書評『アベノミクスの幻想 日本経済に「魔法の杖」はない』
(池田信夫/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 アベノミクスは偽薬である
第2章 「黒田バズーカ」の逆噴射
第3章 デフレの正体はグローバル化だ
第4章 金融危機が財政危機を呼ぶ
第5章 成長戦略より雇用改革
第6章 日本経済の再生に何が必要か
著者:池田 信夫(イケダ ノブオ)
 株式会社アゴラ研究所所長。SBI大学院大学客員教授。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを歴任。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『イノベーションとは何か』(東洋経済新報社)、『「空気」の構造』(白水社)、共著に『「日本史」の終わり』(PHP研究所)などがある。
池田信夫blogのほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

書評レビュー

アベノミクスへの賛否両論

「アベノミクス」については、賛否両論あわせて、様々な著書が執筆されています。経済本や政策関連本については、Amazonのレビューでもそうですが、読者の反応も肯定・否定真っ二つにわかれるようです。本書『アベノミクスの幻想:日本経済に「魔法の杖はない」』の立ち位置は明確で、反リフレ派、つまりアベノミクスに反対している立場です。

著者は、言論ブログ「アゴラ」も主宰している、ブロガーとして著名な池田信夫氏で、本書ではアベノミクスの政策の(①金融政策によるデフレ脱却戦略、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略)ついて、ばっさりと下記のように述べています。

アベノミクスはよくいって空回りで、悪くすると財政破たんのリスクを増加させかねない。株価は上がったが長期金利も上がり、住宅ローンや長期プライムレート(優遇貸出金利)も上がり始めた。安倍氏は金融政策に過大な期待をかけているようだが、日銀が成長率をあげることはできない。日本経済の抱える問題を一挙に解決する『魔法の杖』はないのだ。

では、なぜアベノミクスを評価していないのか、多くの理由が挙げられいますが、この書評ではその理由の一つである、「国家の成長段階」について紹介していきます。

国家の成長段階からみるアベノミクス施策の失敗

アベノミクスが牽引する「円安」施策について、著者は以下のように述べています。

「円が弱くなることは資産価値が減ることであり、本来は望ましくない。それが経済を改善するのは、貿易黒字が経済を支えていた高度成長期の「貿易立国」の時代の話であり、いつまでも続けることはできない。」

そして、国家の国際収支である貿易収支(輸出入)、資本収支(金利、為替など)、所得収支(対外投資、証券投資など)などから、以下のような国家の成熟段階を示しています。

1.途上国:貿易収支は赤字で、資本収支は黒字(流入超)
2.成長国:貿易収支は黒字になるが、所得収支は赤字なので計上収支は赤字
3.輸出国:経常収支が黒字になり、経常収支は大幅な黒字
4.債権国:貿易収支と所得収支が黒字になり、経常収支は大幅な黒字
5.成熟国:貿易収支は赤字になるが所得収支は黒字で、経常収支の黒字が縮小
6.衰退国:経常収支が赤字になって資本収支が黒字(対外資産を取り崩す)

そして、日本は戦後60年で1~5まで駆け抜け、6の段階に入ろうとしているが、経済構造が3の時代でとまっている点が問題だと指摘しています。

そして、製造業を中心とした輸出(貿易収支)で利益を出すのではなく、いまのうちから現資産(円)を有効活用して、グローバルに投資していく経済構造に転換すべきだと主張しているのです。

要するに日本は貿易立国の時代を過ぎ、減っていく所得を金利収入で補う「年金生活者」になったのだ。日本の長期停滞は、円安で解決するような簡単な問題ではない。

これから大事なのは、もうあまり増えない資産の価値を守ることだが、いまだに高度成長の夢を忘れられない政治家が円の目減りを喜んでいるのは困ったものだ

バブルは再び起こるのか?

にわかな好景気感によって、すわバブルの再来か?と騒がれているところがあり(実際に都内湾岸エリアの地価はあがっているようですが)、バブル景気の実現性についても本書では触れられています。

著者は「バブルは起こらない」と端的に述べていますが、その理由として、強い「物語」がないからである、と続けています。人間の心理がバブル経済の形成に影響するとしたら、興味深い指摘だと思います。

これから、80年代のような株価・不動産のバブルは起こるだろうか。私は起こらないと思う。バブルにはカネ余りだけではなく、物語が必要だからである。

80年代には「日本企業が世界を制覇する」という物語がメディアで語られた。地価が上がると業績の悪化していた重厚長大企業が「内需関連株」として買われ、企業がその不動産を担保にして銀行の融資を受けて「財テク」で株式を買う…というように地価と株価がスパイラル状にあがった。(中略)こういう強力な物語に比べると、自称エコノミストの流しているあやあしげなリフレ論は、物語としての説得力は格段に落ちる。

東京オリンピック誘致の成功も含め、アベノミクス否定派は分が悪いような空気になっていますが、国家政策としてはもうしばらく様子を見なければ、結論が出せないところだと思います。アベノミクス肯定派の一冊とあわせて、未来のシナリオを考えるには、データも豊富で参考となる一冊です。

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