『ブラックスワンの経営学』
(井上達彦/著)

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 やっても無駄なことを、ヨーロッパでは「黒い白鳥を探すようなものだ」(As likely as a black swan)と表現する。著者によれば、経営学におけるブラックスワン(ありえないような発見)は、「統計分析」による研究よりも、「事例分析」によって明らかになることが多いという。

 実際にマネジメントの学会では、統計分析ベースの研究が主流であり、最も権威がある学会誌『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル(AMJ)』の掲載論文の約9割を占めるが、最優秀論文アワードを受賞するような論文の半数は「事例研究」によるものである。

 本書では、AMJの「ベスト・アーティクル・アワード(最優秀論文賞)」受賞作の解説を通じて、事例研究やケーススタディがいかに経営学の「通説」を覆し、実務的にも有益な示唆が得られるかを明らかにする。科学的に厳密な手法によって確認されたそれらの最新事例は、単なる事例集にとどまることなく、意思決定、マネジメント、イノベーションなどの観点からそれ自体非常に興味深い内容となっている。

著者:井上 達彦(いのうえ たつひこ)
 早稲田大学 商学学術院 教授。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了(経営学博士)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授、早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。2011年9月より独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、2012年4月から2014年3月までペンシルバニア大学ウォートンスクール・シニアフェローを兼務。2003年経営情報学会論文賞受賞。専門分野は、競争戦略とビジネスシステム(ビジネスモデル)。
主な著書に、『模倣の経営学』(日経BP社)、『情報技術と事業システムの進化』(白桃書房)、『事業システム戦略―事業の仕組みと競争優位』(共著、有斐閣)、『変貌する日本企業の戦略インフラ』(共編著、白桃書房)、など。
第1章 「UFOが来る」と信じる人にも理由がある
第2章 凋落した教会で起きた「例外的な再生劇」
第3章 新聞社の意思決定に生じた「ねじれ現象」
第4章 ハリウッド脚本家の「創造性判定」
第5章 「優れた医療イノベーション」が普及しない理由
第6章 ベンチャー企業のM&Aにおける「裏切り」
第7章 ビジネスの実務に役立つ事例研究の方法
推薦者コメント
Akie Iriyama入山 章栄<経営学者/ 早稲田大学ビジネススクール准教授>
三菱総合研究所にて主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院博士号を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任。2013年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。(>>推薦書籍一覧

 現在、海外の経営学において主流となっているのは「統計分析」であるが、その一方、世界最高の経営学会(「アカデミー・オブ・マネジメント」)が最優秀論文として選ぶ論文の半分は「事例分析」、つまりケーススタディによるものである。

 そこでは、誰でも親しみの持てる現実の事例から、非常に深い洞察がなされている。本書は、この事例分析を用いて、生々しいビジネスの事例を世界最先端の知に触れながら読み解ける内容となっている。

 どんな方にもお薦め出来るが、経営学について「具体的な事例が乏しい、抽象的だ」と考えている方々に、特にお薦めしたい。(入山章栄)

野間幹晴野間幹晴< 一橋大学ICS准教授>
一橋大学大学院商学研究科にて博士号を取得後、2002年より横浜市立大学商学部専任講師に就任。2004年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)助教授を経て、2007年より現職。(>>推薦書籍一覧

 「ありえない」と思われている現象が現実に起きることがある。例えば、映画「クールランニング」で一躍話題になったように、ジャマイカは冬季五輪の種目であるボブスレーに何度か出場している。

 「ジャマイカは赤道近くの国にもかかわらず、なぜ冬季五輪に出場できるのか?」という疑問が自然に生じるのは、これが直観に反する現象だからである。経営の世界にも、直感に反する現象がある。

 本書は、経営学で最も権威のある雑誌『アカデミー・オブ・マネジメント』に掲載された論文の中から、こうした直観に反するケースを分析した論文を紹介した好著。

 経営学に関心のある学部生や、経営学の意義について疑問を持っているビジネスマンに、是非、読んで欲しい。経営学の一側面について理解ができる。(野間幹治)

要約ダイジェスト

ブラックスワンを見つける方法

 文芸評論家のナシーム・ニコラス・タレブは、「ありえない」ことをブラックスワン(黒い白烏)にたとえた。オーストラリア大陸でブラックスワンが発見されるまで、黒い白鳥の存在は「ありえなかった」からだ。

 ありえないと思っていた出来事に遭遇したとき、人は思わず「バカな」と心の中で叫んでしまう。しかし、冷静になって考えてみれば可能性は十分にある。それに気づくことで、人は学習のレベルを引き上げていくのだ。

 マネジメントの研究では主として2つの方法が使われてきた。1つは事例研究で、もう1つが統計学を用いた研究である。事例研究というのは、

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