆者は、経済学者として世界的に著名な「ポール・クルーグマン」氏。

相手がだれであろうと強烈な批評を行うパーソナリティを持つ筆者ですが、ニューヨーク・タイムズに寄稿しているコラムの内容が株式市場に影響を与えると言われるほど、経済界における存在感は群を抜いています。

『いまこそ世界は日本を必用としている。(中略)その行く末をいま、多くの国が固唾を呑んで見守っている。日本よ、今こそ立ち上がり、世界経済の新しいモデルとなれ。』

とあるように、本書ではポジティブな観点からアベノミクスや日本経済を論じています。

筆者は、以前からバブル後のいわゆる「失われた20年」における日本銀行の政策を厳しく批判していましたが、本書でもそのスタンスは変わっていません。

筆者の日銀への批判を端的に表した言葉をご紹介しますと、「日銀の政策は船に乗り遅れた」となります。これは、日本には「デフレ」を脱却することができるタイミングがあったにも関わらず、「デフレはそれほど悪くない」というメッセージを発したり、時の政府の反対を押し切って2006年に金融緩和政策を解除した日銀への痛烈な批判でもあります。

この書評では、日銀の今までの政策に対する筆者の批判とアベノミクスへの評価について、紹介していきます。

最長の景気回復期でもデフレ脱却に失敗した日銀

2002年から2008年にかけて、いわゆる「いざなみ景気」とよばれる長期景気回復期間がありました。

筆者は、当時の日銀がインフレ率を1パーセントでも上げることができたなら、状況は変わっていたはずだと主張しています。

『経済が回復してデフレから脱却しそうにみえたとき、「今こそマネタリーベースを増やしつづけ、みなを驚かせるときだ!」という意識がなかったどころか、日銀はデフレを終わらせるため、いかなるリスクもとるつもりがなかった。実際に彼らは経済がようやく立ち直りかけた途端に手を引いた。だからデフレは続いたのである。』

これは、上述した2006年の金融緩和政策解除を指しての発言ですが、筆者はこの日銀の政策に対して、「前進しようという気持ちがなかったのだろう」と厳しく断じています。

世界で評価されているアベノミクス

そして、量的緩和を行いながらインフレターゲット2%と設定し、デフレ脱却を目指す「アベノミクス」についてです。

アベノミクスは著者をはじめ米国元財務長官ローレンス・サマーズなど、経済界の著名人から好意的に評価されています。ただし、デフレに慣れてしまった我々日本人からすると、物価の上昇につながるインフレに対する不安感があるのは否めません。

また、今回のアベノミクスによりハイパーインフレが起こる可能性があると主張する学者もいます。それに対して、筆者はこう解説しています。

『インフレはコントロールできない、一度暴走しはじめたら止めることは不可能で、あっという間にハイパーインフレになる、とまことしやかに語る人物を今後、信用してはならない。方法論的にはそれは何の問題もなく制御できる。日銀はいつでも短期金利を上げられる。政治的にそうしたくないというだけだ。』

そして、ニューヨーク・タイムズに寄稿した「モデルとしての日本」の中でこのように述べています。

『経済を立て直そうとする日本の努力についての全体的な評価は、今のところ良好だ。(中略)もしアベノミクスがうまくいくなら、それは日本にとっても不可欠な成長の押上げをもたらし、その他の世界には政策の無気力さに対して必要な解毒剤を与えるという、二つの目的を果たしてくれるのだから。』

本書では、現在の日本においてデフレよりもインフレが求められる理由や世界の中央銀行の政策などが詳細、かつ幅広く紹介されています。また、10年後の世界経済の動向に対する筆者の見解も解説されておりますので、金融業界の方を含め、ビジネスパーソンの皆さんに、非常に読み応えのある一冊です。

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