書評『人を動かす、新たな3原則』
(ダニエル・ピンク/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
はじめに
第1部 セールスマンの復活
 第1章 現代人はみなセールスに関わっている
 第2章 アントレプレナーシップ、弾力性、教育・医療
 第3章 「買い主は気をつけよ」から「売り主は気をつけよ」へ
第2部 セールスに必要な特質
 第4章 同調
 第5章 浮揚力
 第6章 明確性
第3部 セールスに必要なスキル
 第7章 ピッチ
 第8章 即興(インプロ)
 第9章 奉仕
著者:ダニエル・ピンク、翻訳:神田 昌典
1964年生まれ。エール大学ロースクールで法学博士号取得。クリントン政権下でゴア副大統領の首席スピーチライターなどを務める。フリーエージェント宣言後、世界各国の企業、組織、大学を対象に講義やテレビ出演を行うかたわら、『ワシントン・ポスト』『ニューヨーク・タイムズ』『ハーバード・ビジネス・レビュー』『ワイアード』などに精力的に寄稿してきた。著書に『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)、『ハイコンセプト』(三笠書房)、『ジョニー・ブンコの冒険』『モチベーション3.0』(以上、講談社)がある。

書評レビュー

ほぼすべての人がセールスにかかわる時代の到来

本書は21世紀における営業・セールスの手法を科学的に明らかにしていく一冊です。著者であるダニエル・ピンクといえば、ベストセラーとなった「フリーエージェント社会の到来」や、「ハイ・コンセプト」、「モチベーション3.0」など、時代の一歩先をゆくテーマを扱ってきた人気作家です。

その著者がなぜ、「セールス=(売り込み)」をテーマに本を出版したのでしょうか?このことについて、あとがきで訳者の神田晶典氏はこのように述べています。

予想できるのは、会社名、肩書がまったく意味をもたなくなる時代の本格的幕開けだ。言いかえれば、個人への評価のみが、社会的安定の土台となっていく時代。

いままでは、あなたが〇〇商事、〇〇銀行に勤めていると、それだけでまわりは持ち上げてくれた。それは会社や肩書がさりげなく、あなたを売り込んでいたからだ。こうした自分の外にある看板が三年後からはほとんど役立たなくなるほどの変革が始まるといってもいい。

そして、著者はデータを示しながら、メディアの変化によって今や大半の人が、売り込み(お願いや頼みごとなど「人を動かす」売らないセールスを含む)にかかわっていることを示します。また、以下のようにも述べています。

セールスに関する一般的認識の大半は、崩れかけた前提のうえに築かれている。

つまり、ソーシャルの力などにより、買い手の力が強くなったため、売り手の強かった時代に通用したセールス手法は時代遅れになってしまっていると説きます。それが、本書が執筆された背景です。

人を動かす3つの新原則

では、人を動かす(セールス)の新しい3原則とはどのようなものでしょうか?セールスに対する古い原則と、新たな3原則について、筆者は端的にこのように説明します。

「セールスの取引の金言は、これまで長きにわたりABC――『Always Be Closing(必ずまとめろ契約を)』――だった。(中略)新たなABCを紹介する─同調(Attunement)、浮揚力(Buoyancy)、および明確性(Clarity)だ。

その内容をざっくりと説明すると、以下のようになります。

【Attunement】(同調)他者の視点を取り入れ、置かれた状況と調和を図る能力
【Buoyancy 】(浮揚力)セールスへの拒否に対して、精神的強さと楽観的見通しをあわせもつ能力
【Clarity】(明確性)不確実な状況を理解し、問題そのものを特定する能力

そして、上記原則にもとづき、セールスに必要なスキルとして、以下の3つのスキルが説明されていきます。

【ピッチ】(営業トークや売り込み手法)6つのピッチ手法が紹介されています。
【即興】(インプロ)変化に応じてその場その場で適切に対応する方法。
【奉仕】売らない売り込みで必要な奉仕の精神、アップセルではなく、アップサーブ。

詳細の説明については、本書に譲りますが、そのスキルの中から1つ取り上げて紹介します。

ストーリーで伝えるピクサー・ピッチ

著者は古い原則にもとづいたエレベーター・ピッチ(エレベータに乗りあわせた30秒で売り込みをする)と、新たな原則に基づくいくつかのピッチ手法を説明しますが、その中からピクサー・ピッチと呼ばれるものを説明します。

この手法は、ピクサーの映画のようにストーリー仕立てで売り込みをする方法なのですが、以下のように説明されています。

「ピクサーでかつてストーリーを担当していたエマ・コーツは、ピクサーの魅力を読み解く過程で、引き込まずにはいられない新しいピッチのひな型を創造した。

ピクサーの映画はどれも、物語の形式において同じDNAを共有しているとコーツは主張する。それは、ストーリーテリングの深部構造のことで、次の順で展開する6つの文章を含む

昔々、……
毎日、……
ある日のこと、……
そんなわけで、……
そんなわけで、……
そしてついに、……

この6つの定型文を利用することで、ストーリーの説得力を増し、内容を強く心に訴えることができると説きます。例として、こちらのピクサー・ピッチで「本書の要旨」を説明したものが挙げられています。実際にすっと頭に入ってくることが体験いただけると思います。

昔々、一部の人たちしかセールスに関わっていなかった。
毎日、彼らは、モノを売り、ほかの人々は別のことをして、誰もが満足していた。
ある日のこと、何もかもが変わった。誰もがセールスに携わるようになったのだ――しかも、”買い主は気をつけよ”の世界から、”売り主はきをつけよ”の世界へと変貌を遂げた。
そんなわけで、新たなABCを学ばなくてはならなくなった。「同調」「浮揚力」「明確性」のことだ。
そんなわけで、新たなスキルも身につけなくてはならなくなった。ピッチ、即興(インプロ)、奉仕だ。
そしてついに、売るという行為は情け容赦のない市場文化に、否応なしに迎合することではないとわかった。本来渡した私たちがもつ性質の一部であるのだから、これまでよりも人間らしくふるまうことにより、これまで以上に上手にこなせるようになる。

本書でいう「すべての人にとってセールスが必要な時代」は、最近いわれている「評価経済」や、ソーシャルメディアの浸透も考えると、以外と早く実現するかもしれません。その意味では現在営業やセールスという職種についていない方や、営業未経験の方にこそ、お薦めできる一冊だと思います。

「奉仕」の章でも、著者は印象的なことを語っています。これは、営業トークに限らずコミュニケーション全般の心構えとして有用です。ぜひ手にとってみてください。

見込み客を説得してコンピュータ・システムの新製品を購入させるような通常のセールスでも、娘に宿題をするように説くような売らない売り込みでも、誰かを動かそうとするときはいつも、真のサービスの革新となる次の2つの質問に必ず答えられるようにしよう。

1.自分の売り込むものを相手が受け入れると承諾した場合、その人の人生は向上するだろうか?

2.このやりとりを終えたとき、世界は当初よりよいところになるだろうか?

新刊ビジネス書を「要約」でチェックできるプレミアム版も人気です

book-smartとは