
『21世紀の資本』
トマ・ピケティ/著
<要約を読む>
(1)『21世紀の資本』:
フランスの経済学者トマ・ピケティ教授が、20ヶ国300年に及ぶデータから経済格差の本質に迫った一冊。様々な解説書も出ていますが、本書でキーとなるのは「資本収益率(r)> 経済成長率(g)」という不等式。この状態のとき、格差は不可避に拡大し続けるというものです。
しかも、この格差は自律的なメカニズムによっては縮小しないといいます。これに対し、ピケティ教授が提示するのは高額所得者に対する「国際的な」累進課税です。
もちろんこの政策は、世界各国の協調体制や高額所得者からの反対など、乗り越えなければいけない壁は高いものです。しかし、これをいかに実現することができるかが、健全な競争社会としての資本主義の未来と言えるかもしれません。
ビル・ゲイツ氏も「理解できるが、これ以上税金は払いたくない」とコメントするなど、世界各国で学術書として異例のベストセラーとなっています。ぜひ原典を紐解いてみて下さい。

『グローバル・スーパーリッチ』
クリスティア・フリーランド/著
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(2)『グローバル・スーパーリッチ——超格差の時代』:
2005年、ビル・ゲイツ氏の財産は465億ドル、投資家ウォーレン・バフエット氏の財産は440億ドルで、二人の財産は、アメリカ国民のうち所得の低い40%、合計1億2,000万人の財産約950億ドルとほぼ同じでした。
本書は「プルトクラート」と呼ばれる、世界でも最も裕福な0.1%の上位富裕層が富を蓄積した方法から、根底にあるメンタリティまでを多くのデータ、丹念なインタビューから追ったノンフィクションです。
これらの超富裕層は、昔の金持ちと異なるといいます。彼らは努力家かつ高学歴で、信じがたいほど勤勉に働き、世界規模の厳しい経済競争を勝ち抜くだけの能力があると自負しています。
米国だけでなく、あまりメディアに露出しない中国、インド、ロシアなどの超富裕層についてのレポートも豊富で、「フィナンシャル・タイムズ」ベストブック・オブ・ザ・イヤーなどを受賞した一冊。
「労働する金持ち」として「富」だけでなく「権力」も手にし始めた彼らの描く未来は、そのままグローバル経済の未来として捉えることができ、興味深い内容となっています。

『ハイエク 知識社会の自由主義』
池田 信夫/著
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(3)『ハイエク——知識社会の自由主義』:
格差是正の議論は、ややもすると社会主義的政策の是認にもつながります。本書では社会主義とケインズ主義に真っ向から対立し、「真の自由主義思想」といわれるハイエクの思想をわかりやすく解説します。
ハイエクは、1974年にノーベル経済学賞を受賞し、彼の自由主義的政策はサッチャーの「小さな政府」、レーガノミクス、小泉政権の「構造改革」に引き継がれました。
ハイエクにとって、市場経済は自立的に働くシステムであり、戦後主流となったケインズ理論の政府による市場操作は幻想に過ぎないといいます。そしてこれは公共投資や金融緩和を中心とする現在のアベノミクスと相容れない立場です。
市場原理主義とも異なるハイエクの「自由」に対する洞察は、政治・経済のみならず、法哲学、脳科学、知的財産権を含むもので、今なお市場や資本主義を考えるうえで、示唆の多い内容となっています。

『グローバリゼーション・パラドクス』
ダニ・ロドリック/著
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(4)『グローバリゼーションパラドクス——世界経済の未来を決める三つの道』:
世界経済の行き過ぎたグローバル化に一石を投じ、発刊後12カ国語に翻訳されるなど、世界中で話題を呼んだ一冊。
「グローバリゼーション・パラドクス」(グローバル化の逆説)とは、(1)ハイパーグローバリゼーション、(2)国家主権、(3)民主主義は、三つ同時に達成することはできないという「世界経済の政治的トリレンマ」のこと。
そして、この三つのなかで犠牲にすべきは、グローバリゼーションであるというのが著者の主張です。政治経済分野の国際的権威である著者は、「政府の力が一国内に限定されているのに対し、市場経済は世界規模で広がっていることが、グローバリゼーションの欠点につながっている」と主張します。
中国やインドなど、著しい経済成長を遂げた新興国が、「グローバリゼーションのルール」ではなく、「ブレトンウッズ体制の頃のルール」(大規模な国家の介入を伴う様々な経済戦略)を選択していたという指摘は説得力に富んでいます。

『里山資本主義』
藻谷浩介、NHK広島取材班/著
<要約を読む>
(5)『里山資本主義——日本経済は「安心の原理」で動く』:
過疎化が進む中国山地で、”マネー資本主義”の対極である”里山資本主義”と名付けられた経済の在り方が広がりつつあります。本書ではNHK広島取材班と、地域エコノミスト、藻谷浩介氏らがその現場を丹念に紹介。
木材加工の廃材を活かしたバイオマス発電や、地域の資源を循環させた社会づくりなどの世界最先端の取り組みが多数紹介され、「お金に依存しない経済のあり方」である「里山資本主義」の姿が提示されています。
里山資本主義の特徴は、マネー資本主義と一線を画し、「物々交換」「規模の利益を追わない」「分業ではなく多能工型」などの特徴を持ち、日本が直面する少子高齢化、限界集落といった社会課題に大きなヒントを与えてくれます。2014年新書大賞、30万部突破の必読の一冊です。