書評『なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか? 』(田邊学司/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 消費者は本当に欲しいものを知らない
第2章 「なんとなく」へのあくなき探求心
第3章 脳はテレビCMの何を見ているのか
第4章 キリスト教は知っていたブランドの秘密
第5章 ニューロマーケティングで変わる5つの常識
第6章 脳科学とマーケティングでつくる新しい関係性
【著者】
田邊学司(たなべ・がくじ)
 株式会社GFL代表取締役CEO。東京外国語大学卒業、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学MBA(経営学修士)修得。株式会社博報堂にて、20年間、マーケティングおよびブランディングに従事。主に新商品開発、イノベーション開発、ビジョン・コンセプト構築等を中心に、ブランド強化のための数多くのプロジェクトを手がける。2009年、ニューヨークのニューロマーケティングコンサルタンシー「バイオロジー社」の社外取締役に就任し、国内及びグローバルでの非言語ブランドプロジェクトを推進。2013年5月、独自のゲーム型直感リサーチシステム「ファンケートR」を開発・販売する株式会社GFL(Gut Feeling Laboratory Inc.)を創設し、現職。

【編著者】
小野寺健司(おのでら・けんじ)
 コネクトグローバル代表。東北芸術工科大学大学院客員教授、中央大学商学部 客員講師、早稲田大学商学学術院講師。上智大学文学部新聞学科卒業後、1975年に株式会社博報堂入社。1984年から1989年まで博報堂アメリカ副社長を務めたのち帰国し、マーケティング局でグローバル関連得意先を中心にプラニング業務を担当。1999年から2012年まで、研究開発局でグローバル・ブランド管理、五感ブランディング、パコ・アンダーヒル氏とのショッパーインサイト、ニューロマーケティングを実践するブレインブリッジ等のプロジェクトリーダーとして、ツール開発・コンサルティングを行う。2013年4月より現職。

【監修】
三浦俊彦(みうら・としひこ)
 中央大学商学部教授。慶應義塾大学商学部を卒業後、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程を中退し、中央大学商学部助手となる。同専任講師、助教授を経て、1999年より現職。その間、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員、ESCP(パリ高等商科大学)客員教授、イリノイ州立大学客員教授を務める。専門は、ブランド・マーケティング、グローバル・マーケティング、eマーケティング、消費者行動論。

萩原一平(はぎわら・いっぺい)
 株式会社NTTデータ経営研究所マネジメントイノベーションセンター長、エグゼクティブコンサルタント、横浜国立大学大学院環境情報学府客員教授。早稲田大学理工学部を卒業後、プリンストン大学大学院電気工学・コンピ

書評レビュー

 「ニューロマーケケティング」という言葉をご存じでしょうか?これは現在米国を中心に発展を続ける研究領域で、脳神経細胞をあらわす「ニューロン」と「マーケティング」をあわせた造語で、脳科学から消費者の心理を読みとき、マーケティングに活かそうとする学問です。

 本書の内容をひとことでいうと、「何となく」や、「直感」というものの深層を探るもので、「行動経済学」などに興味がある方には面白い内容のはずです。著者は博報堂で20年間のマーケティング経験を経て、、ニューロマーケティングなどの専門家として活動する田邊学司氏。

ニューロ・マーケティングでかわる5つの常識

 ではまず、本書のタイトルにもなっている、「ニューロマーケティングで変わる5つの常識」とは何でしょうか?それは以下の5つであるとされています。

ニューロ(ダイナミクス)・マーケティングで疑う5つの常識

  1. 商品の名前を覚えてもらうことがコミュニケーションの最低条件である
  2. 商品を魅力的に表現するメッセージが顧客の購入意向を刺激する
  3. 商品の選択はオンラインへ、体験はリアルからバーチャルへ向かう
  4. 不都合や不満を最小化した商品は満足度が最も高い商品である
  5. 国の文化や習慣を考慮しない商品やサービスは受け入れられない

 これらの疑問に対する回答は最終章で読むことができ、詳細は本書に譲りますが、なるほど!と感じたものや、海外独自では…?と感じるものもあります。

 本書ではほかにも、コカ・コーラ、資生堂、HONDA、ユニ・チャーム、アップル、竹中工務店…などの企業事例が数多く取り上げられていますが、この書評では、最新の脳科学における宗教の研究からわかってきた、「ブランド」認知のメカニズムを紹介していきます。

脳にブランドを知覚させる10のメカニズム

 宗教が昔から強力なブランド(信者の社会的帰属意識)づくりに成功しているのは、歴史が示すとおりです。そして研究によれば、強いブランドを築くためには、脳が自ら関係性をつくってしまうような状況」をつくりだすことがポイントであるということがわかってきました。

 本書ではニューロ・マーケティングの専門家であるマーティン・リンストローム氏の言説を引用しながら、脳にブランドを知覚させるメカニズムとして、以下の10項目が紹介されています。

1.連帯感:同じ確信を持つ仲間の存在を感じさせる
2.明確なビジョン:達成されていない未来像を想像させる
3.敵に打ち勝つパワー:敵対する相手は対抗する対象の存在を推測させる
4.感覚へのアピール:五感感覚から何かの気配を感じさせる
5.物語:余白や行間を自ら埋めながら語り継ぎたい気持ちにさせる
6.雄大さ:圧倒的スケール感が非現実的存在を想像させる
7.布教:利益を求めない熱心な推奨者の存在を感じさせる
8.シンボル:記号だけで意思疎通できる集団の存在を感じさせる
9.神秘性:謎がある部分への推察や創造をさせる
10.儀式:独自の所作が集団内で形式知化されている

脳のクセに着目したブランディング

 いかがでしょうか?これらのメカニズムは、人や信者が信仰対象の存在を「自然に」推測してしまう、脳の「クセ」に符号した仕組みだといいます。

そしてアップルの例(アップルストアの空間演出、独自のミニマル化されたアイコン、明確な敵を想定した特許戦略、神秘的なベールに包まれた製品発表カンファレンス・・・など)を挙げながら、著者はこのように続けます。

 「ブランドが宗教なみの信奉者層を形成しているその背景には、商品のニーズというレイヤーよりもさらに深い、言葉にならない知覚を起動させる仕組みが重層的に重なり合っているのである。」

 つまり、これまでのブランディングでいわれていたように「メッセージ」を「デリバリー」するのではなく、関係性を起点として、消費者の脳を強制的に稼働させることこそが重要だと述べているのです。

 本書の特長はニューロ・マーケティングの最新研究成果だけでなく、消費者にとって親しみのある国内外の企業事例が豊富な点です。ニューロマーケティングの入門編として、マーケティングや集客に携わっている方にはとても有用な一冊です。

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