書評『稲盛和夫の経営問答 従業員をやる気にさせる7つのカギ』
(稲盛和夫/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 経営の原点に立ち返る
第2章 経営者マインドを育てる
第3章 常に先を読み、強みを磨く
第4章 理念を貫く
第5章 人を育て、未来をつくる
第6章 自らを高め、正しきを貫く
著者:稲盛 和夫
 1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミツク株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長を務める。84年には第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年には日本航空会長に就任。代表取締役会長を経て、13年より名誉会長。
このほか、84年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。また、若手経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。
主な著書に『稲盛和夫の実学』『アメーバ経営』『ガキの自叙伝』『高収益企業のつくり方』『人を生かす』(ともに日本経済新聞出版社)、『成功への情熱』(PHP研究所)、『生き方』(サンマーク出版)、『働き方』(三笠書房)、『燃える闘魂』(毎日新聞社)などがある。

書評レビュー

従業員をやる気にさせる「優しさ」と「厳しさ」

本書は、稲盛和夫氏が主宰する経営者の私塾・盛和塾の「経営問答」から「従業員をやる気にさせる」というテーマに沿って解説した一冊。

稲盛氏の著作は何作もベストセラーになっていますが、本書では実際の盛和塾での質疑応答をもとに、一問一答形式で書かれていることで、特定の悩みだけでなく、一冊を通して「経営者とはどうあるべきか」が通読できる内容が特徴です。

本書ではまず、タイトルともなっている、従業員をやる気にさせる7つのカギが1章を割いて語られていきます。詳細は本書に譲りますが、まさに経営とは「従業員をやる気にさせる」ことに尽きると感じられる内容です。

フィロソフィ、ビジョン、ミッションなど、これまで他の著作でも語られてきたこととも重なっていますが、JALの再建などを経てあらためてその考えが深まったと著者は語っています。

稲盛氏といえば「生き方」などの高い精神性を元にした経営スタイルで有名ですが、本書では特に厳しい環境下にある中小企業経営者が対象とされているだけあって、経営者としての「厳しさ」の必要性も強調されています。

環境変化にどう対応するか

例えば、土産物屋事業から観光事業に進出して成功したものの、市場の縮小とともに事業転換の岐路を迎えている経営者からの質問で、以下のようなものがあります。

「現業の発展を目指すべきか、新規事業への転換を図るべきか」

これに対して著者は、事業とは鉱山を掘り当てる作業に近いと指摘しています。つまり、業種によって鉱脈の有無に違いがあり、特定地域でしか成立しない業種、あるいは時代の変化によって消えてしまう業種が存在するということです。

では、どうすればいいのでしょうか。

著者は京セラ時代のことを例に出し、次から次へと新しいことをするしかないと説きます。戦略としては多角化(本業とは別の事業を展開する)と、多面的(国内市場にとらわれない)な展開を考えるべきだとしていますが、中でも、最も重要なこととして次のように述べています。

「新しい事業には競争相手がいます。その競争相手が100%で攻めてくるのだから、負けないよう、こちらも努力が必要です。身体が二つあっても、三つあっても足りないぐらいの努力をしなければならないのです。」

京都の一ベンチャーから売上高2兆円のグローバル企業へと進化した京セラについても、一つのことだけを追求すれば伸びていく業種ではなかったからこそ、次々と新規事業を展開し、業界の変化に備えさらに新しいものをつくり続けて今日の規模まで発展してきたとのことです。

新規事業と現業の従業員

また、同じ質問者からは「新規事業への転換を図る際、従業員への対応をどうするか」という質問も出ています。

これはつまり、現状維持意識が強い従業員に合わせるか、従業員がやめてでも新規事業を断行すべきか、という質問ですが、これに対して著者は次のように喝破しています。

「そんな余裕などありません。新しい事業についていけないというなら、辞めてもらうしかありません。誰ひとりついてこなくても、俺はやらなければならない。そのくらいの勇気と責任感が必要です。そこで従業員に対して変な同情をするようでは、どうにもならないのです。」

一見非常に厳しい意見のようですが、これも新規事業に対する「経営者の覚悟」を問うているものだと思います。

まとめと感想

本書では上記のような15の経営問答が紹介されていますが、「社員に経営者意識を持ってもらえるか」「飽和市場で生き残るには」「リストラの断行」など、質問者も経営者ならではの切実で生々しい経営問答集となっています。

そもそも盛和塾に「稲盛イズム」を学びにくる経営者が絶えないのも、上記7つの項目を稲盛氏自身が誰にも負けないレベルで実践しているからだと思います。

そのような意味でも、経営者のみならず、リーダーシップやマネジメントを志向する方にはぜひご一読頂きたい内容の一冊です。

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