書評『メディアのあり方を変えた 米ハフィントン・ポストの衝撃』
(牧野洋/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
プロローグ
第1章 ジャーナリズム最高の栄誉
第2章 原点はブログ
第3章 感染メディア
第4章 共同創業者が説く破壊的イノベーション
第5章 凋落する新聞とよみがえるジャーナリズム
あとがき
著者:牧野洋
 ジャーナリスト兼翻訳家。1960年生まれ。慶応大学経済学部卒業、米コロンビア大学ジャーナリズムスクール卒業(修士号)。
日本経済新聞社でニューヨーク駐在や編集委員を歴任し、2007年に独立。早稲田大学ジャーナリズムスクール非常勤講師。著書に『官報複合体』(講談社)、『不思議の国のM&A』(日本経済新聞出版社)など。

書評レビュー

アメリカより10年遅れている日本の報道界

 本書は、アメリカで圧倒的な支持を受け、今年日本版も開始したウェブメディア「ハフィントン・ポスト」の成長事例を通じて、日本のメディア・ジャーナリズム論じた一冊。著者は、著者はコロンビア大学ジャーナリズムスクールを卒業し、日経新聞記者を経てジャーナリスト兼翻訳家である牧野洋氏。

 朝日新聞と提携し2013年5月にリリースされたハフィントン・ポスト(以下ハフポスト)日本版は、現状、前評判にくらべると盛り上がりに欠けているようですが、米国ではそれこそ新聞メディアの息の根を止めんばかりの圧倒的な存在感を示しているようです。

 内容としては、創業者アリアナ・ハフィントンという女性の人となりから、コンテンツ戦略、「SEOの王者」といわれるSEO戦略、ジャーナリズムとしての姿勢(ブログでは初のピューリッツァー賞を受賞)など、かなり詳細に描かれています。

 著者は、「変化のスピードでアメリカよりも10年遅れ」といわれる日本の報道界。そこに変革をもたらすきっかけとなるのであれば、ハフポストの日本進出には大きな意味がある」といいます。閉鎖的な日本の新聞業界では、アメリカに比べるとイノベーションが起こる余地は小さいというのが、著者の主張です。

 この書評では、本書に掲載されている、ハフポスト共同創業者兼会長のケネス・レラー氏が、講演で語った「米国で新聞社が凋落した4つの要因」について紹介します。2009年の講演ということですが、アメリカがその通りの未来を辿った今、日本のメディア業界も学ぶところが多い内容であり、新聞業界での「破壊的イノベーション」の必要性を訴えるものです。

 

米国で新聞社が凋落した4つの要因

1.イノベーションのジレンマ

 新聞社は手遅れになるまで「パソコン画面でニュースを読みたいなんて思う人はいない」と決めつけていたのです。本格的なデジタル化を推進するための経営資源を十分に備えていたにも関わらず、です。

 イノベーションのジレンマといえば、ハーバード大学のクリステンセン教授の有名なコンセプトで、「優良企業が既存の延長線上の改良を続けることで、シンプルで破壊的なイノベーターに負けてしまうジレンマ」です。新聞社はデジタル化という破壊的イノベーションの存在を知りつつも、「紙」を前提とした改良と投資を続け、その事態を軽視していました。結果、ハフポストを始めとするウェブ・メディアに主導権を握られていきます。

2.ネットメディアのコスト競争力

 また、ネットメディアの特徴として、配信コストの低下により少人数のスタッフでメディアが成り立つようになった点が挙げられます。このコスト競争に伝統的印刷メディアは太刀打ちできないとして、象徴的な話が語られています。

 何かニュースが発生すると、ネットメディアではたった1人の著名ブロガーが質の高い分析記事を書きます。これだけでアクセス数を増やせます。

 伝統的印刷メディアのロサンゼルス・タイムズと比べてみましょう。同紙では600人が編集局で働いています。単純計算すると、ネット時代に同紙がコスト競争力を発揮するためには、ネットメディアの600倍のアクセス数を達成しなければなりません。

3.新規参入の拡大

 また、購読者収入と並んで新聞社のマネタイズの柱となっている「広告」についても、大きな変化があります。

 ネット時代には地域独占は成立しません。ネット上に広告スペースは無限にあるから、高額の広告料を得ることは不可能になります。それに加えて、「クレイグリスト」や「イーベイ」などのウェブサイトは地元の不動産広告や求人広告を取るようになり、新聞社の伝統的広告モデルを破壊してしまいました。

4.1日24時間ニュース体制の到来

 ネット時代になり、ニュースは世界中で瞬時に流れるようになりました。ネット上ではニュースは常に最新状態に更新されています。印刷メディアが速報ニュースでネットメディアに対抗できるわけがありません。(中略)駅の売店や自宅へ配達される前の段階で、1面のニュース記事はすでに古くなっていたのです。

 こうした「速報性」の一例として、ロンドンの地下鉄で爆破事件が起きた2005年7月7日の新聞をあげています。ウェブでは即座にこの一報が流れましたが、その日のニューヨーク・タイムズは「2012年にオリンピック、ロンドンで開催」というニュースが載っていたそうです。

 アメリカでは、上記の4要因にくわえて、2008年のリーマン・ショックによって、完全に既存新聞社が壊滅状態に陥ったと分析されています。ではどうすればよいのでしょうか?上記のレラー氏は端的に以下のように述べています。

単刀直入にいえば、いわゆる「破壊的イノベーション」を受け入れろ、ということです。(中略)従来の印刷メディアのビジネスモデルにネット上のコンテンツを取り込み、「機能するハイブリッドモデル」を構築すべきです。直ちに、です。

 現在米国では伝統的新聞メディア各社が必死に生き残りを模索し、デジタル会員やイベントでの課金など、新たなビジネスモデルの糸口が見えつつあるともいいます。メディアや言論、民主主義を担保するジャーナリズムの未来に興味がある方にはお薦めです。

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