書評『ビジネス小説で学ぶ!仕事コミュニケーションの技術』
(齋藤孝/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 仕事コミュニケーションとは何か
-コミュニケーションの重要性ビジネスにもスピードが求められる時代 ほか
第2章 信頼を築くためのコミュニケーション
-自分の立ち位置をはっきりさせる三顧の礼 ほか
第3章 説得・交渉のためのコミュニケーション
-説得の「琴線」を探す感情を動かす決め言葉を使う ほか
第4章 謝罪に使えるコミュニケーション
-謝罪の基本土下座という謝罪 ほか
第5章 上司や部下とのコミュニケーション
-上司はモチベーターたれモウリーニョ監督に学ぶコミュニケーション ほか
著者:齋藤 孝
 1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

書評レビュー

ビジネス小説から、ビジネス・コミュニケーションを学ぶ

本日紹介する一冊は、仕事におけるコミュニケーション術を解説した本で、ハーバードのMBAでも教えられている「クリティカル・シンキング」を「ビジネス小説を通じて学ぶ」という内容が特長です。著者は、『声に出したい日本語シリーズ』や『雑談力が上がる話し方』もロングセラーとなっている斉藤孝教授です。

では、そもそも「クリティカル・シンキング」とはなんでしょうか?ご存じの方も多いと思いますが、「批判的思考」や「論理的、客観的思考」と訳されるもので、思考術というよりも、交渉術に近いスキルです。

どう言えばうまく事が運ぶのか、相手とどう関係性を築いていくか?という、まさに「仕事コミュニケーション」の基礎となるものです。本書ではクリティカル・シンキングの様々な要素が解説されているのですが、この書評では、その中から「相手を説得する3+1の秘訣」を紹介していきます。

相手を説得する3+1の要素

ビジネスにおいて、相手に何かをしてもらう、というシーンは多いものです。そこで「説得」のスキルが必要とされるのですが、著者は説得とは、相手の「琴線」に触れるものであるとして、次の3要素を抑える必要があるといいます。

相手の気持ち(=①感情)に配慮し、納得させるだけの材料(=②美意識や価値観に訴える論理性)を持って、利害関係(=③利得)を明確にする

ではその3要素(+1個最後に秘訣があります)についてみていきましょう。

要素(1)まず、感情に配慮する

まず、説得の初期段階で、相手を「話を聞こう」という気持ちにさせることが必要です。そのためには「感情」に配慮したコミュニケーションが重要になります。

人が怒りを覚え、合理的な判断ができなくなる――頭では正しいとわかっていても、感情的に受け入れられなくなる――もっとも根本的な原因は、自尊心にある。

要素(2)美意識や価値観に訴える

さらにもうひとつ、「規範」的な側面も説得のカギを握る要素であると説明されています。

人間は、合理的(左脳的)な側面と、情理的(右脳的)な側面の双方から物事を判断し、意志を決定しているが、それだけではない。特に日本社会では「世間」が切り離せない。相手に、個人の感情や利得だけではなく、一般的に称賛される価値観に基づいて意思決定していると思わせることが肝心なのだ。

たとえば、「受けた恩は返す」「機会は均等に与えられなければならない」「子供を守らなくてはならない」というった社会的規範があげられます。また、状況に応じて、「あなたの会社はチャレンジ精神をモットーとしていますね」や「昔のあなたのような可能性のある若者にチャンスを」などの組織や個人の美意識に訴えることも効果的です。

ここで著者はビジネス小説『空飛ぶタイヤ』 (池井戸潤)のワンシーン(タイヤ不良によって起きた死亡事故を巡って、証拠を握るジャーナリストを説得するシーン)を引用しています。この説得はかなり強力です。

「あなたはジャーナリストだとおっしゃいましたね。そして、それ以前に記者であり、社員だと。でも、それよりも前にひとりの人間じゃないんですか?」榎本の視線が再び戻ってきて、何か不思議なものでも見つめるように赤松の上で止まった。

「ひとりの人間じゃないんですか、榎本さん。ひとりの人間として、ホープ自動車がしたことを許せるんですか。そのために大勢の人間が無実の罪を着せられ、家庭が崩壊し、子供たちまで夢を奪われる。こんなことがあっていいんですか」

要素(3)利得を論理的に説く

3つ目は、実もふたもありませんが、こうすればこれだけの見返りがある、と利益が目に見える形で説明することです。具体的にはこのように説明されています。

「投資してくれれば儲かりますよ」ではなく、「100万円の投資で、10万円のリターンが見込めますよ」と具体的に提示する方がよい。さらに、「200万円の投資で5~10%の利益が見込まれる」と言われるよりも、「100万円の投資で10万円」と言われる方を好む傾向がある

要素(4)感情を動かす決め言葉を使う

最後に、著者はダメ押し的なもう一つの要素(感情を動かす決め言葉)が重要であると説きます。

ここまで述べてきた3つの「琴線」のポイントと同じくらい大切なことが、主張に思いや情熱、真剣さを込めることだと、クリティカル・シンキングは教えている。これが「琴線」と相乗効果を発揮したとき、すばらしい結果を生む。

そして、小説『下町ロケット(池井戸潤)』から次のような決め言葉(決め台詞)を引用しています。情熱や熱意に対して、人間はプラスの感情を抱くことが多いのです。

『事務的なやりとりのああと、財前は背筋を伸ばすと、「ご検討いただけませんか」、そう力を込めていった。「御社の技術でウチのロケットを飛ばさせてください」』

いかがでしたでしょうか、ビジネス小説からノウハウを学ぶ、というのは斬新で、読者の印象に残りやすいアプローチではないでしょうか。また、本書執筆の目的のひとつに、「仕事によるストレスのほとんどは、コミュニケーションから来るものだから、ストレスをためこまないコミュニケーション方法を教えたい」というものがあるそうです。

実際に著者ならではのストレスをため込まない方法などについても多く触れられており、クリティカル・シンキングの解説とあわせて、一挙両得に学べる本です。ビジネス小説好きやビジネス書をよく読む方はぜひご一読ください。

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