書評『ピーター・ドラッカー マーケターの罪と罰』
(ウィリアム・A・コーエン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序文 フィリップ・コトラー
序章 ドラッカーと彼固有のマーケティングアプローチ
第1部 マーケティングの支配的地位
第2部 イノベーションとは何か
第3部 ドラッカーのマーケティング戦略
第4部 新製品・サービスの導入
第5部 ドラッカーのユニークな洞察
著者:ウィリアム・A・コーエン(William A.Cohen)
 米空軍の退役少将。ウエストポイント陸軍士官学校で学位、シカゴ大学でMBAを取得。
クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー&マサトシ・イトウ・スクール経営大学院で
ドラッカーの教えを受け、経営幹部向け博士号課程の最初の卒業生に。リーダーシップ、
マーケティング、戦略立案の権威で、現在、同大学院の顧問委員会に名を連ねる。

書評レビュー

ドラッカーの「マーケティング」論

ピーター・F・ドラッカーといえば、「現代経営学の父」として有名ですが、本書はそのドラッガーの「マーケティング」に対する教えをまとめた一冊。実はドラッカーは「マーケティング」というテーマでは著作を1冊も残していませんが、マーケティングについて語った内容は、ほかの著書や論文、講演などに数多く存在しています。

本書では、そのマーケティングに関する内容をまとめあげ、体系化しています。著者は、ドラッカーの弟子であり、ドラッカーのリーダーシップについての著書もあるウィリアム・A・コーエン氏。

取り上げられる内容は、イノベーション、市場調査、プライシング、品質について…などマーケティングを取り巻くもろもろのテーマですが、一読するとわかるとおり、内容は古さを感じさせず、むしろ本質的なものだと感じます。この書評ではその中から、タイトルともなっている「マーケティングの5つの大罪」について紹介していきます。

マーケターの5つの大罪

1.高い利益率とプレミアム価格を追求する

利益率の高さとそれを実現するプレミアム価格といえば、重要戦略としている企業も多いですが、ドラッカーはそれこそ大罪だとしています。その真意について、著者は次のように語っています。

ドラッカーの言う「プレミアム価格」はより優れた製品の印としての高い価格ではなく、大きなサイズなど、単に利益を増大するための露骨な特性や追加機能を意味していた(中略)問題は、高い利益率は最大利益をもたらすに違いないということが、あまりに当然のことに思えることだ。

だが、これは間違いだ。利益の合計額は、利益率に売上高をかけた数字だ。それゆえマーケターが追求すべきは、時間とともに売上高と相まって最大利益を生み出す最適な利益率なのだ。

つまり、コスト努力によらない、付加機能などによる高い値付けは、逆に低価格戦略をとる競合を呼び込み、長続きできないため、結局は利益の総額が少なくなってしまう、ということです。一例として、一時期トップシェアを誇っていたゼロックスのプレミアム路線のコピー機が、日本のシンプルで安価なコピー機に市場ごと奪われてしまった事例が挙げられています。

2.市場が甘んじる価格を付ける

ここで言う「市場が甘んじる」とは「市場(顧客が)いやいやながら受け入れる」という意味です。これは、イノベーティブな新製品などを市場に投入する場合などに、まずは高い価格をつけ、ライバルが参入してきたら、値下げしたり、それまでに積み上げた利益で広告費をつぎ込んで対処する、という戦略です。一見正当な値決め戦略に思えますが、ドラッカーはこう語っています。

市場が甘んじる価格を付ける戦略に関して唯一確実なことは、いつか市場を失うこと、それも思っているよりずっと早くに失うということだ。問題は、非常に高い値段は、競合他社がほとんどリスクゼロで参入し、市場を奪うチャンスを生み出すことだ。リスクは常に存在するため、ほぼリスクゼロのチャンスの到来は素晴らしい参入動機になる。

例えば、iPadの事例では、Appleは完全に新しい市場をつくりましたが、もちろんすぐ他社が廉価版を出してきました。Appleブランドの強さによってそれでも十分なブームとなりましたが、仮定の話ですが、はじめからiPadがもっと安価であれば、もっと市場にリーチして、息の長い商品になっていたかもしれません。

3.コスト主導の価格設定

コスト主導の価格設定とは、製品にかかるコストを足し合わせ、その上に利益を上乗せして価格を決めるものですが、これについてもドラッカーは間違いであると指摘しています。あくまでも「顧客志向」を追求することの重要性が理解できるはずです。

行うべきはコスト主導の価格設定ではなく、価格主導のコスト設定だ。つまり、コストと反対側の正しい価格からスタートし、価格から逆算して許容可能なコストを導きだすのだ。

4.過去の勝者を重視すること

人間はどんな成功も永遠に続くと考える傾向がある。この点については、すでに論じてきた。だが、ドラッカーはここで、企業経営者が過去の成功の名のもとに犯す罪をもっと強調したいと考えていた。つまり、組織は実際、過去の勝者を重視することでチャンスを無駄にしているということだ。

こちらは企業(経営者)が、過去の成功体験を捨てられないことを戒めたものです。ここではIBMとアップルの事例が挙げられています。IBMは、Appleに遅れをとっていたPC(個人向け)事業で、すぐにアップルに追いつきました。

しかし、昔の勝者であるメインフレーム(大型汎用機)を捨てきれず、そちらに経営資源を集中。対するアップルは、ジョブスの指揮のもと、当時ドル箱商品であった「Apple Ⅱ」を犠牲にして次世代機「Mac(マック)」に没頭しました、結果Appleの大成功はご存じの通りです。

5.機会より問題を優先すること

こちらはマーケティングに限らない話しですが、特に、人材の活用についてこのように述べられています。

彼がこの問題を提起したのは、自分が助言を与えていた企業の多くが、最も優秀な人材を、衰退しつつある製品の問題解決に振り向けていることを知った時のことだった。優秀な人材が古い問題を担当する一方で、チャンスのある新規事業は頻繁に、経験もなければ、能力もない人材に割り当てられていた。

そして、こうした事態が頻繁に起こるのは、経営陣が自分のエゴ(成功による傲慢さ)を優先してしまうためである、と述べられています。

いかがでしたでしょうか?ドラッカーのいうマーケティングは、4Pとか、セグメント戦略、などでイメージされるよりも大きな概念であり、ある企業がどのように顧客(社会)と対峙していくのか、という経営哲学に近いものです。

すでにドラッカーの著書を読みこんでいる方には、かぶる部分があるとは思いますが、近年の事例も加えられているので、マーケティングに限らず、「経営」を志す方にはぜひご一読いただきたい内容です。

新刊ビジネス書を「要約」でチェックできるプレミアム版も人気です

book-smartとは