書評『経済学は人びとを幸福にできるか』
(宇沢 弘文/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1部 市場原理主義の末路
第2部 右傾化する日本への危惧
第3部 60年代アメリカ―激動する社会と研究者仲間たち
第4部 学びの場の再生
第5部 地球環境問題への視座
著者:宇沢 弘文
 東京大学名誉教授。日本学士院会員。1928年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院に進み、特別研究生。1956年スタンフォード大学に移り、同大学経済学部助教授、カリフォルニア大学助教授を経て、シカゴ大学教授。1969年東京大学経済学部教授。その後、新潟大学教授、中央大学教授。2003年4月~2009年3月同志社大学社会的共通資本研究センター長。1997年文化勲章受章。世界計量経済学会会長を務めた。成田空港問題にかかわり、都市問題、地球温暖化問題に取り組む。近年は社会的共通資本の考え方の普及に力を注いでいる。

書評レビュー

「社会的共通資本」と人間の心を重視した経済学

著名な経済学者 宇沢弘文氏が、多くのエッセイや論文から、経済学と、幸福や人間の在り方を論じた一冊。表紙の仙人のような風貌が特長的ですが、著者は東大名誉教授、スタンフォード大学、シカゴ大学、カリフォルニア大学などの教授を歴任した、著名な経済学者です。

本書は経済書ではなく、著者のエッセイや論文を再構成したものですが、ローマ法王や昭和天皇とのエピソードが出てきたりと、読みやすいながらも経済に対する本質的な問いかけが多い一冊でした。

著者の経済理論は「社会的共通資本」という考えにもとづくもので、いわゆる市場原理主義に反対する立場ですが、興味深い内容だと思います。この書評では「社会的資本」についての内容を紹介していきます。

「社会的共通資本」とはなにか

著者は「社会的共通資本」とは何かについて、以下のように説明しています。

「社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇に分けて考えることができる。自然環境は、大気、水、森林、河川、湖沼、海洋、沿岸湿地帯、土壌などである。

社会的インフラストラクチャーは、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど、ふつう社会資本とよばれているものである。(中略)制度資本は教育、医療、金融、司法、行政などの制度を広い意味での資本と考えようとするものである」

そして、これらを市場原理ではなく、社会の共有財産という思想のもと保護、充実をはかっていくことが国民の幸福に資する、というものになります。

「社会的費用」とはなにか

また、「社会的共通資本」の前提となる「社会的費用」という考え方があるのですが、前書きで池上彰さんが、著者の「自動車の社会的費用」という本に触れながらこのように紹介されています。

「当時、多くの国民が自動車を保有して乗り回すようになった日本で、自動車は富のシンボルでした。自動車生産が激増することで、日本経済も大きく躍進していました。その一方で、自動車事故の件数は増え、排気ガスによる大気汚染も深刻になりつつありました。

宇沢教授は、こうした自動車の台数が増えることによって発生する『社会的費用』の膨大さを指摘・告発したのです。」

つまり、自動車の普及のためには舗装道路などの莫大な公共的投資が必要だったが、自動車会社や運転者はこれらを負担していない(していても足りない)という視点です。その結果、公共交通(路面電車など)が衰退し、経済的弱者が犠牲になっている、ということを指摘したものです。今なお説得力のある一冊ですので、こちらも気になる方は読んでみて下さい。

まとめと感想

著者の学問や政治的な立場には捉え方がいろいろあると思いますが、一読すると著者の生涯は一貫して「人間的な」経済学を追及してきたものだとわかります。

現在注目を浴びている「行動経済学」とはまた違う観点ですが、本書ではほかに大きなテーマとして「環境問題」や「教育」についても多くの紙面を割いて触れられています。政治経済や社会学的関心がある方も参考になる内容だと思います。

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