書評『セブンプレミアム進化論』
(緒方知行、田口香世/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 鈴木敏文会長インタビュー―価値あるものは必ず売れる!
第2章 PB商品の歴史をたどる
第3章 セブンプレミアム商品開発の原点
第4章 プロジェクト、始動
第5章 マーチャンダイジング・プロセスシート
第6章 協働・協創相手を選ぶ、支える
第7章 絶えざる商品革新
第8章 商品の価値伝達・訴求の工夫と実践
第9章 お客さまの心をつかむヒット商品開発事例集
第10章 売上高1兆円を目指して―セブンプレミアムの進化は進む
著者:緒方知行
 1939年生まれ。1962年早稲田大学卒業。「販売革新」編集長、「商業界」取締役編集局長などを経て独立。現在、バリュークリエイター社が発行する月刊誌「2020 Value Creator」誌の編集主幹。商業・流通分野のジャーナリスト

著者:田口香世
 大分県出身。大分上野丘高等学校、東洋英和女学院大学卒業。月刊誌「2020 Value Creator」(バリュークリエイター社)編集主幹・緒方知行のアシスタントを経て、2007年11月、同誌編集長に就任。「スーパーマーケットの店長会議」(不定期発行)、「ペットマーチャンダイジングのすべて」(年1回発行)の編集長も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

書評レビュー

セブンプレミアムの商品開発力の原点となった4つの強み

 小売・流通行の専門家が、セブン・イレブンで展開されている「高品質」を追求する特異なPB(プライベート・ブランド)商品「セブンプレミアム」の強さの秘密に迫った一冊。いまや4,900億円を売り上げるというセブン・プレミアムですが、はじまった当初は社内ですら反対意見が多かったようです。

 それでも強行した鈴木敏文会長の先見の明も相当すごいと思いますが、それを実現する企業努力を解き明かす、というのが本書のメインテーマです。まず、プレミアム商品に限らず、セブン・イレブンの商品開発力を担保する「セブンイレブンの強みの原点」とは、以下の4つであると書かれています。

1.絶えることのない商品の質的革新
(お客様の嗜好はかわりやすく、「いつも変わらないおいしさ」と言われるために、不断に味などを変化させている)

2.商品の圧倒的な差別化を支える事業インフラ
(自社専用工場による品質と効率性のコントロール)

3.企業の垣根を超えたチーム・マーチャンダイジング
(取引先、メンバー企業、専門家たとの協働体制)

4.仮説、実践、検証にもとづいたマーチャンダイジング・プロセス
(約20週を一区切りとした、商品開発の独自プロセス)

 なお、独自プロセスについては、誰でもヒット商品を作る「型」としての「マーチャンダイジング・プロセスシート」というものが、紹介されています。

 「マーケティング」→「仮説設定」→「商品開発」→「価値訴求、価値伝達」→「検証(90日後検証)」という一連の流れのフォーマットなのですが、興味のある方はぜひ本書で確認してみてください。

 ここでは、数多くあるPB商品の中でも特にこだわりが凝縮されている、「金の食パン」についての事例を紹介します。

圧倒的差別化商品『金の食パン』開発の3つの要素

 発売15日間で65万食という驚異の販売数を記録したという「金の食パン」ですが、担当マーチャンダイザーは、①マーケティング、②差別化された原材料、③差別化された生産技術・生産工程の3点がその差別化要因であったと語っています。

1:マーケティング

 マーケティングについては、特に開発段階と、販売段階の両面で必要となります。

お客様が今、何をもとめておられるのかということである。安さだけを追い求めているお客さまが確実に増えているという傾向にある。このニーズに即して商品開発に取り組んだ。

 そして、商品価値を理解してもらうための価値訴求・価値伝達については、店頭での試食販売が徹底して行われているそうです。とくにセブン・イレブンにおいては、本部も驚くほどに加盟店が自ら積極的に試食販売を各店の店頭で行っている姿が描かれています。

2:差別化された原材料

 また、原材料についても圧倒的な差別化が施されています。

「まずはパンの命である小麦粉である。(中略)この開発に当たっては、数多くある専門店を含めた日本で支持されている食パンを、本当に食べ尽くし、確認し尽くしたといっても過言ではない。

 小麦粉を吟味するときには、一般的な小麦粉では、他の食パンと違う味・品質を実現することはできないと思い、日本酒でいうところの大吟醸に相当する、この小麦粉以上の物はないといえるぐらいの品質のものをカナダ産の小麦粉に見出し、セブン&アイ・ホールディングス限定で、スペシャルブレンドしていただいた」

 その結果、口にいれた瞬間に、ぱっと甘味が広がる美味しさを実現しています。この一口目の甘味は、糖ではなく、乳の甘味だそうです。通常食パンには入れない北海道産生クリームをを配合しているためです。このように通常の食パンでは味わえないリッチさをつくりだしているのです。

3:差別化された生産技術・生産工程

 生産工程についても、単なる柔らかさではなく、「もっちり感」の追求のため、手間をおしまず美味しさを追求しています。

「『金の食パン』では、専門店の食パンをベンチマーク(基準)とし、機械生産であっても価値の高い食パンの開発を可能にし得るよう取り組んだ。そのため、通常の食パン製造ラインでは使わないような工程や技法を採用している。

 食パンラインほど、完全オートメーション化されているものはないが、我々が目指す食パンづくりを実現するためには、所々で、どうしても人による手作業が必要な工程があり、そこでは自動化はせず、人間による一手間を入れている」

 さらに、通常の大量生産型の食パンの生地の熟成時間は4時間程度といわれていますが、『金の食パン』は、12時間の発酵時間を取っています。一口目に甘く、二口、三口と噛むたびに、もっと甘くなっていく甘みは、パン生地本来の熟成と熟成された工程から生み出された生地の甘味なのです。

 これを糖の甘みで実現しようとすると、二口、三口で飽きてしまうといいます。これらは、そもそも「お客さまにとって何がおいしいのか、何が上質なのか」を突き詰めた結果であると書かれています。

 本書では上記「金の食パン」のほか、10個ほどのPB商品が綿密な取材を通して、事例として取り上げられています。ほかにも、鈴木敏文会長のインタビューなど、セブン・イレブンの経営の強さがわかる内容となっています。商品開発や事業開発、マーケティング(特にプレミアム路線)などに携わる方はぜひご一読ください。

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