書評『出光佐三の日本人にかえれ』
(北尾 吉孝/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
はじめに
序章
第一章 出光佐三という日本人
第二章 魂を培ったもの
第三章 意志と行動の起点
第四章 日本人にかえれ
終章
おわりに
著者:北尾 吉孝
 1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年、ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年、野村企業情報取締役。92年、野村證券事業法人三部長。95年、孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。
 現在は、証券・銀行・保険などのインターネット金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、バイオ関連事業など幅広く展開している金融を中心とした総合企業グループのSBIホールディングス代表取締役執行役員社長。公益財団法人SBI子ども希望財団理事及びSBI大学院大学の学長も務める。

書評レビュー

出光佐三の言葉

 本書はベストセラー「海賊とよばれた男」で話題となった出光興産創業者・出光佐三の思想を、こちらも著名なSBI(ソフトバンクインベストメントホールディングス)代表の北尾吉孝氏が解説した評伝です。

 内容としては、出光佐三の思想や経営のエッセンスを、出光佐三氏自身の著書から、ほぼ原文で引用され、ところどころ北尾氏が解説を加えていくというものです。北尾氏といえば、中国古典(論語など)を踏まえた経営を提唱されており、それらの経営書もありますが、本書は特に「日本人とは?」という切り口から描かれている点が特徴です。

 出光佐三氏の著書原本はアマゾンでプレミアがついてしまっていたりするので、気軽にその実際の言葉や思想に触れられるこういった著書は便利です。この書評では、いくつか印象に残った出光佐三氏の思想を紹介していきます。

「日本人にかえれ」とは

 タイトルともなっている「日本人にかえれ」というのは出光佐三の言葉です。氏の生涯は「海賊とよばれた男」でもわかる通り、日本人離れしたスケール感と胆力に貫かれたものです。しかし、自身では出光興産の経営を「日本人として、日本人らしく経営しているだけ」であるとして、晩年は「日本人らしさ」について多く言及していたようです。

 では、出光氏の考える「日本人」はどのようなものでしょうか。氏の著作から以下のように引用されています。「無私」の思想がその特徴として挙げられています。

「日本の祖先は、無欲、無我、無私である。しかし外国人には無という考え方はない。無私のあり方は外国人から見れば、自己否定であり、自分がないということになる。想像できないことである。

 ところが日本人は、無とは最高であると考え、無私のあり方を尊重し、無私でありたいと願っている。日本人は自己を人格的に収容し、鍛錬して人間としての尊厳をしっかり持って、そのうえで学問技術などを身に着ける。こうして自分に実力をつけて強い個人となり、その力を自分のためでなく、お互いのために使う。この無我、無私のあり方こそ日本道徳のもと、根幹なのである。」

 また、その無私から、「互譲互助(互いの立場を考え尊重する)」という考えが出てくる、とも述べられています。本書で北尾氏も指摘していますが、日本オリジナルの思想というよりは、仏教的・東洋的思想に根差した考え方だと思います。

 しかしその後、発祥国インドで仏教がすたれ、また中国でも思想統制の時代が長かったことから、東洋思想が純粋な形で保持されている、という意味で日本的思想と言えるのです。

和の力

 また、日本人の強さとして、「和」の力が挙げられています。つまり、団結した時の強さなのですが、この強さも「無私」の思想が起点となっています。有名な徳山製油所の開発のエピソードに触れながら、以下のように述べています。

「日本人がこのように強い団結力を発揮できるのは、『無の境地』に立ったときだ。自分を捨て、人のために尽くす無我無私の状態になったときに一致団結の真の力が出る。(中略)出光は石油業なんて小さいことをやっているのではない。まことに働く人間の姿を現して、国家社会に示唆を与え世界の平和、福祉をつくることを、出光の目的であるとしてきた。」

人間尊重、自己尊重、他人尊重

出光の経営の原点であるという「人間尊重」については以下のように述べられています。

「出光の主義の第一は人間尊重であり、第二も人、第三も人である。当たり前すぎるほど、当たり前のことで、これを主義などというのがおかしいのであるが、このことの実行を叫ばなければならないところに、世相の深刻さがある。父から教えられた独立不羈(ふき)の精神の根本は、人間尊重であり、自己尊重であり、他人尊重である。」

順境にいて悲観せよ、逆境にいて楽観せよ

「僕は景気のいい時に、景気の悪いときのことを考えて準備しておけと言っている。『順境にいて悲観せよ』という言葉がそうだ。出光は好況のときに決してぜいたくはさせない。順境のときには、経費をつつしむとか、封筒は裏返しにして使う、というような小さいことを僕は注意している。

 そうすれば会社が儲かっているときに、利益はすべて社内に留保される。(中略)出光はみんなが意気消沈している不況時代に、将来のために積極的にいろんなことを計画している。これは『逆境にいて楽観せよ』ということだが、この逆境のときに立てた計画は堅実で間違いない。だから逆境のときに計画をたてるのだ。」

 加えて、そうはいっても儲かったときに使ってしまうのが「人間の矛盾」であり、その人間の矛盾性をいかに抑えられるかも「人間尊重」の心がけである、と続いています。不況時こそ新たな計画を実行するチャンスにするという考えに、名を成す経営者はやはり通常人と逆張りの発想をするのだと強く印象に残ります。

まとめと感想

 ほかにも、独立自営の思想、中間搾取の排除、金を重んじも軽んじもしない、など多くの思想が出光氏自身の言葉から引用されています。時折日本人の独自性を強調しすぎかと思える論調もありますが、そこは北尾氏の解説でバランスをとっているという構成になっています。

 偉業を成し遂げた人物は「利他」的な思想をつきつめて考え、実行し、かつ自利と利他のバランス感覚が絶妙です。「経営者」としての出光佐三氏の思想を学べるお薦めの一冊です。

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