書評『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』
(高木 晴夫/著)

  • 目次
  • 著者プロフィール
イントロダクション マネジャーに最も大切なこととは
第1講 「配る」マネジメントを実践する基礎知識
第2講 個人とチームを動機付ける方法
第3講 マネジャーは「情報」を獲りに行く
第4講 経営専門能力とキャリアを向上させる
第5講 マネジャーが知っておくべき人事部の存在と中身
第6講 マネジャーは職場の危機にどう対応するか
第7講 優れたマネジャーは変革とイノベーションを目指す
おわりに
著者:高木 晴夫
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネス・スクール)教授。MBA(経営学修士)課程で「組織マネジメント」科目を長年にわたって教えている。専門は組織行動学。人が人の集団を動かすための研究を続けており、教育でもその成果を持ち込むことで、教員と学生による双方向型の活発な授業運営を行う。慶應ビジネス・スクールは米国ハーバード・ビジネス・スクールを範に設立され、ハーバード流の「ケースメソッド」という討論形式で授業が行われており、日本におけるケースメソッドの第一人者として知られている。
1973年慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、75 年同大学大学院修士課程修了、78 年博士課程修了。84年ハーバード大学ビジネス・スクール博士課程卒業。同大学より経営学博士号(DBA)を授与される。78 年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助手、85 年助教授を経て、94 年より現職。
主な著書に『トヨタはどうやってレクサスを創ったのか』『組織能力のハイブリッド戦略』、訳書に『【新版】組織行動のマネジメント』『ケース・メソッド教授法』(以上、ダイヤモンド社)、監修書に『ケースメソッド教授法入門』(慶應義塾大学出版会)など多数がある。2011年、NHK の番組「白熱教室JAPAN」のために、慶應ビジネス・スクールのMBA学生総計200名とともに4回の授業を行い、日本におけるハーバード流ケースメソッド授業として、その熱気あふれる対話型授業が4回にわたって放映された。

書評レビュー

マネジメントとは「配る」こと

 本書はマネジメントについての「たった一つの重要なこと」をわかりやすく解説する一冊。もともとは、慶應大学ビジネス・スクールで行った「白熱のマネジメント特別講義」の内容が書籍化されたものです。それゆえ講義形式で読みやすく展開されていきます。

 著者の高木晴夫さんは、ハーバード出身の慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)の教授。「組織マネジメント」を専門とされている方です。対話型授業がNHKの白熱教室でも授業が取り上げられたこともあるそうです。

 本書の趣旨をひとことで言うと、優れたマネジャーは「マネジメントにもっとも大切なたった1つのこと」を実践しており、それは「配る」という行動である、というもの。その理由について、以下のように説明されています。

『部下たちは多かれ少なかれ、次のような疑問や悩みを抱えています。「自分にこの仕事が任された理由がわからない」「自分の仕事は会社にとって本当に意味があるのか」「自分の本来の力を発揮させてもらえない」

つまり、会社における自分の仕事と存在の価値に対して、答えを求めているのです。マネジャーの本質的な仕事とは、そうした部下たちの疑問や悩みを解決する「適切な情報を配る」ことなのです。』部下たちはこのことがわかると確実にやる気になり、惜しみなく力を発揮してくれます」

 つまり、メンバーや部下の疑問や悩みである、「この仕事の意味」やを「この仕事を任された意味」などに対して、解答を「配る」ことにより解決する、ということがマネジメントの仕事だといっているのです。これを著者は「『配る』マネジメント」と呼んでいます。

では、何を「配る」のでしょうか?それは大きく分けると、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という4つの経営資源です。なかでも「情報」の重要性を説いています。

この本は若手マネジャーのために書かれた本ですから、一番重視するのは「情報を配る」ことになります。なぜなら、通常は4つの経営資源のうち、若手マネジャーが配るものの大半は「情報」になると考えられるからです。

これは、言いかえると経営資源の絶えざる「移動」なのですが、著者は、情報が人から人に移動するのはもちろん、資金から人事異動まで「会社において、移動しないものはない」と言い切っています。

上司が部下に「配る」5つの大切な「情報」

では、どのような「情報」を配るのか?著者はマネジャーが部下に配るべきは次の『5つの「情報」』だといいます。

1.状況情報
どのような状況であるかについての情報です。会社の市場におけるポジションや現在の実績、あるいは合併や提携などの話も含まれます。

2.「方向性情報」
会社全体もしくは自分の部署が、どちらに向いていくかについての情報になります。

3.「評価に関する情報」
どのように評価されているかに関する全般的な情報になります。たとえば上司であるあなたの評価であるとか、お客様に接しているなら、お客様がどう評価しているか、といった情報も含まれます。

4.個別業務情報
これは個々の業務についての情報です。たとえば、業務の手続きや規則をどうするか、というのがこれに当たります。たとえば製造業だったら、部品とか材料などをどうするかといった現場レベルの情報です。

5.「気持ち情報」
「感情」「気分」とも言います。

これらは、部下が「目標を達成するために必要な情報」という点で共通しています。本書ではほかにも、人が主体的に動くために必要な4つの「認識」、人事部が見ているもの、人の意識改革に効果的な「解凍」というプロセス、部下の意識が「指し手」か「コマ」かを見極める、など、具体的な実務にまで踏み込んで説明されています。

ここでは、印象に残った部分を1つ紹介します。「危機時の『不安』との闘い」というテーマについてです。

危機の時こそマネジャーは明るく振る舞う

 マネジャーが「感情と気持ちを配る」ということは上記のように重要ですが、「落胆」や「不安」を配っては部下の気持ちをますます萎えさせてしまうことになります。

そのため、「悲観的に判断して、明るく行動する」というスタンスが薦められているのですが、その能力も訓練で身に着けることができるといいます。

実際に、広く使われている訓練方法で、結構効果があるんですが、「今、まずいぞ」というときこそ鏡の前に立つんです。やばいときは、自分の顔が硬直しています。これは鏡を見たらすぐわかります。鏡で自分の顔を見て、笑顔をつくるという訓練をするんです。(中略)

人間って、笑顔を見ると気持ちが和らぐんです。だから、鏡で自分の笑顔を見て、外側から笑顔の刺激を自分の中に入れるんですよ。(中略)これは全部、筋肉動作をともなっていますね。自分を明るくするときは、言葉よりも筋肉を使うのがおすすめです。

著者は、大企業につとめていても、モデルにできる上司は多くて数人であり、また部下の立場で見ているだけではマネジメントスタイルの合う/合わないや、好き/嫌いといった個人的な感覚の範囲で考えてしまうことを問題視しています。

本当のマネジメントは個人のスタイルや感覚的なものに依存するものではなく、どんな組織や部下にでも通用する「根本的な知識」であるといっています。マネジメント本は各種出ていますが、本書はシンプルかつ実践しやすく、特に20代後半から30代までのプレイング・マネジャー層にお薦めの一冊です。

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