書評『100年の価値をデザインする』
(奥山清行/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 世界で通用した「日本人としてのセンス」―僕はなぜフェラーリのデザイナーになれたのか?
第2章 「言葉の力」を発揮する―団体力のイタリア人、個人力の日本人
第3章 日本のものづくりの「殻」を破る
第4章 「ものづくり」の仕組みが変わった!―第二次産業革命時代にどう対応するか?
第5章 「本当に好きなもの」を作り、売る―プレミアム・コモディティを目指せ!
第6章 これからの一〇〇年をデザインする―新しい社会システムを作り上げる
終章 クリエイティブであり続けるために
著者:奥山 清行
工業デザイナー/KEN OKUYAMA DESIGN代表。1959年山形市生まれ。ゼネラルモーターズ社(米)、チーフデザイナー、ポルシェ社(独)シニアデザイナー、ピニンファリーナ社(伊)デザインディレクター、アートセンターカレッジオブデザイン(米)工業デザイン学部長を歴任。フェラーリ・エンツォ、マセラティ・クアトロポルテなどの自動車やドゥカティなどのオートバイ、鉄道、船舶、建築、ロボット、テーマパーク等数多くのデザインを手がける。

書評レビュー

日本人としてのセンスとは何か

 本書の趣旨は、タイトルにあるように、本物のクリエイティブ力とは、ただデザインだけでなく、顧客の本当の課題を解決するものである、ということ。そして、奥山氏自身がデザインで世界的な結果を出せたのは、「日本人としてのセンスがあったから」であるといいます。では、日本人のセンスとはなんでしょうか?その内容を紹介していきます。

 著者はいくつかの日本人独自のセンス、そして強みを説明しています。まず、昔からいわれていることですが、やはり「切り捨ての文化」(徹底的にシンプル化させる)は世界的に見ても相当独自であるということです。次のように、西洋的なシンプル化では、本質への踏込が甘いため、二~三年で飽きてしまうデザインになってしまうといいます。

 本質を見極め、枝葉を大胆にそぎ落としていくという伝統的な切り捨ての文化に沿ったものだ。これはなかなか強力なツールで、同じような考え方をしているデザイナーでも、アメリカ人にやらせるとくどいデザインになってしまう。

また、日本人独自のコミュニケーション力についても触れています。

 日本人は、相手の気持ちや周囲の状況にものすごく敏感で、時には過剰なほど相手が何を考えているかを気にする。世界中どこを探しても、こんなに周囲のことに敏感な人種は他にない。そのことが、仕事で好成績を収める原動力になったと思う。

 そして、日本語を使った表現と思考能力だ。日本語は情報を伝える機能よりも自分の今の感情、ポジションなどを表現する機能にすぐれている。つまり、ファジーな全体の中での自分のポジションやフィーリング、感情を伝える機能が高いということだ。

 もちろんその反面弱みとして、少ない言葉で短時間に結論まで出すような情報を伝える機能は英語やイタリア語などには劣っているとも述べられています。いかがでしょうか?海外の一線で結果を出し続けてきた著者ならではの納得感ある指摘ではないでしょうか。

 これらの特質を意識的に磨いていった結果、奥山氏は「アメリカ人よりアメリカっぽいデザイン」を体得し、GMやフェラーリで実績を残していきます。

プレミアム・コモディティとは何か

 また、本書で著者はモノがどんどんコモディティ化(日用品化して結果、価格競争になっていくこと)する時代において、日本のものづくりが生き残るためには、「プレミアム・コモディティ」を目指すべきである、と述べています。

 プレミアム・コモディティの定義にはいろいろありますが、本書では下記のような製品であると定義されています。

コモディティ商品でも、他とは違う価値を持ち、プレミアムを払うに値する商品である

 このプレミアム・コモディティ商品の成功例として、コクヨの定番ノート「キャンパス」を挙げています。文房具の中でコモディティの代名詞であるノートには、①表紙②中上③背クロスの3つの構成要素しかありません。

 しかし、そのシンプルさゆえに徹底的に品質に磨きがかけられています。例えば中紙は書き心地、にじみにくさを重視し、あえて再生紙を使っていないそうです。※コクヨのノートのこだわり詳細はこちらをご覧ください。

 その結果、世界的にもその品質が認められ、インドで現地のノートより30%ほど高いにも関わらずキャンパスノートが圧倒的な売上シェアを誇っています。『30%余計に払ってでも手に入れたい』というのは、まさにプレミアム・コモディティの典型であり、以下のようにまとめています。

 日本人がものづくりの国として、生きていく道は(中略)、ライバルより若干高めの価格を払ってでも解体と思われるクオリティや特徴、世界観をアピールしていくことだ。

 あくなき品質追求とともに、アップルのような「世界観」もプレミアム・コモディティ化にとって重要というのは興味深い指摘です。ほかにも「日本人ほど個人力が強く、集団力が弱い人種はない」という話しや、マネジメント手法、面白い所では石油があと●年で枯渇するという話し、など多岐にわたります。

 ものづくりやデザインに興味がある方はもちろん、これから否応なしに世界と伍していくことになる若い世代の方にもお薦めの一冊です。
※参考:奥山氏のスピーチ(TED×TOKYO 2010)

新刊ビジネス書を「要約」でチェックできるプレミアム版も人気です

book-smartとは