- 著者プロフィール
第2章 ミツバチコロニーの生活
第3章 ミツバチの理想の住処
第4章 探索バチの議論
第5章 最良の候補地での合意
第6章 合意の形成
第7章 引っ越しの開始
第8章 飛行中の分蜂群の誘導
第9章 認知主体としての分蜂群
第10章 分蜂群の知恵
1952年生まれ。米国ダートマス大学卒業後、ハーバード大学でミツバチの研究により博士号を取得。現在コーネル大学生物学教授。
書評レビュー
ミツバチに学ぶ集団的意思決定
本書は「ミツバチ」の分蜂(巣分かれ)の際に行われる集団的意思決定プロセスと、それをどのようにして人間社会に応用できるのかを解説した、いわゆる「行動分析」の本です。筆者はハーバード大学でミツバチ研究の博士号を取得し、現在コーネル大学生物学教授として活躍している人物です。
著者がいうには、ミツバチは、分蜂(巣分かれ)と呼ばれる巣の引っ越しの際に、驚くべきことに、新しい巣穴の発見、評価、決定までのプロセスをしっかりとふみ、かつ、トップダウン式の意思決定ではなく、構成員による「集団的意思決定」を行っているとのこと。
これは、最良の巣、つまり、「最良意思決定」を行うためにミツバチが考え抜いた結果、民主的な集団的意思決定が適していると判断したからです。
本書では、筆者の実験・研究の様子を交えながら(実際に252個もの巣箱を作ったそうです)、そんなミツバチたちの意思決定プロセスを詳細に解説し、研究結果を人間社会の意思決定プロセスに応用するにあたってのヒントが提言されています。
ミツバチ社会は実は「民主的」だった?
ミツバチの社会構造をイメージした時、やはり、女王バチを中心とした集権的社会構造のもとでトップダウン式の意思決定であり、それに働きバチが従う・・・、というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際のミツバチ社会はこのイメージとは全く違う構造をしているそうです。女王バチは、あくまでも王として「産卵する存在」であり、「決断を下す存在」ではないのです。
巣の業務は働きバチによって集団的に運営されており、おのおの個体が抜かりなく見回って仕事を探し、自分の裁量でコミュニティのために働く。』
すなわちミツバチのコロニーには、ルールとして集団的意思決定が存在しているということであり、これは、我々が企業などの組織内で行っている意思決定プロセスにも共通する点でもあります。
ミツバチの意思決定プロセスを人間社会に応用する
集団的意思決定は、すでに人間社会でもその有用性が証明されています。例えば、企業の意思決定に際し、取締役会をはじめとした階層ごとの会議体が開催されているのは、まさしくこの集団的意思決定に該当すると思います。
もっとも、ただ単に集団が集まり、議論すれば合理的な意思形成ができるわけではなく、機能不全の意思決定機関が下した結論は、大きな失敗につながりかねません。
これについて、著者は、ミツバチの集団的意思決定能力を「集合知を実現するための方法」として、自説を裏付けるために、すでに現在自分が所属するコーネル大学の同僚たちに応用して、結果を出しているというのだから驚きです。
筆者はこれを「効率的な集団の5つの習慣」として提唱しています。
詳細は本書に譲りますが、印象に強く残った「リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする」という習慣は以下のようなものです。
つまり、討議の初めにおいては、リーダーはその発言を、問題の範囲、解決のために使える資源、手順の規則といった中立的な情報に関するものにとどめるべきだというものだ。』
これは、リーダーの影響力が組織の中で強すぎるため、リーダーの主張に構成員が引きずられ、集団的意思決定としての役割を果たさなくなるということを危惧しての発言でしょう。
本書では、アメリカ元大統領ジョージ・W・ブッシュとその外交政策チームのイラク進攻における議論を例にとり解説を行うなど、実社会に基づいた検証も行われています。
まとめと感想
企業という組織体では、その成長ステージによっては、強烈なリーダーシップによるトップダウン式の意思決定方法の方が適している場合もあります。ですが、全ての案件において経営トップが意思決定をするわけにはいきません。
また、組織としてある程度の権限移譲は必要になってきますので、集団的意思決定というものは、やはり全ての組織にとって不可欠なものと言えるのではないでしょうか。そのため、本書はフィールドサイエンスを紹介した一冊ではありますが、紹介されている「効率的な集団」や「組織」への示唆はマネジメントクラスの方に大いに参考になるはずです。
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