書評『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』
(渡邉 格/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
・第一部 腐らない経済
第一章 何かがおかしい(サラリーマン時代の話・祖父から受け継いだもの)
第二章 マルクスとの出会い(父から受け継いだもの)
第三章 マルクスと労働力の話(修業時代の話1)
第四章 菌と技術革新の話(修業時代の話2)
第五章 腐らないパンと腐らないおカネ(修業時代の話3)

・第二部 腐る経済
第一章 ようこそ、「田舎のパン屋」へ
第二章 菌の声を聴け(発酵)
第三章 「田舎」への道のり(循環)
第四章 搾取なき経営のかたち(「利潤」を生まない)
第五章 次なる挑戦(パンと人を育てる)

著者:渡邉 格
 1971年生まれ。東京都東大和市出身。23歳のとき、学者の父とともにハンガリーに一年間滞在。農業に興味を持つようになり、千葉大学・園芸学部園芸経済学科に入学。在学中、千葉県三芳村の有機農家で「援農」を体験。「有機農業と地域通貨」をテーマに卒論を書く。卒業後有機野菜の卸売販売会社に就職、そこで妻・麻里子と出会う。31歳のとき、突如パン屋になることを決意。2008年独立して、千葉県いすみ市で「パン屋タルマーリー」を開業。2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故ののち岡山県真庭市に移住を決意。2012年2月、同市勝山で「パン屋タルマーリー」を再オープン。

書評レビュー

田舎のパン屋から学ぶ経済論

本書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』は、「パン屋」を舞台に、「マルクス」や「エンデの遺言」といった経済論・金融システム論などを学ぶことができる一冊です。

筆者は、人口1万人未満の岡山県真庭市勝山で天然酵母を使用した「パン屋タルマーリー」を営む店主なのですが、30歳まで定職につかず、食品卸売会社を経て、パン屋を開業したという異色の経歴の持ち主。

筆者は、パンづくりの相棒である「菌」のもたらす「腐敗」こそが自然の摂理であり、「腐らない」ことは自然の摂理に反しているとした上で、現代経済は「腐らない経済」だと述べています。その際、エンデの「腐らない貨幣」の考え方を例にとり、このように説明しています。

「エンデはおカネの性質が変わり、増殖に歯止めがかからなくなっている危うさを指摘した。それによって、21世紀の資本主義は、文字どおりどこまでも「利潤」を増やすことが可能になっているというのだ。

作用が大きくなれば、反作用も大きくなるのが、ものの道理。「利潤」を追求する力が強くなれば、そのために犠牲にされるものも大きくなる。」

筆者は、この「腐らないおカネ」が生み出す資本主義の矛盾(生活が豊かになる一方、豊かではなくなる)を抱えた経済を「腐らない経済」としているのです。

「腐る経済」とはどのようなものか?

筆者は、そんな「腐らない経済」が当たり前の現代だからこそ、筆者が岡山県の小さなパン屋で見つけた、「腐る経済」を大切にして生きていってはどうかと提唱しています。そんな筆者が述べる「腐らない経済」の柱は、パン屋らしい言葉を用いながら、以下の4つとされています。

1.「発酵」
2.「循環」
3.「利潤を生まない」
4.「パンと人と育てる」

このうち「発酵」についての記載が特にパン屋らしくて面白かったので、ご紹介します。パンを発酵させるために必要な「菌」にも酵母菌など様々な種類が必要になるとのことですが、筆者は麹菌については「天然麹菌」を自家培養して使っていると解説しています。

一方で、一般的なパン屋は、この麹菌をはじめとする菌については外部から購入したものを主に使っているようです。筆者はこれを「借菌」と呼んでいます。

「食の世界では、肥料の大量投入で生命力の弱い作物をつくり出し、それを「腐敗させない」ために、強力な純粋培養菌を開発して外から「菌」をつぎ込み(「借菌」)、さらに添加物を使い、食べ物を「腐らない」ようにする。」

そして、この「借菌」も「借金」も構造は同じとして、こう解説しています。

「「腐らない」現代の資本主義経済は、恐慌もバブル崩壊も許容しようとしない。財政出動(赤字国債)や金融政策(ゼロ金利政策・量的緩和)で、おカネという名の肥料を大量にバラ撒いて、どこまでも経済を肥らせつづけようとする。」

まとめと感想

上述のとおり、経済などに関する考え方はとてもシンプルなものばかりが紹介されているのですが、パン屋という、筆者曰く「小商い」のフィルターから見た考え方ですので、時に新しい切り口も紹介されています。

筆者としても「腐らない経済」を全否定するというよりは、「腐る経済」のような考え方を持ちながら生活することで、得られることもたくさんあるというのが筆者の真意だと思います。

「菌」や「発酵」といったパン屋ならではの用語や、パン屋を経営する際の「利潤」の考え方などのエピソードも紹介されている、読み物としても面白い一冊です。ライフスタイルを再考する上でも、参考になる一冊と言えるかもしれません。

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