- 著者プロフィール
第2章 姿勢 よく見て、どこでもやる
第3章 手順 育ち方を見る
第4章 運 機会を見て、偶然を取り込む
第5章 お金 お金の流れを見て位置取りする
第6章 お客 お客を見て、価値を提供する
第7章 人 人を見て組織を動かす
第8章 時 時代を見て、時代を超える
1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業。三井物産(株)入社。シリコンバレー、及び、マイクロソフト本社(シアトル)での研修、台湾三井物産駐在、ライフネット生命保険の前身の企画準備会社であるネットライフ企画株式会社の(非常勤)取締役などを経て、現在、三井物産(株)メディア事業部次長。2001年から私人としてネットでの発言を続ける。2004年にForesightに「日本がデジタル家電で勝ちきるために」を掲載、このままでは、台湾・韓国勢に敗れると警鐘を鳴らした。
書評レビュー
サラリーマンのための新規事業のつくり方
本書は、お台場の大観覧車、ライフネット生命など、様々な新規ビジネスを当事者として成功させてきた筆者が説く、新規事業の立ち上げ方の教科書的な一冊。著者は、三井物産にいながら社内新規事業や海外事業、ベンチャーへ企業への社外取締役などを経て、現在も現役で三井物産メディア事業部次長を務める小林敬幸氏。
特に一般のビジネスパーソンが企業の中で、どのように新規事業を立ち上げるか、という観点で書かれており、多くのビジネスパーソンにとって参考となる内容です。この本が執筆された背景として、以下のように述べられています。「サラリーマンこそ新規事業の作り方を学ぶべきである」、というユニークな指摘です。
「サラリーマン人生の寿命が20台から60代までの約40年で、一つのビジネスの寿命が10年ならば、サラリーマンの寿命のほうがビジネス寿命の4倍も長い。だから、一つの会社で定年まで勤めたとしても、少なくとも本人にとって杯まだ見ぬ新しいビジネスを3つ4つ担当しなければならない。(中略)
人気の高い業界や会社に就職することよりも、社会人になったあと、どこでも新しいビジネスをつくれるようにしたほうが、長い目で見てサラリーマン人生を幸せなものにするだろう。」
では、そんな著者が見てきた、新しいビジネスをつくるにあたり、もっとも重要なものとは何か、以下のように書かれています。
「新しいビジネスをつくるのに一番大切なのは、一言でいうと、よく見て、いろいろやるということである。業界や会社内での既存の視点とは異なるさまざまな視点から、また大所高所から、現場で起こっている現実をよく見る。そして、主体的にいろいろなアイデアをだし、たくさん検討し、大小問わず様々な試みを実行する。」
本書では上記の「多くを見て、多くを実行する」ための心構えから、アイデア発想、立ち上げ、顧客開拓、組織、拡大期まで、多くの実体験から網羅的に語られています。創発的戦略、お金の流れの見方、など事業創造のヒントが得られるであろう興味深い内容が多いのですが、この書評では、「新規事業で付加価値を提供するための4つの着眼点」を紹介します。
新規事業で付加価値を提供するための4つの着眼点
ビジネスをつくるにあたっては、「新しい付加価値を提供する」、という観点が必要とされますが、その際「付加価値」をつけるヒントとしての着眼点が4つ挙げられています。
1:ネットビジネスやものづくりビジネスにサービス的付加価値を提供する
「単なるモノの製造と販売だけでは、なかなか高収益のビジネスはできなくなってきている。そこに少しでいいから気の利いたサービス的付加価値を加えると、お客の支持を長期間得られて、しかも安値競争から離れて高い収益を維持できる。」
これはネットでもリアルでも同じで、具体的にはスターバックス(コーヒーだけでなく、くつろぐための場所と時間を提供するというコンセプト)、コマツ(建設機械にGPSをつけることで、稼働率アップ、盗難防止などの付加価値を提供)などが挙げられています。
2:成長実感を提供する
「成長実感」を付与することもビジネスをつくるために重要です。その理由について著者は以下のように述べています。
「消費者向けビジネスでは、お客に提供している価値は、結局、幸福感だ。その幸福感の中で、一番強いもののひとつは、成長実感であろう。何事でも日々努力していると、ある日自分が成長していることを実感する時がくる。その成長実感の幸せを味わいたくて、人は、努力し、勝負し、結果をもとめる」
たとえば、ワインの市場が大きくなったのは、ワインの理解度についてソムリエを頂点としたレベル分けと、消費者がそれを昇ることによって得られる成長実感が一因であると分析されています。
3:サプライズ(驚き)を提供する
サプライズを与えることができると、顧客に大きな支持を得られるというのは、よく言われることですが(特に接客・サービス業など)、この点についてもアドバイスしています。
「『当たり前の真実』とか、『意外だけどウソ』を言っても意味がないのであって、『真実であって、当たり前でないこと』が、驚きを与えることができる。」
また、苦労の割に儲からないサービスの特徴として、顧客に与えるサプライズがない(からくりが顧客にすべて見えてしまっている)ことが多いと指摘されています。
4:文化ギャップを使う
ここで言われている「文化」は、日本文化や海外文化といった意味ではなく、「価値体系」のことだと説明されています。
「そもそもビジネスというのは、文化の違いを見つけだすのが仕事ではないだろうか。紀伊国屋門左衛門は、和歌山(紀州)の価値体系では10円しか価値を認められないミカンが、東京(江戸)の価値体系では100円であるのを見つけだし、和歌山から東京にミカンをしこたま船で運びこんで売って儲けた。(中略)二つの異なる文化の違いを見つけだし、そこに融通し、チャンネルをつくって商品を流すのが商人であった。」
情報格差や流通格差があるところにビジネスの種があるということですが、いずれその格差は埋まっていきます(東京でミカンが高く売れるとわかると、徐々に和歌山でもミカンが値上がりします)。
しかし著者は、その異文化間の差異が解消され、資源の最適配分が行われることこそ、「ビジネスの社会的価値」であると言っています。商社マンとしての著者ならではの観点です。
ここでは消化しきれませんでしたが、本書では、どの業界でも使える基本的な新規ビジネスへの考え方から応用編(創発的戦略や、お金の流れや商流の見方など)まで幅広く網羅されています。今まさに新規事業に携わっている方だけでなく、多くのビジネスパーソンに世の中のビジネスの見方を教えてくれる良書です。
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