著者インタビュー|『お金の話にきれいごとはいらない』(小笹芳央/著)

長年モチベーション・コンサルティングや人材育成・採用といった分野で活躍している小笹芳央氏< 株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長 >の新刊「お金の話にきれいごとはいらない」について、今回は特別編として著者小笹氏へのインタビューを行いました。小笹氏がいま「お金」についての本を著した背景・意図とは?ぜひ本書とあわせてご覧ください。
(聞き手:BOOK-SMART編集部)
お金の話にきれいごとはいらない

お金の話にきれいごとはいらない
小笹芳央[著]/三笠書房

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要約を読む

――本書「お金の話に、きれいごとはいらない」ですが、どのような内容の本でしょうか?

この本は、人生の中でも非常に重要なもののひとつである「お金」の正体を解き明かし、一個人がお金とどう付き合っていくべきなのか?というテーマについて自分なりの経験や考え方をまとめたものです。

――どのようなきっかけがあり執筆されたのでしょうか?

これまで二十数年間、モチベーションやマネジメント、リーダーシップあるいは組織論などの本をかなり書いてきました。もともと企業にとって非常に重要なのは、社員のモチベーションであり、そのモチベーションこそが企業の優位性を決める源になるんだという考え方を伝えてきました。

現代は働く人々のワークモチベーションが多様化しています。昔は食べるため、家族を食べさせるために働くということが国民全体の共通の認識だったのですが、高度成長期を経て、”もっと個性を発揮したい”、”専門性を深めたい”、”誰かの役に立ちたい”、”成長したい”といった、高次元の欲求を持って働く方々が増えてきました。

それにより、企業が社員のモチベーションを高め、束ねるためには、給料だけではなくその仕事の意味だったり、その人に対する期待、誰かへの貢献感をリアリティを持って感じられる工夫や、あるいは社内の一体感やコミュニケーションといった、お金以外のものが重要だということをずっと言ってきました。

その反動なのかもしれませんが、ある時、社員に「小笹さん、お金は大事だからリテラシーを高めておけよって、話しているらしいですね」と、すごく残念そうな表情をしながら言われたんです。それで、「あ、これまずいな」と感じました。

小笹芳央<株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長>
リクルートを経て、2000年株式会社リンクアンドモチベーションを設立。2008年東証一部上場、2013年より代表取締役会長。現在はグループ11社の会長。
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私は、人々のやる気を高めるためのツールとしてお金が唯一最大の武器ではなくなったから、経営側はもっと金銭的報酬以外の、意味的な報酬をもっと強めなければならないということを言ってきましたが、「お金が大切ではない」とはひと言も言ったことはないんです。

――「お金が大切ではない」という風に伝わってしまっていたのですね。

今の若い人ほど、「お金儲けというのはどこか悪いことで、お金儲け一辺倒の企業よりはNPOやNGOの方がいい」という意識を持っていることに、気付きました。

考えてみれば、学校教育の中で、非常に重要なお金について学んできていないし、それを教えるプログラムもない。でも、お金との付き合い方というのは、世の中を生きていく上でのすごく重要なリテラシーですよね。

この資本主義社会の中でやっていこうと思えば、お金というのは言葉と同じぐらい重要です。それに気付いてもらうためにも、この「お金」のことについて若い人達にずばっと言ってみたいな、ということで執筆したのがこの本です。

――これまでの著書にない初めての分野ですが、これまで発信されてきたメッセージとのつながりはいかがでしょうか?また、切り口が違うということで、特にこだわった点などはありますか。

取り扱うテーマは違っていても、全然違う軸で書こうという意識はなく、これまでずっと発信してきたメッセージと根っこの部分ではつながっています。今回の切り口としては、「アイカンパニー※」の会計、財務、戦略という出発点で論じるのがよかろうというところから書き進めました。
※ひとりひとりの個人が自身を“自分株式会社の経営者(=アイカンパニー)と見立てることが大切とするモチベーションの理論

お金を貯めたり使ったりということの手練手管を紹介するような陳腐な本にはしたくなかったので、「お金とは、どういう成り立ちでどんなメカニズム・機能を果たしているんだろう」といったことや、「お金とどうやって向き合えばいいんだろう」という本質論だけは割愛せずに展開することにこだわりました。

――そのような本質論については、どれも実体験から学ばれたことなのでしょうか?

