書評『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』
(山口 周/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
第1章 日本人はイノベーティブか?
第2章 イノベーションは「新参者」から生まれる
第3章 イノベーションの「目利き」
第4章 イノベーションを起こせるリーダー、起こせないリーダー
第5章 イノベーティブな組織の作り方
著者:山口 周
 1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、A.T.カーニー等を経て2011年より組織開発を専門とするヘイグループに参画。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成、キャリア開発。著書に『グーグルに勝つ広告モデル――マスメディアは必要か』『天職は寝て待て――新しい転職・就活・キャリア論』(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術――図解表現23のテクニック』(東洋経済新報社)など。

書評レビュー

日本人はイノベーションに不向きなのか?

本日紹介するのは、「日本人はイノベーションに不向きなのか?」を切り口に、イノベーションを生み出すための組織とリーダーシップを考察した一冊。

新書なのでどんどん読み進めることができますが、イノベーションとリーダーシップに関する古今のあらゆるエピソードや研究結果が取り上げられており、組織論について多くのヒントが得られる内容だと思います。

著者は、外資系の組織・人材コンサルティング企業ヘイグループで、イノベーション、組織・リーダーシップ育成、キャリア開発などを専門とされている山口周氏。

「日本人は個人としてはイノベーティブだが「組織」がボトルネックである」「イノベーションを推進するのは『若手』か『新参者』」「好奇心駆動型のアントレプレナーに課題優先型エリートは勝てない」などなど興味深い論点が多かったのですが、この書評では、イノベーションを起こすための「ビジョン」について書かれた部分を紹介します。

共感を生み、イノベーションを起こす「ビジョン」の3要素

著者は、イノベーションを起こせる組織の特徴として、明確な「ビジョン」の存在を挙げています。すでに多くの日本企業でビジョン(著者にいわせるとビジョンらしきもの)が掲げられていますが、本当に組織を動かすビジョンは下記の3点が必要であると述べられています。

1.Where(どこへ行くのか)
欧米社会におけるリーダーシップには聖書の影響がみられるとして、旧約聖書の出エジプト記やノアの箱舟の話を引き合いに出しながら以下のように述べています。

『ここ』から『ここではない別の場所へ』。そしてその『別の場所』がどこなのか、どのような場所なのかを知っているのはリーダーしかいない。(中略)リーダーシップの本質の一面は『移動』にあり、その必然的結果として、リーダーは常に『行き先』を示すことが求められる

高度成長期の日本はアメリカに追いつき追い越せというwhereがありましたが、その後どこを目指すかというwhereが弱かったこともその後の凋落の要因のひとつだと指摘されています。

2.Why(なぜやるか)

『ここではないどこか=Where』が示せたとして、わざわざ今いる『ここ』から『ここではないどこか』に移動するには、その移動を合理化し納得できる理由が必要です。

なぜなら、ほとんどすべての人は、長くいれば長くいるほど『ここ』に対して様々な愛着やノスタルジーを覚えているからです。

著者は、かつての日本では、社会的なコンセンサスとして「豊かになるため、幸せになるため」というWHYがあり、組織のリーダーは特にこれを用意する必要がなかった点を指摘しています。これが、日本人のビジョンづくりが弱いことにつながっているのかもしれません。

3.How(どうやるか)

上記WhereとHowに加えて、詳細な実行計画でなくとも、「こうやったらうまくいきそうだ」という方向性に安心感を感じないとビジョン実現への行動は促進されません。

ビジョンの実現には、最終的に必ず何らかの行動の変化が伴うわけですが、何をどのように変えていくかの指針がなければ、彼らは最初の一歩を踏み出すことができません。この『最初の一歩』を踏み出すための大きな方向性を規定するのが、『How』なのです。

しかしながら、日本企業では、ビジョンをだして、実現方法は『現場にお任せ』になっている状況が多い点が指摘されています。

アポロ計画のビジョン

本書にはよいビジョンの例がいくつか挙げられているのですが、ここでは、1961年に米ケネディ大統領がスピーチした「アポロ計画」のビジョンを紹介します。

【Where】:1960年代に人類を月に立たせる
【Why】:人類が挑戦しうるミッションの中で最も困難なものであり、であるがゆえにこの計画の遂行は、アメリカおよび人類にとって新しい知識と発展をもたらすだろう
【How】:民間/政府を問わず、領域横断的にアメリカの科学技術と頭脳を総動員して最高レベルの人材、機材、体制をととのえる

いかがでしょうか、Whereがまさに月への「移動」となっていますが、アメリカらしいパイオニアスピリットも感じられるよいビジョンだと思います。そして、ご存じの通りアポロ計画は当時の関係者、庶民に熱狂的に受け入れられました。

本書ではほかにも、航空機事故から見る組織論、NASAが実は官僚的組織であること、「リーダーは『決め方』を決める」、「優れた集合的意思決定は個人を超える」などなどかなりのボリュームがあります。軽いタッチで進められていきますが、組織やイノベーションを考えるうえで示唆となる内容が多い一冊です。

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