書評『劣化国家』
(ニーアル・ファーガソン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 なぜ西洋は衰退したのか
第1章 ヒトの巣―民主主義の赤字
第2章 弱肉強食の経済―金融規制の脆弱さ
第3章 法の風景―法律家による支配
第4章 市民社会と非市民社会
結論 大いなる衰退論からの示唆
著者:ニーアル ファーガソン
 ハーバード大学歴史学教授。1964年、イギリス、スコットランドのグラスゴー生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジ卒業。イギリスで最も著名な歴史学者の一人。邦訳書に『文明――西洋が覇権をとれた6つの真因』(勁草書房、2012年)、『マネーの進化史』(早川書房、2009年)、『憎悪の世紀――なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか』(早川書房、2007年)。

書評レビュー

西洋文明の衰退は「制度」の疲弊によるもの

 気鋭のハーバード大学の歴史学教授が、「西洋文明の衰退」に着目し、衰退の必然性と、国家の未来について論じた一冊。特に「先進国の未来」についての示唆があり、英国BBC(イギリス公共放送)のTV番組「リースレクチャー」での講義が書籍化されたものです。

まず、著者は西洋の諸国家(文明論的に日本も含まれる)が停滞していることを指摘しています。

「西洋が現在、過去500年間に経験したことのない、相対的な衰退を迎えているのは、ほぼ間違いない。1978年に、平均的なアメリカ人は平均的な中国人の20倍以上豊かだったが、いまその差は5倍に縮まっている。

 西洋とその他世界の格差は、あらゆる面で劇的に縮小している。一部のアジア諸国は、平均余命と教育達成で、ほとんどの西洋諸国を上回っている。」

 そして、それら低成長の要因は、著者によれば、世間で言われているように「デレバレッジ(債務の圧縮)」による痛みを伴うプロセスではありません。問題は、西洋の法と制度、すなわち本当の原因は、国家を規定する「制度」の疲弊である、というのが本書の主張です。「制度」について、著者は以下のように定義します。

 簡単にいってしまえば、人間にとっての制度は、ハチにとっての巣のようなものだ。制度とは、わたしたちが集団として組織化されるための機構をいう。

 ハチが巣に入ればそれとわかるように、わたしたちも制度の中に身を置けばそれとわかる。制度には境界があり、壁があることも多い。また重要なことに、制度には規則がある。

 そして、西洋文明の制度を構成する4つの要素についても言及しています。これら4つが本書のテーマであり、これまで西洋文明を発展させてきた原動力であり、そして今まさに制度的疲弊に陥っているものです。

「民主主義」
「資本主義」
「法の支配」
「市民社会」

 本書では1章ずつ、上記4つの制度的衰退を論じていくのですが、この書評では特にビジネスパーソンになじみが深い「資本主義」について紹介します。

制度的機能不全に陥る「資本主義」

 なぜリーマンショックに代表されるようなバブルや金融危機が起こり続けているのでしょうか?著者は現在の相互依存した金融システムの「脆弱性」、そして制度としての「規制」にその原因をもとめています。

 そして、一般的にいわれているように国家介入による「規制緩和そのものが悪」なのではなく、「複雑すぎる規制が悪」であるとして、その課題感をこのように述べています。

「問題なのは、いま考案され、導入されつつあるような新しい規制に、将来の金融危機の制度や規模を抑え、事態を改善する効果があるかとどうかだ。わたしにいわせればその見込みはほとんどない。それどころか、新たな規制は正反対の効果をもたらすだろう。」

 では、どうすればいいのでしょうか?著者は金融トレーダー出身の哲学者ナシーム・タレブ(「ブラック・スワン」の著者)の「抗脆弱性」の概念を引用しながら、このように述べます。

「脆弱の反対は何か?「堅牢」や「強力」は違う。それほど脆弱でない、という意味しかないからだ。脆弱の反対は「抗脆弱性」だ。動揺にさらされるとかえって強くなるシステムを、抗脆弱性があるという。要するに、規制はシステムの抗脆弱性を高めるよう、設計されなくてはいけない。」

西洋の資本主義をもう一度機能させるためには

 具体的には「中央銀行の強化」など5つの対抗手段を提案しており、詳細は本書に譲りますが、最も効果的で重要なのが、「罪の報いをきっちり受けてもらうこと」だといいます。

 つまり、これも法の支配と関連するのですが、金融制度のもっとも大きな欠陥は、住宅バブルを引き起こすなどの経済犯罪への処罰がほとんど行われていないということです。たとえば、サブプライムローン問題にからみ倒産した住宅ローン会社で、CEOをしながらインサイダー取引をしたとして証券取引委員会(SEC)に告訴された人物がいます。

 彼は罰金6750万ドルを支払って和解が成立しましたが、彼が同社の株を含め5億2,000万ドル近く、つまり罰金のほぼ10倍の報酬を受け取っていいます。このことからも著者は「この領域で刑法が機能していない」と述べています。

 本書で取り上げられる論点には政治経済からテクノロジーの進化、教育まで多岐にわたっており、ダニエル・クルーグマンからジャレド・ダイヤモンド、トクヴィルなど、様々な論者を登場させながら多様な視野を提供しています。

 また、歴史的な考察から、2014年以降に非西洋文明諸国(中東、アジアなど)で起こるリスクは、「革命」と「戦争」であると指摘するなど、衝撃的な内容もあります。すぐにビジネスに役立つ類の本ではありませんが、歴史、政治・経済、金融、国家など、マクロなものの見方を取り入れたい方は、ぜひご一読ください。

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