書評『意外と会社は合理的 組織にはびこる理不尽のメカニズム』
(レイ・フィスマン、ティム・サリバン/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
序章 なぜ会社はそんなに理不尽なのか
第1章 拡大を恐れるベンチャー企業――メガネ職人とHP
第2章 研修後に2000ドルの退職金――ボルチモア市警とザッポス
第3章 歩合給にすれば信者も増える――マルティン・ルターとP&G
第4章 イノベーションは抑圧すべし――アメリカ陸軍とマクドナルド
第5章 マネジメントは命も救う――インドの繊維工場と心臓外科
第6章 会議こそ最も大事なCEOの仕事――スティーブ・ジョブズとジェイミー・ダイモン
第7章 組織文化を守るのは高コスト――サモアの交通ルールとBCG
第8章 犯罪捜査とテロ防止は両立できない――FBIとBP
結論 アルカイダは究極の組織――未来の組織
著者:レイ・フィスマン Ray Fisman
コロンビア大学ビジネススクール教授、社会事業プログラム共同ディレクター。ハーバード大学で経営学のPh.Dを取得後、世界銀行アフリカ部門でコンサルタントとして働く。1999年からコロンビア大学に籍を置く。ニューヨーク・タイムズ、アル・ジャジーラ、上海デイリーなど、さまざまな媒体に寄稿している。著書にEconomic Gangsters(共著)がある。

著者:ティム・サリバンTim Sullivan
ハーバード・ビジネス・レビュー・プレス編集長。Princeton University PressやPortfolioでシニア・エディター、Basic Booksでは編集長を務め、世界的な経済学者、社会学者との著書を手がけた経験を持つ。

書評レビュー

組織を覆う「理不尽」は、実は「合理的なシステム」?

本書は、コロンビア大学ビジネススクール教授が、組織が発展・成長する上で直面するトレードオフ(理不尽さ)について解説した一冊です。著者は、世界の大学ランキングトップ10に常時ランキングし、ビジネススクールとしても有名なコロンビア大学で、組織経済学の教鞭をとっている人物です。

いま現在、組織に所属、つまり企業に勤めている皆さんも多いと思いますが、誰しも一度はその企業の保守的な体質(硬直性)にうんざりした、という経験があるのではないでしょうか?経費処理に始まり、起案処理、多数の会議への出席など、会社の「理不尽」とも思える規程やシステムに目がいくことも多いと思います。

しかし、その「理不尽」が、じつは企業にとって本当に必要な「合理的な」システムだったら??というのが、本書の出発点となっています。もっとも、この「理不尽」について、感情論ではなく、あくまでも企業を統制・管理するシステム(仕組)の側面から理論的に解説しているのが、本書の特徴でもあります。

組織が発展する上で直面するトレードオフ(理不尽)と、イノベーションとのバランスをいかに取るのかが、具体的な事例を多数交えて解説されています。この書評ではその一例を紹介します。

組織が存在することの意味

スタンフォード大学で紹介されたケーススタディに、アメリカのDECというIT企業を用いたものがあります。このDECという企業は、今後の業績を左右するコダック社への新規サービスを提供するために、従来の枠組み(レポーティングライン、社内手続き、決裁権限など)では対応が不可能だとして「必要なリソースはなんでも使ってよい」という許可をプロジェクトチームに与えました。

その結果、ついにコダックとの契約にこぎつけたのですが、契約の直前に重大な財務上の計算ミスが発覚し、最終的には契約は破談となってしまいました。

この計算ミスは、プロジェクトチームのオーナーが契約内容のチェックを行う管理部門をプロジェクトに一切関与させなかったことから起こったそうです。特に企業においてスピードが重視される新規事業などを担当されている方はヒヤリとする内容ではないでしょうか。

そして著者は、普段はマニュアルどおりにしか動かないと厄介者扱いされがちな「財務屋やコンプライアンス部門」が存在するのは、まさにこうした事態が頻繁に起こることを防ぐためであるとした上で、組織の存在意義を次のように解説しています。

『イノベーションや主体性はどんな組織にも必要なものだが、調整やルールもまた同様である。重要なのは、両社の適正な配分を心得ておくことだ。

大きな組織内で勝手連的にネットワークが形成されることの危険性は明白だ。説明責任、調整、監督、職務との責任の定義といったものがすべてうやむやになってしまう。そもそも組織が存在するのは、そうしたものをはっきりさせるためだ。』

まとめと感想

本書では他にも、「マクドナルドの成功を支えていたのはイノベーションの抑圧だった」など、一見するとドラスティックな内容も紹介されています。しかし、しっかりと解説を読み込めば、組織が拡大する中で、マクドナルドとしてのブランディングを慎重に考えた結果だったことがお分かりいただけると思います。

著者もイノベーションを起こすことに否定的なのではなく、組織が発展するなかで必要な管理・統制を理解した上で、変えられることを変えていこう、というスタンスです。裏を返せば、なんでも保守的な管理・統制を行うのではなく、「本当に必要な」管理・統制を行うことの重要性説いているのです。

マネジメントの立場にある方や、現在マネジメントクラスへのステップアップに向けて努力されている方も含め、特に、社内でイノベーションを起こそうと志すビジネスパーソンに是非読んでいただきたい一冊です。「組織」や「企業」とは何か、という本質論に迫る一冊です。

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