経験的にもそうですし、また社会を見渡しても、バブルの崩壊後、失われた20年と言われる中で、どんどんデフレに入っていき、経済がどんどん安いものへと流れていっています。なぜそちらへ流れているのかといえば、消費者がそれを望んだからであり、その結果として、どの田舎町へ行ってももうほとんどシャッター街になってしまっているような状況が起こっています。

それは誰が悪いという話ではなく、我々がそういうお金の使い方をしてきた結果としてそういう事態を招いているのです。けれども、たとえばもう少し、「どういう町並みになったらいい」「どんな社会にしたい」ということを考え、そしてお金を使うことについて、「社会にお金というコミュニケーションツールを使って参画している」という気持ちを持つことが出来ればいいんです。

そうすれば全員が全員、安さに足が向くのではなく、「すこし高いけどこだわりのある商品に一票」といったことが起こり、もう少し社会も変わっていくのではないかと考えています。

――「特にこういう方に読んで頂きたい」というのがありましたら教えてください。

20代30代ぐらいの人です。この年代の方々というのは、これまでお金ということに対して見ないようにしてきた、蓋をして来た人が多いと思います。

また、お金の話をするのははしたないとか、そういう風潮も日本にはあります。そこはまさにタイトル通りで、「お金」はこの資本主義社会の中で生きていく上ではすごく重要な知見・切り口なので、20代30代の人には特に一度この本をきっかけに、きちんとお金と向き合ってもらいたいなと思っています。

かといって、お金ですべてが買えるんだ、などとは全然思っていません。だけどお金がなかったら困るということもまたリアルである、ということだと思います。企業を経営していても、このことを強く実感します。

――読者の方へ特に伝えたいメッセージを教えてください。

タイトルもテーマも「お金」ですが、一番意識してもらいたいのは、「自分は”自分株式会社”の経営者である」という捉え方、つまり自立的、主体的な人生やキャリアを切り開いていく人達がたくさん誕生することが、この国にとっていいことじゃないかということです。

読者の方々には、本書をきっかけに「自分株式会社の経営者」という意識に到達して頂けると、会社や社会にもたれかかるような生き方とはまた違う景色が待っているとお伝えしたいです。

◎IMGP7516

――小笹様の「読書術」について、おしえて頂けますか。

どのような本でも、一冊の本の中には著者の様々な経験や、著者が調べて編集した「伝えたい有効なコンテンツ」というのが詰まっていると思っているんです。

けれど、そんなに有効なコンテンツであるのにも関わらず、速読術などで読んだとしても何も覚えていないんです。一週間前に読んだ本のことを3分で要約して説明出来る人というのは、100人のうちおそらく1人もいない。

そういうことがあるので、私は、これはいいなと思った本については、5回も10回も読みます。そして、自分のものにします。私はこれを「本を食べ尽くす」と言っています。普遍的な哲学なり思想なりが入っているような本を、何十回も食べるんです。そして、そのエッセンスを自分のPCに打ち込み、やがてそれに自分なりの味付けをして、編集をして、新しいバリューとして今度は書籍なり講演なりに活かしていきます。

アウトプットを想定したインプットでないと結局身につかないですし、何回も食らいついて読むたびに自分が感銘を受ける場所が変わっていったりと、それによって自分も変化していることを感じるんです。

弊社ではコンサルタントに読んでもらいたい教科書的な書籍がありますので、社員には一回目はまず、ざっとわからないところがあってもとにかく読む、そして二回目は全体の章立てや構成を理解しながら読み、三回目はその中身を食べ尽くすぐらいに読め、ということを言っています。

だから、私の場合は冊数を読むというよりは、自分のものの見方が変わるだとかシナプスの繋がり方が変わるといった、普遍的な類いの書籍を何回も何十回も読むんです。ちょっと変わっている読書術だと思います。

――お忙しい中、どうやってそのような読書時間を確保されているのでしょうか?

新幹線で移動する1時間半とか2時間、移動中が一番集中出来ます。あとは休日です。

また私は本は紙派ですね。結局食べ尽くしたいんです。たとえば新聞とか、日々の情報は全部iPadで読みます。だけど、本は折り目をつけたり、線を引いたり出来る紙の方が、自分にはあっています。

本選びに関しては、書店で自分の好きな分野のコーナーに行って色々と物色して、というのが好きです。他の経営者から推薦があれば、それをネットで買ったりします。

――BOOK-SMARTについてお気づきの点があれば教えてください。

中身を確認してから買いたいという方にとって便利ですよね。自分の今の状態や今の自分に必要なコンテンツかどうかというのはある程度あたりがつくので、便利だと思います。

一方で、本の書き手側からすると、この要約を掘り下げたところの様々な論理構成や事例などがすごく伝えたいことでもありますから、面白そうと思ったら原著に食らいつき、食べ尽くしたらいいんじゃないかなと思います。(了)