書評『アメリカの「管理職の基本」を学ぶマネジメントの教科書』
(エドワード・T・ライリー/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1部マネジメントの基礎的スキルを学ぶ―怠ってはならないマネジャーの日々の鍛練
第1章 マネジメント入門―人間関係に焦点を合わせる
第2章 部下の業績の管理―組織と個人の利益を調整する
第3章 人材のマネジメント―スタッフを変化に対応させる
第4章 プロジェクト・マネジメント― 一時的な取り組みを管理する方法
第5章 戦略思考―現実の業務のために戦略的に考える
第6章 リーダーシップ―ビジョンを実現するために
著者:エドワード・T・ライリー
 AMA(American Management Association)
創立90年を誇る最古の本格的マネジメント研究機関であり、アメリカ、日本をはじめとする世界30箇所以上に拠点を構え、世界最大の研修コンテンツをもつ非営利団体。ピーター・ドラッカーが50年以上に渡って終身アドバイザーとして支援してきたことでも知られる。AMAの社長兼CEO。マグロウヒル、大手マーケティング企業などの幹部を経て現職。

書評レビュー

マネジメントはMBAだけでは学べない

 本書は90年以上の歴史を持つマネジメント研修機関が蓄えた、実務とノウハウの基本を紹介したマネジメントの教科書ともいえる一冊です。筆者は、かのピーター・ドラッカーがアドバイザーとして50年以上も支援したという、世界最古かつ最大のマネジメント研修機関AMA(American Management Association)のCEOを務めるエドワード・T・ライリー氏。(本書が実際に公式テキストとして使われています)

 アメリカでは、経営者の2割がMBAホルダーらしいのですが、MBA非保持者にも優れた経営者は多数存在しています。そんな経営者をサポートしているのが、このAMAなのです。本書では、マネジメントを学ぶには、MBAのような学問も重要であるとしながらも、やはり、実務経験に裏付けされたノウハウから学ぶ必要があると説いています。

 この書評では、本書の内容から「マネージャーに求められる8つの役割」と、「4つの質問スキル」を紹介していきます。

マネージャーに求められる8つの役割

 当然ですが、マネージャーは自分単独で仕事をやり遂げても成功したとはみなされません。部下をまとめ上げ、組織や部門として定める目標(ゴール)を達成することが目的です。そしてひとくちでマネジメントやマネジャーといっても、その役割は多岐にわたります。

 そこで、まず本書で紹介されているのは、状況に応じた「役割」の存在とその「使い分け」です。優れたマネジャーはこれらを単独で、あるいは平行して、またはこれらをメンバーに委譲したりしながらマネジメントを行っています。

 本書では組織内で「マネージャーに求められる役割」を以下の8つに分類し、この8つの役割をベースに、それぞれが必要なるスキルや実務経験を積んでいく必要があると述べています。

①リーダー
物事の全体像を捉え、ミッションやゴールを見据えた上で日々必要なことを検討する。

②ディレクター
問題を明確にし、解決策を導き出すように取り組む。

③コントリビューター(貢献者)
課題や仕事に注力し、自分が成果を出すだけでなく、他の人々をやる気にさせて、組織の生産性を最大化する。

④コーチ(指南役)
協調性、理解力、こまやかな気遣いを心がけ、思いやりと共感力を大切にしながら人材育成に当たる。

⑤ファシリテーター(まとめ役)
組織の総合力を養い、結束力やチームワークを築き、人間関係のごたごたや軋轢に対処する。

⑥オブザーバー(監視役)
常に人々の行動や人間関係に目を配り、部下がそれぞれの目標を達成しているかどうかを判断し、部門としてゴールに到達していることを確認する。

⑦イノベーター(革新者)
適合と変化を促進していく。

⑧オーガナイザー(主催者)
職務計画を策定するほか、業務や体制を組み立てる責任も負う。

円滑なコミュニケーションを行うための4つの質問スタイル

 上述のマネージャーに求められる8つの役割に共通して求められるもの、それは「コミュニケーション」です。「コミュニケーション」を媒介にして部下をまとめ上げ、モチベートし、ゴールを達成するのです。本書ではこのコミュニケーションを円滑にするためのいろいろな方法が紹介されていますが、ここでは「4つの質問スタイル」をご紹介します。

①オープンクエスチョン
文章または複数の言葉を使って回答してもらう。

②クローズドクエスチョン
「はい」か「いいえ」で答える。

③探索型クエスチョン
その前に話したことに基づいて会話を進めていく。

④仮定型クエスチョン
予想される状況に基づいて問題を提起する。

 本書ではほかにも「業績管理」、「コーチング」、「プロジェクト・マネジメント」、「権限移譲」などについても解説されていますが、やはり、その起点は前述したように「コミュニケーション」にあります。

 日本のビジネスシーンにおけるマネジメントの問題・課題の多くも、この「コミュニケーション」能力の欠落にありそうです。本書では、そういったコミュニケーション・スキルについても、実践的に解説ていますので、マネジメントの入門書として最適な一冊です。

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