書評『統計思考入門』
(水越 孝/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章:数字で考えることのおもしろさ
第2章:「同じもの」のなかに違いを見つけ出す
第3章:「違うもの」のなかに同じところを見つける
第4章:「全体」から「小さい全体」をつくる
第5章:「事実」は「真実」と一致するか
第6章:「迷い」から抜け出すための手法
第7章:数字に現れた現実にいかに対処するか
第8章:自然公園がもたらす経済効果は?
第9章:統計的アプローチで発想するということ
著者:水越 孝
矢野経済研究所 代表取締役社長。1961年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。1989年、矢野経済研究所入社。流通、消費財関連の専門研究員として、調査実績を積む。
流通、ファッション分野の経営情報誌 「ヤノニュース」編集長、営業本部長、生活産業調査本部長などを経て、新規事業部門である戦略事業推進本部の発足にともない、本部長に就任。
中小企業支援、ベンチャー育成、ビジネスマッチングなど、ビジネスソリューション事業の立ち上げを担当。
2005年、代表取締役就任。芝浦工業大学非常勤講師、 拓殖大学客員教授を歴任。矢野経済信息諮詢 (上海)有限公司董事長、一般社団法人中野区産業振興推進機構理事。論文などの寄稿、講演実績も多数。

参考)
株式会社 矢野経済研究所/1958年、矢野雅雄により創業。
「調査能力をもって日本の産業に参画にする」を経営理念に、国内外でリサーチ活動を展開する日本を代表する独立系市場調査機関。ファッション、サービス、食品、医療、IT、自動車、先端素材、環境エネルギーなど、主要産業のすべてに専門の研究員を配置。
年間250タイトルの調査レポートを発刊するとともに、600件を超えるコンサルティングプロジェクトを実施する。フィールド調査に軸足を置いた現場本位のマーケティング情報は、産業界から高い信任を得ている。
東京、名古屋、大阪のほか、ソウル、上海、台北に事業所をもち、近年はアジアグローバル市場におけるリサーチ&ソリューション活動を強化している。

書評レビュー

データを読むプロが、統計的思考を解説

本書は、データ分析で有名な矢野経済研究所の代表・水越孝氏がデータ分析や統計的思考について解説した一冊。

矢野経済研究所といえば、ファッション、サービス、食品、医療、IT、自動車、先端素材、環境エネルギーなど、あらゆる産業の市場調査会社としても有名な、まさに統計分析のプロといえる企業です。

本書では、多くの実践例から統計分析の手法が解説されていますが、著者は本書執筆の目的はテクニック論ではなく、経営課題解決のための「最低限の知識と思考のプロセス」を習得してもらうためであるとして、次のように語っています。

「ビジネスの現場では、そのときどきの、それぞれの立ち位置に置いて最良の解が要求されますが、統計的な考え方、ものの見方はそうした局面において役に立ちます。(中略)

何度もこうしたプロセスを繰り返していくなかで、何気なく見過ごしていたり、見えているはずなのに気がついていなかったりしたことが、ある日突然目の前にぱっと浮かびあがるときがあります。そう、まさに「ひらめき」を獲得する瞬間です。」

そして、「着眼点をずらす」「対象との距離を変える」など、ものの見方のバリエーションを増やすためのプロセスが解説されていきます。

クラスター分析で小売業を分析する

本書では主成分分析、重回帰分析、CVM(仮想的市場評価法)などの基本的な統計的手法が、ショッピングセンター出店時の強み分析、街頭調査、公共投資などの価値分析、などの事例をもとに取り上げられていますが、この書評では「クラスター分析」についてご紹介します。

クラスター分析とは、ある製品に強いニーズを持つ消費者グループの特定などに有効とされる分析手法で、具体的には消費者調査(年齢、購買行動特性などの属性)によって分類し、ニーズを探るものです。

本書ではこの階層型クラスター分析の実践例として、「小売業」を例にとり、業態や事業構造の視点から「似たもの同士」を探っていくステップが解説されています。

サンプルとして挙げられているのは、一見「小売業」ということしか共通点がない10業種10社<ゼビオ、しまむら、ケーヨー(DIY)、キャンドゥ、新星堂、ユナイテッドアローズ、青山商事(紳士服)、マミーマート(食品)、サンドラッグ(医薬品)、コジマ(家電)>

これら企業に対して、「変数」として、原価率、在庫回転率、1㎡あたり売上高、賃料比率などから段階的にクラスターをつくっていきます。

その結果は意外なもので、もっとも近いクラスターは「ゼビオ」と「しまむら」でした。どちらも強力なバイイングパワーを背景に、原価率、売上高人件費率、従業員1人当たり売上高などの類似点が指摘されます。

詳細は本書に譲りますが、さらにここに販促手法や営業生産性が類似している「ケーヨー」が加わり、「ゼビオ・しまむら+ケーヨー」のクラスターを組んでいます(実際には図表を用いてわかりやすく解説されています)。

このように、扱う製品の需要特性や顧客の購買特性などから、表面的にはわからない、ビジネスモデルの本質の理解へもデータ分析が応用できることが示されています。

まとめと感想

本書では、事例だけでなく実際の作業手順についても詳しく解説され、データを「読む」観点からも、「作る」観点からも参考となる一冊となっています。

著者も、「数字は周囲や組織を動かすための最上の武器」と述べているように、統計的リテラシーは、結論が想定通りだとしても、意思決定にかかわる全員が議論の前提となる事実を数字でずれずに共有することができます。

そのような意味でも、入門的すぎず、かつ専門的すぎずバランスのとれた内容ですので、マーケティングなどでデータを扱う方はもちろん、経営企画など実務で「意志決定」に携わる方にも参考になる一冊です。

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