- 著者プロフィール
第1章 多様化する職場の「うつ」
第2章 改めて「うつ」とは何かを考えてみる
第3章 現代型「うつ」の特徴とは
第4章 会社には行けないが、TDLに行けるという病理
第5章 若者に広がる「現代型うつ」も「うつ」病である
第6章 職場で「うつ」の若者とどう向き合えばいいのか
第7章 職場の「うつ」を克服するために
1978年神奈川県生まれ。精神科医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント。筑波大学医学専門学群卒業後、東京都知事部局健康管理医、筑波大学医学医療系助教を経て、2012年に独立して産業医事務所を開設。官民問わず多くの職場で精神科を中心とした産業医療業務に従事している。医学と法務の博士号を持ち、メンタルヘルスと関連法規が専門
書評レビュー
「現代型うつ」対策のキーとなる「SOC(首尾一貫感覚)」
本書は、最近メディアでもよくとりあげられている「現代型うつ」について、産業医である著者がその正体と職場での対処対策を論じた一冊。著者は、精神科医師として「産業医」業務に携わってきた吉野聡氏。メンタルヘルスや労働法規も専門分野とされているようです。
著者の主張は、若手社員に多い「現代型うつ・新型うつ」もやはり「うつ病」であり、「現代型うつは、実存への不安が原因となっている」というもの。そして、そのうえで、新型うつによる職場からの離脱は社会的損失であり、を防ぐため、予防策や対処方法を考えよう、というのが本書の趣旨です。
この書評では、現代型うつの予防法として挙げられている、「SOC(首尾一貫感覚)」という思考特性と、その高め方を紹介していきます。
SOCとは、Sende of Coherence=首尾一貫感覚と訳されますが、具体的には「過酷な経験をしても、その渦中に自分の精神的・身体的な健康を守り、かつそれ以降もその経験を自身の成長の糧にできる」性格であると定義されています。
この概念は、健康社会学者であるアントノフスキー博士が、ナチスドイツ時代のアウシュビッツ強制収容所でのユダヤ人迫害(ホロコースト)の経験者の研究から始まりました。
『夜と霧』という実話手記をご存じのかたも多いと思いますが、想像を絶するほど過酷な強制収容所生活中でも、肉体とこころの健康を維持していた人々の心理的特性を研究し、体系化したものがSOCです。
SOC(首尾一貫感覚)の3要素と、その高め方
このSOCは「有意味感」「把握可能感」「処理可能感」という3つの要素から成り立ちます。これらの感覚が、こころの健康を保てるかどうかの分水嶺となるということです。
著者は経験から、職場環境や勤務時間との関係よりも、このSOCの強さのほうが強く「うつ病」との発症に関係していると述べています。ではひとつずつ見ていきましょう。
1.「有意味感」
有意味感とは、「自分が直面していることに意味があると感じることができる感覚」であると説明されています。つまり、どんなにつらいことに対しても、何らかの意味を見いだせる感覚ともいえます。これは『夜と霧』にも描かれている「人生はあらゆることに意味がある」という考え方とも通底するものです。
著者は、「この能力はある意味で才能的な部分があるので、育成は難しい」としながらも
「結果形成への参加」によっては醸成することができると述べています。この「結果形成への参加」とは、このように言いかえることもできます。
「意味があると感じられるかどうかというのは、結局、意味があるかどうかを自分が考えられるステージにいないといけない」
具体的には、本人がやったことに対して、その成否を問わず、きちんとフィードバックすることが重要になります。
2.「把握可能感」
把握可能感とは、「直面した困難な状況を、秩序だった明確な情報として受け止められる感覚」です。つまり、ある問題に直面した際、問題の原因や背景、現状、今後の予測までふくめて、把握できている、と考えられる能力といえます
そして、「把握可能感」を伸ばすには「ちゃんと段取りをくんでいったら仕事はうまくいくんだ」という一貫性のある経験をさせることが、「把握可能感」を育てるのに意味があるといいます。
3.「処理可能感」
処理可能感とは、「どんなにつらいことに対しても、「やればできる」と思える感覚」です。つまり、2つ目の能力である問題を把握したうえで、それらの問題が処理可能である、すなわち「これまでの経験とこれからの努力で何とかなる」と感じられる感覚のことです。
著者は「『まあ何とかなるんじゃないの。これがだめでも命とられるわけじゃないしな』と思える人は、ストレスに強い人だといえます」と述べられています。
処理可能感を育てるには「本人の力プラス少しの負荷を加える」、つまり適度な負荷バランスをかけてあげることが効果的です。「まあ何とかなるさ」は「ちょっときつかったけど、何とかなった」という成功体験を積み重ねることが、その第一歩となるといいます。
本書では、著者が産業医だからということもあるのか、一般的な読み物にとどまることなく、職場の現場感にあった理論とノウハウまで書かれたバランスのいい一冊です。
ここでは紹介しきれませんでしたが、よい叱り方、悪い叱り方も精神医学的見地からわかりやすく説明されています。若手社員をマネジメントする立場にある方、上司あるいは部下との関係性に悩みがある方などは参考になるはずです。
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