書評『歴史をつかむ技法 (新潮新書)』
(山本 博文/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 歴史を学んだ実感がない?
第1章 歴史のとらえ方
第2章 歴史の法則と時代区分
第3章 日本史を動かした「血筋」
第4章 日本の変貌と三つの武家政権
終章 歴史はどう考えられてきたか
著者:山本博文
1957(昭和32)年、岡山県生まれ。東京大学史料編纂所教授。近世政治史を中心に、武士の社会史から大奥女中の組織論まで、新たな江戸時代像を提示し続けている。著書に、『江戸お留守居役の日記』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)などがある

書評レビュー

歴史的思考力とは何か

日本史といえば「イイクニつくろう鎌倉幕府」など暗記中心のイメージが強く、歴史を学ぼう、といってもどこから手をつけらればいいのかわからない方が多いのではないでしょうか。本書は、歴史の「知識」ではなく「歴史的思考力」に着目し、日本史の流れがコンパクトにまとまった一冊です。

本書の特徴はいわゆる雑学的に○○の変の黒幕は○○、というような内容ではなく、「歴史学」の立場から、「歴史的思考力」を養うというものです。

著者は東大で歴史学の教授を務める山本博文氏で、専門は近世(江戸時代)の政治史とのことですが、本書では歴史的思考についての考え方と、日本史の流れをが一気通貫で論じられています。この書評では「歴史的思考力」についてと、「歴史を学ぶことは役に立つのか」について紹介していきます。

まず、著者が提唱している「歴史的思考力」とはどのような力なのでしょうか?著者は以下のように、歴史を学んだうえで俯瞰して眺める力であると説明しています。

『歴史的思考力とは、現代に起こる事象を孤立したものとしてではなく、「歴史的な視野の中で考えていく」ということだと考えています。現在、世の中で起こっていることは、事象そのものは偶然に起こったものかもしれませんが、そのすべてに歴史的な背景があります。

このことに留意できる歴史的な知識とそれを参照して考えられる思考力、つまり知性が必要です。(中略)そういうことを自覚することが、「歴史的思考力」なのだと思います。』

本書を通読してみると、著者は非常に科学的(信頼性ある証拠の積み重ね)、客観的な視点から歴史を眺めていることがわかると思います。

歴史的思考力とはつまり、人生経験から学んだ多面的な見方を”絶対視”せず(個人の人生は長くて100年程度なので)、さらに長い数千年の歴史の中で”相対視”して考える能力、ということだと読み解けます。

歴史から何を学ぶか

よく、ビジネスパーソンにとって歴史の思考や教養が必要なのは「先人の失敗から学ぶ」とか「過去を知り、未来を洞察する」ためであると言われます。

これは歴史学のなかでは「歴史に法則性がある」という立場の考え方ですが、実は「歴史に法則性などない(偶然である)」という立場も一定の存在感があることが説明されています。

そして著者は「歴史には法則性がある」という立場から、歴史から何を学ぶかについて語っています。

「たとえば、太平洋戦争で日本海軍がどうして負けたのかを研究することによって、こうした失敗を繰り返さないようにしよう、と考えることはできるでしょう。(中略)

こうした人間関係と重大な決定との関係については、現在の組織にも当てはめることができるので有用な研究です。ただし、ただ一人の意見だけではなく、さまざまな立場の人間の証言を参照し、できるだけ正確な見方に近づく科学的思考はやはり必要でしょう。」

ただし、さらに古い時代の歴史から学ぶには、一定の「注意」が必要であると述べています。

「たとえば、関ヶ原の戦いを分析して、企業経営の戦略の参考にするということができるでしょうか。(中略)時代もおかれた立場も違う場合には、そこには非常に注意が必要です。

前にも記したように、私たちはついつい、現代の常識で歴史を見てしまいがちですが、時代ごとに違う常識、違うルールがあるものなのです。戦国時代の武将を現代のヒューマニズムで断罪しても無駄なことです。」

特に、歴史的事実を「現代の価値観」で見ることは正しい歴史的思考ではない、という指摘が重要だと思います。

つまり、歴史から学ぶにしても、その時代背景や当時の常識に対する理解がないと、曲解してしまう(正しく教訓を学べない)ので、ある程度の歴史知識の教養が必須となるということです。(あえて曲解して、自分の考えの補強材料として使う場合もあると思いますが)

まとめと感想

各時代のエピソードは本書に譲りますが、いわゆる雑学的な意味ではなく、内容は多岐にわたります。たとえば歴史用語の扱い方(鎌倉時代に「幕府」はなかった、など)から、歴史学(マルクス史観、司馬史観など)まで、知的好奇心も十分に満たせる内容です。

また、上記のような前提をもとに日本史を1冊で概観できるので、歴史を専門に学んでいないが、ビジネス観点から歴史に興味関心があるというビジネスパーソンにとっても気づきの多い一冊だと思います。