書評『人を動かせるマネジャーになれ!』
(ブライアン・トレーシー/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
イントロダクション 有能なマネジャーでありつづけるための実用的で証明ずみの戦略
第1章 人は幸せになりたいから働く
第2章 部下のパフォーマンスに火をつける
第3章 部下に自己重要感をもたせる
第4章 部下の恐怖心を取り除く
第5章 部下の心のなかに勝利の感覚をつくり出す
第6章 正しい人材を選ぶ方法
第7章 マネジャーは結果がすべてだ
第8章 最高のマネジャーになる
著者:ブライアン・トレーシー
 世界的に著名な経営コンサルタント。カナダ生まれ。貧困から身を起こし、セールスマンとして頭角を現した後、貿易、流通、投資、不動産開発など多種多様な業務に携わる。その後、独立し、現在はブライアン・トレーシー・インターナショナル社長。約30年にわたり1000社以上にコンサルティングを行うかたわら、世界55カ国で講演と研修を通じて累計約500万人を指導する

書評レビュー

部下の「動機」を引き出すために

 世界的に著名な人材トレーナーでベストセラー作家(『フォーカル・ポイント』や『カエルを食べてしまえ!』など)でもあるブライアン・トレーシー氏が、「人を動かせるマネジャー」になるために必要な考え方とテクニックを具体的に解説した一冊。

 マネジメントのテクニック論的な話(〇〇するための〇個の法則、など)も多く掲載されていますが、本書の趣旨は「人の能力を最大限に引き出すには、学歴や知識、経験よりも、感情的な影響を与える接し方や言動のほうが重要だ」というもの。

 そして感情のもととなる「動機」を引き出すことが重要であるとして、アリストテレスの言葉から「人間のすべての動機の背後には、幸せになりたいという根源的な欲求がある」とも語っています。

 子育てと部下育成は似ているといわれますが、類書にない特徴としては、著者も自身の子育てにおいて活用した「モンテッソーリ教育」の手法がとりいれられている点があげられます。Google創業者やFacebookのザッカーバーグCEOも受けてきたという、モンテッソーリ教育について、本書ではこのように説明されています。

「モンテッソーリ教育の課題には、合格もなければ不合格もない。教室に敗者は存在しない。すべての子供が勝つことができる。1日のうちに何度も勝利し、次の日も、また次の日も勝つことができる。そうやって3年間、ずっと勝利だけを経験する。(中略)

 成長期という大切な時期に、自分は有能で、能力があり、真に優れた人物であると、繰り返し言い聞かされ、実際に成功を体験する。それがモンテッソーリ教育のシステムだ。」

 ではどうすれば、部下が勝者の感覚を覚え、最大限の能力を出すことができるのでしょうか?この書評では本書から、「部下を勝者にする5つのステップ」について紹介します

部下を勝者にする5つのステップ

 さきほどの質問に対して著者は「実際に勝ってはじめて、人は勝つことの喜びと満足感を知る」と説いています。つまり、マネジャーとしてのあなたの仕事は、部下たちが「自分は勝者だ」と感じられるような環境を整えることなのです。

そして、「部下を勝者にする5つのステップ」として以下の5つを挙げています。

1:明確な目標を決める

『見えない標的は撃てない』という言葉を聞いたことがあるだろう。または『行き先がわからなければ、どの道を選んでもどこにもたどり着けない』という言葉にあるように、明確で、期限の決まった目標を立て、その目標を紙に書くということが大切だ。

実際に目標を決めるにあたって役立つのが次の2つのツールです。
・10対90のルール:
最初の10%の時間を使って明確な目標を立てると、実際に開始してから90%の時間が節約できる

・SMARTの法則:
Specific=具体的、Measurable=測定可能、Ahievable=達成可能、Realistic=現実的、Time-bouded=期限付き

2:具体的な測定基準をつくる

 2つ目のステップとして、マラソンを例に出し、マイルストーン・マネジメントを活用することを説いています。

「何かで勝利するためには、ゴールラインの位置を知っていなければならない。(中略)この原則は、仕事でも同じだ。小さな目標を達成するたびに、メンバーは「小さな勝利」の気分を味わえるのである。」

3:成功体験を積ませる

 上記のマイルストーンにおいても、課題の中身を調整し、課題を分割して一部を他の部下に割り当てたりするなど、「適切な課題」を与え、成功体験を積ませることが重要となります。

「部下のすべてが成功体験をもてるようにするのも、マネジャーの役割である。(中略)小さな仕事を実際にはじめ、そして確実に完遂させるという経験を重ねていくと、感情を前向きに推し進めるエネルギーが育ち、それが健全な自尊心につながって、部下は「もっと大きな仕事でも完遂できる」という自信を手に入れるのである」

4:達成したことを認める

目標の達成を「認める」ことの重要性についても、改めて触れられています。どんな人でも、何かを達成したら、それを周囲に認められたいと思っており、とくに目上の人からの承認を何よりも必要としているのです。

「あなたのチームのメンバーは、みな内的な動機づけがある。彼らを内側から衝き動かすのは、課題を完成させたら成果が認められるという期待だ。その期待があるからこそ、「あともう少しがんばろう」という気になるのである。」

5:報酬を与える

 「認める」ことの補足として「その場で成果を認め、ほめるだけでもいい」としながらも、報酬についても以下のように述べています。

「いつも以上に努力しても上司から認められなければ、部下は仕事への情熱を失い、『頑張っても意味がない』と考えるようになる。『頑張っていい結果を出しても、他のたいして頑張っていない連中と同じ扱いしか受けないじゃないか』と。」

 具体的には、金銭的報酬、無形の報酬(休み、研修に派遣する)などありますが、特に「休日を与える」という報酬の効用について以下のように述べています。

「報酬として休日を与えると伝えておくと、部下は休みの前にすべての仕事を終わらせ、そして休み明けの初日のうちにすべての遅れを取り戻す。休みが増えることで、生産性が犠牲になることは一切ない。そして、あなたと会社にとっての見返りは、動機がさらに高まった社員が手に入ることだ。彼らはもっと休日がもらえることをめざして、さらに熱心に働く。」

 他にも本書では、冒頭にもあげた「幸せになることの重要性」「黄金律マネジメント」「正しい人材の採用手法」「マネジメントの17の原則」など、マネジャーに必要なことが一通り網羅されています。

 実践例も豊富なので、実際に明日から使える、という意味でもマネジメントや採用・育成に携わる方は、一読する価値がある一冊です。

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